冥王ハーデス
ラース帝国、フィッシャーアイランドと二つの国が新たに建国されるなか、西の片隅、帝国領の最西に一人の男が建国しようとしていた。
彼の傍らには骸骨になった腹心が付き従っている。彼は帝国を荒らしまわった後、天帝崩御を聞きはしたが、敵対関係にあった闇法師を追いかけこんな場所までやってきていた。
「どうにもジメジメした感じを受けるな」
山間に位置する土地は沼地が多く、普通の人ならば決して住処として選ぶことのない場所であろう。しかし、男にはジメジメとして薄暗い雰囲気が、どうにも落ち着く雰囲気が落ち着くように思えた。
「ここに拠点を構えるか」
「ここにでございますか?」
それまで黙って付き従っていたホーンナイトが言葉を発する。
「そうだ。俺は死霊を操ることができる。ネクロマンサーというやつだな。別に生きた人間が住むわけではないのだ。これぐらいの方が落ち着くだろう」
男の言葉に骸骨となった腹心はやれやれと両手を広げる。彼は肉体を失おうと思考する知能があり、男の忠臣として働いている。
「かしこまりました。では、冥王ハーデス様に相応しい城を気づきましょう」
腹心である骸骨が男の名前を言い後ろに控える者達に見えるように片手を上げる。すると、数十万の骸骨兵が立ち上がり、作業へと取り掛かる。
彼らは先のアリルーア草原の戦いにて黒騎士と共に戦った者や、死闘を繰り広げた者達だ。あまりにも多くの者が死んだため埋葬もされず、燃やされただけで放置されていたのだ。
冥王は闇法師を追いかけるついでに、共和国に戻り彼らをホーンナイトとして蘇らせた。中には思い出深い赤い鎧をきた兵士もいたが、特別扱いするつもりはない。
「皆の者、城を築け」
腹心の男の名はジャネラルと言う。冥王が懐けた名前だが、ホーンナイトの将軍という意味も込められていた。最初こそ話すことができなかったが、今では冥王の魔力受けて会話もできるようになり、指揮をする者として見合うだけの力も手に入れていた。
「ジャネラル、あとは任せた」
「ハーデス様はどちらへ?」
「新たな兵を作りたいと思ってな。この辺には面白い種がいるようだ」
冥王ハーデスは新たな配下を作るべく、沼地をさらに奥へと進んだ。
「魔族よ。我の住処になんのようだ」
ハーデスが奥に進むと地鳴りのように響く声がして、ガマガエルを大きくしたような巨大な生物がハーデスの前に姿を見せた。
巨大な蛙は頭に提灯のような明かりを灯し、鋭い瞳でハーデスを睨み付ける。
「貴様はこの辺りの王か?」
「我が王だと?笑わせるな。我は単なる使いに過ぎぬ」
「そうか、ならば貴様に用はないな」
ハーデスは右手の爪を伸ばし、ガマガエルの身体を貫いた。
「なっ!」
「貴様に生はいらぬ。俺の乗り物となるがいい」
ガマガエルを一撃で倒し、ハーデスは呪文を唱える。ジェネラルの時とは違いある程度肉を残して置かなければ乗り心地が悪い。
そのためガマガエルのゾンビが出来上がった。
「なんとも悍ましいな」
「ウゴー」
話すことのできないガマガエルゾンビの上に乗り、ガマガエルが案内する沼地の王の下へ訪れた。
「貴様は誰だ」
沼地の王は、泥にまみれたドラゴンが現れる。どうにも泥臭いドラゴンに冥王は顔をしかめた。
「臭うな」
「何を申すか、我こそは由緒正しき、ラドンドラゴンの血脈なるぞ」
「ラドンドラゴン?聞いたこともないな。これからこの場所は我の土地とする。出ていくというのならば命は助けてやろう。出ていかないのであれば、死ね」
ハーデスの言葉に、ラドンドラゴンは怒りを露わにして奮い立つ。
「我の土地を奪おうとは身の程知らず目が、ラドンドラゴンの力見せてくれよう」
そういうと泥にまみれた体を震わせ、一つまた一つと体の中から頭が現れる。数えるのもめんどくさくなるほど現れた頭に、ハーデスは面白い見世物を見るように見つめていた。
「どうだ。我こそがラドンドラゴンの正当なる後継者。この百の頭がそれを物語っておるわ」
「まぁ意味はわからんが、とりあえずキモイドラゴンだということだな」
ハーデスの言葉に、ラドンドラゴンの百ある頭が震えだし、ブレスを放とうとする。
「どうでもいいが、百の頭を持っていも体は一つなのか?」
泥にまみれた胴体部分を見つめ、そう問いかける。
「そうだ。それがどうした。貴様は我の体に触れることすらできぬ」
「そうか……いや、ずっと腹が見えてるぞ」
そういうとハーデスはラドンドラゴンの腹に触れ、力を込める。
「「「何っ!このラドンドラゴンである。我が負けるとは!!!」」」
百の頭でエコーがかかった声で、ラドンドラゴンが絶命した。
「弱すぎるだろお前、まぁ番犬にはちょうどいいか」
ただただバカでかいラドンドラゴンに呪文をかけて、ドラゴンゾンビを作り上げる。
「魔物によるモンスターゾンビ軍団でも作るかな」
冥王はホーンナイトに続き、新たな兵を手に入れた。
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