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暗躍

 フリードが目を覚ましたのは、帰還してから三日後の事だった。フリードと共にデス領へ入った三十人の内、帰って来れたのはフリードを含めて三人だけとなってしまった。

 ヨハンは無くなった二十七人に祈りを捧げ、満身創痍で帰ってきた三人をヨハン自ら治療魔法をかけて治した。


「ご迷惑おかけしたっす」


 目覚めたフリードは、ヨハンを見て謝罪を口にした。ヨハンはフリードに対して首を振り笑顔になる。


「お前が戻ってきてくれたことだけでもありがたいよ」

「へへ、戻ってきた甲斐があったっす。ヨハン様に伝えたい報告があるっす」

「聞かせてくれ。お前達に何があったのか」


 ヨハンは身体を起こしたフリードに、暖かい飲み物を渡してやる。フリードの体調を気遣いながら、フリードが話すまで待った。


「おいらたちは死人グールを追いかけて、デス領の奥深くまで侵入したっす。デス領の中には常にホーンナイトが巡回してるっす。おいらたちはホーンナイトを掻い潜り、死人グールを追うため十人づつ三隊に分けたっす」


 フリードは思い出すように一言一言をゆっくりと語り出す。


「他の隊のことは、そこからわからないっす。帰ってこなかったことで多分失敗したんだと思うっす。おいらたちは運良く死人グールと思われる奴を見つけることがでたっす。そして冥王城まで追っていったっす」

「冥王城?」

「そうっす。恐い城でしたっす。あれは間違いなく冥王城でしたっす」

「そうか、それからお前達はどうしたんだ?」


 話す内にヨハンも続きが気になり、フリードに催促するように言葉をかけてしまう。


「待っても意味がないと思ったので、おいらたちは城への侵入を試みたっす。城の中は広く、外にいるボーンナイトだけでなく、ゾンビやレイスなどもいたっす。完全に隠れることは難しかったので数度戦闘を繰り返し、奥の間へ侵入することができたのは、おいらを含めて五人だけだったっす」


 フリードは仲間を失ったときのことを思い出したのか、辛そうな顔をしていた。


「今日はこれぐらいにしておくか?」


 ヨハンはフリードの辛そうな顔を気遣い、体調のことを考えて休むように促す。


「いえ、話をさせてほしいっす。仲間のため、おいらたちの情報をヨハン様に生かしてほしいっす」

「そうか、なら頼む」


 フリードの覚悟に、ヨハンはそれ以上何かを言うことをやめた。


「おいらたちが城の奥深くに侵入したとき、白いフードを被った一団が冥王と思しき男と謁見してたっす」

「白いフードの一団?」

「そうっす。多分七、八人いたっす。そいつらが冥王に大きな荷物を渡していたっす。その荷物の中から出て来たは女性の遺体だったっす」

「女性の遺体?誰のかわかるか?」

「申し訳ないっす。そこまでは無理でしたっす。おいらたちもそれを突き止めようと気配を出し過ぎたっす。そのせいで冥王と思われる男に見つかり、その殺意から全員で必死に逃げたっす。でも、おいら達を逃がすために、さらに二人が……」


 フリードはそこで言葉を切り、悔しそうに自らの足を叩いた。ヨハンもまたフリードの悔しさが分かるせいか、言葉をかけることが躊躇われた。それでもヨハンはフリードに言葉をかける必要があった。


「フリード、ありがとう。お前達のお蔭でいくつかわかったことがある」

「お役に立てたっすか?」

「ああ、十分にお前達は役に立ってくれた」


 今回、フリードが調べてくれた情報を下に、ヨハンはある仮説を立てることができた。


「フリード、確かめたいことがあるんだがいいか?」

「なんでも聞いてほしいっす」

「白いフードには何か紋章のような刺繍はされていなかったか?」

「ちょっと待ってほしいっす」


 自らの記憶を探るように思考を巡らせる。


「紋章らしきものはなかったと思うっす。でも、白いフードの首筋に青いラインが入っていた気がするっす」

「青いライン。フリード、よくやった」

「えっ?えっ?どういうことっすか?説明してほしいっす」

「白は元エリクドリア王国の色だ。そして青はランスの聖剣を意味して、教会が新しいフードに取り入れた色なんだ」

「それって、まさかっすが」


 フリードもヨハンの言いたいことを理解できたようだ。白いフードの集団はランス王国から来た使者なのだ。即ち、ランス王国の誰かが冥王と密約を交わしていたということになる。


「ただ、わからないのはどうして冥王が動いたかだ」

「どういうことっすか?」

「わからないか?今まで冥王は精霊王国連合には一切手を出してこなかった。それは冥王がこちらに興味がなかったからだ。しかし、今回冥王の命令で精霊王国連合に加盟しているグール族を滅ぼそうとしてきた。それは冥王に何らかの興味をランス王国が示したってことだ」


 ヨハンの言葉を聞いて、フリードは驚いたような戸惑ったような顔をする。


「これから冥王が攻めて来るってことっすか?」

「そうなるかもしれないが、そうじゃないかもしれない」

「ヨハン様、言うことがどんどん難しくなってきて、おいらにはわからないっす」

「すまない。簡単に言うなら、今回はランス王国が何かをプレゼントすることで、冥王は動いたんじゃないかと思う」

「プレゼント?」

「そうだ。それがフリードが見た死体だと俺は思ってる。だから、警戒は必要だが、そこまで冥王がランス王国のために動くとは思えない」

  

 ヨハンは楽観しているのではない。ヨハンなりに冥王と言う男のことを考え、フリードの情報を得て出した結論だ。


「でも、どうして冥王はランス王国からのプレゼントを受け取ったぐらいで動いたんっすかね?」

「それだけ嬉しいものだったということだろうな。しかし、いったい誰の死体だったんだろうな」


 ヨハンがその女性の死体の正体を知るのは、もう少し先のことになる。ただその女性はヨハンにとって深い関係を持つ女性だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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