新生ラース王国
いよいよゲームの世界から飛び出し、それぞれに歩みだしたランスとヨハン、本編の始まりです。
天帝を討ち果たし帝国を滅ぼした、英雄ランスは王国に帰り、ミリューゼ王女と結婚をした。民に祝福された結婚であったことは間違いない。
隣国である獣人王国エルドール王国と同盟を結び、新たな王キングルドルフ・キングダムと協力関係となった。さらに妹のティア・キングダムがランスの第二夫人として迎えられたことで、協力関係は強固となり、ランスとキングルドルフは義理の兄弟となった。
またラース王国が認めるエルフの里を新たに作り、その女王としてシェリル・シルフェネスが就任した。彼女の配下となる精霊族は民として認められ、シェリルがランスの第三夫人なったことで、エルフの里はラース王国の傘下に入ることになる。
獣人、精霊はラース王国の目の届く範囲に自治が認められ、住民を表す番号が割り振られた。番号を持つ者はラースの民であり蔑まれることはない。
逆に番号を持たない獣人、精霊族、魔物、魔族などは、民としてすら認められず、奴隷以下の扱いを受けることとなる。
これらの出来事を教会主体で行われ、ラース王国に逆らう者は断罪の対象とされた。
ランス自身は三人の妃と二人の側室を迎え、王としての歩みを始めた。しかし、その歩みは順調と呼ぶには程遠いものだった。
「宰相、これはどういうことだ?」
ランスは円卓のテーブルを囲むように上座に座り、それぞれの代表者と話をしている。円卓の席が作られたのはランスの考えであり、王も貴族も民も平等であると訴えるためだ。
「はっ、元ガルガンディア地方はジェルミー卿が引き継ぎ運営することを認める書類ですが?何か?」
宰相となったのはセリーヌだった。彼女はミリューゼの推薦もあり、王国の宰相として就任した。他にも円卓に座るのは、妃のミリューゼ、宰相セリーヌ、軍務大臣カンナ、教会の使者としてアクアがいる。
それ以外のメンバーは獣人王国の外交官ローリー、精霊族の代表シルベスタ、冒険者ギルド、ギルドマスターのフェスタ、商人ギルド、ギルドマスターのダイコクの両ギルドの協力により、各都市を監視している。
また王都に住まう者は区間分けされて、新たに作られた役職である自治会長たちによって報告されていく。
「それはわかっている。ヨハン・ガルガンディアの捜索はどうなっている?」
ランスは苛立っていた。自身の政策が上手くいかないこともあるが、王の就任と共に聞かされたヨハンの反逆、はっきり言って嘘だとすぐに気づいた。
しかし、外堀はすでに埋められていたのだ。今更ミリューゼを裏切り、ヨハンにつけるほど自分の立場は軽くない。ランスは全世界の英雄という重みが両肩にのしかかる。
「今だ消息不明です。ですが、元共和国領内に潜伏している恐れが一番高いようですね。あそこにはヨハン・ガルガンディアが作ったと言われるダンジョンが存在しますので」
ヨハンはセリーヌたちの網を潜り抜け、ジャイガントたちと共に行方を眩ませていた。ドワーフやノーム、エルフやコボルトなども同じように消息が分からなくなっていた。
ランスはすぐにでもヨハンを見つけ出し、無実を証明したいと思っていた。時間が過ぎるとともに、世間的にも、ヨハンは反逆者であったと認知されてしまうからだ。
「引き続き捜索を頼む……ガルガンディア地方は大丈夫なんだな?」
「はい。ジェルミーは優秀な男であると我が妹が申しておりました」
セリーヌの返答にランスはそれ以上何かをいうことはなかった。ランスの叫び声が収まったので、これまでの現状確認や、これからについてが話し合われ、会議の終盤に差し掛かったところで、アクアが報告を始める。
「昨日報告がありました。ガルガンディア地方に住んでいたゴブリン、オークの集落を断罪に成功。死者は約二万ほどになっと思われます。こちらにも多少被害が出ましたが、問題ありません」
アクアの報告にランスは奥歯を噛む。教会が主導で行っている断罪は、ランスが就任するよりも前に、アクアが提案し、ミリューゼとセリーヌが認めたのだ。
主な標的はガルガンディア地方から東方に住む魔物の駆除ということになっているが、明らかにヨハンの戦力を削ぐための処置なのだ。
それに対して、魔族や魔物に嫌悪感を持たない、ランスは黙って聞くことしかできないでいた。
「以上ですね。では本日の会議を解散とします」
セリーヌの言葉で、円卓に座っていた者たちが席を立ち、会議場を後にしていく。ランスは戦いにおいては無類の強さを誇るが、政治や国の運営に関して何も学んでこなかった。
だからこそセリーヌやミリューゼの動きに気付くことができず、今の現状に甘んじることしかできていないのだ。
「ヨハン、お前がいれば」
会議場に残ったランスは傍にいない、ただ一人の友のことを想った。
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