教会の申し出
精霊王国連合の下へ、聖女アクアの名前で使者がやってきたのは四年目の春のことだった。聖女アクアは教会を改革し、亜人種を一般的な市民として認めたことを知らせてきた。そして聖女アクアから、精霊王国連合内にも教会が救済したいという内容が書かれていた。
それは精霊王国連合に教会を立てさせてほしいという内容だったのだが、正直作られても嬉しいことなど何もない。
しかし、普通の人々は教会を欲する。それはこの世界の真理に通じるものだが、冒険者などは教会で回復してもらえ、市民たちには教会が病院の役割をしてくれて回復魔法や炊き出しを行うのだ。教会は街のステータスであり、生活の一部として組み込まれている。
「厄介な注文だな。突っぱねれば人々の中に波紋を生みそうだしな」
聖女アクアは人の心理を上手く突いた手で、精霊王国連合に介入しようとしてきたのだ。
「王国側が共和国領に手を出してきたのもこれが狙いか?」
王国は戦争と言う形ではなく。王国が管理している共和国領の安定化を名目に、視察団を組んで共和国領内を巡回している。
精霊王国連合と銘打った場所には侵入していないが、教会が作られてしまえば連合内の事情も少しづつ王国に漏れていくことだろう。それは態々スパイを招き入れるようなものなのだ。
「断ることはできないか?」
現在ヨハンは三十二機関の幹部達の前にいる。三十二機関というのは最高幹部達に由来しており、三十二人の人物の事を差している。そのため三十二人とヨハンが顔を突き合わせて相談をしていた。
「それは無理じゃろうな」
三十二機関公共事業担当大臣、ドワーフのゴルドーはため息交じりにヨハンの言葉を否定する。
「やっぱりそうかな?」
「そうですね。我々にも我々の神がおりますので、やはり神を否定されるのは辛いです」
三十二機関自然管理担当大臣、エルフのシーラが教会の方針に賛同する。彼女達エルフは森に住み、世界樹を神と崇めている。それはユグドラシル族なども同じようで、シーラの横で頷いている。
「まどろっこしいなら俺が潰してきてやろうか?」
物騒なことをいうのは、三十二機関魔族相談担当大臣、死霊王ことデッドラー・ウルボロスだ。彼は帝国の宰相という枷を外してからは、若返ったように魔族と喧嘩の毎日をおくっている。魔族は力が全てであり、力を示すことで従え続けられるのだ。
デッドラー・ウルボロスと共に巨人族のジャイガントも喧嘩をしているので、以外に元八魔将同士で仲良くしているようだ。
「まぁそれも視野には入れたいけど、なるべく暴力のない形で収めたいな」
せっかく戦争が終結したのだ。連合と王国がまた戦争にならないように配慮はしたい。実際教会を作りスパイ行為をするだけなんらば問題はないのだ。こちらの情報を得て、王国が良くなればこちらとしても願ったり叶ったりなのだから。
「ならば、人族の街限定にして試作の教会を立ててみてはいかがですかな?」
人族代表としてこの場にいるのは、三十二機関冒険者ギルド管理担当大臣、マスターローガンである。
「それは冒険者ギルドが管理するのかね?」
ローガンの横に座る。三十二機関通貨担当大臣、ホテイが不満そうに質問を投げかける。
「管理と言うよりも、監視と言った方がよかろう」
ローガンの不敵な笑みに満足したのか、ホテイもそれ以上何かを突っ込むことはない。
「冒険者ギルドが監視してくれるなら、まぁ良いか、とりあえず一番王国に近い街に作ってもらおうかな」
「それがよろしいかと」
ヨハンが納得したことで、異論を唱える者はいない。それはヨハンに決定権があるからではなく、単純にそれでいいと全員の意見が一致しただけなのだ。
多少思うところがある者もいるが、自分達に害が及ばないなら問題はないと思っている。
「他にも議題がたくさんあるからね。今日は何日で終わるかな」
三十二機関の大臣達が全て揃うことは一年に一回だけなのだ。そのときの一年の報告や、次の年の方針等が話し合われる。
ローガンとホテイのようにあまり仲の良くない大臣もいるが、二人で話す合うのではなく、皆とヨハンがいることで、ある程度意見を譲歩して賛同している。
「前回は確か十日ほどでしたか?」
そうなのだ。話し合う案件が多すぎて一日で終わることはまずない。基盤となる組織も合わせて、すでに三度目になるが、今年も問題が山積みで十日で終わるかどうか。
「食人種は第四ダンジョンでしたな」
「それはまた面倒な仕事が増えそうだ」
ホテイが確認して、ローガンが溜息を吐く。それぞれの機関の案件を議題として上げては話し合い解決していく。
解決した内容は精霊王国連合に住む者達に新たな法律して伝えられ、解決しなかったものは調査としてまた来年に持ち越される。
そうして全ての議題が話し終わるのに二週間を要した。
いつも読んで頂きありがとございます。




