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閑話 天帝の最後

 厳かで巨大な建物がランスの前にそびえ立つ。それは帝国の中央都に象徴として起っている天帝の城である。

 ランスたち勇者一行は、近衛兵士たちをなぎ倒していく。竜騎士を倒したことで、ランスたちの行く手を阻む者はいないも同然だった。

 マッドサイエンティストが立ちはだかったが、マッドサイエンティストによって作り出されたキメラたちを倒していくと、奴は逃げ出してランスに手を出さなくなった。


「キメラって強いくせに気持ち悪いから最悪ね」

「ええ、クマと蛇とか、蛾とモグラとかセンスを疑います」


 ミリューゼの言葉に、レイレが反応する。ランスたちが倒してきたキメラや近衛兵たちを思い出し、最後の間へと入ろうとしていた。


「いよいよね」

「俺達、やったな」


 シェリルは意気込み、ルッツはここまでの道のりを振り返る。


「油断できない」

「そうですね。最後まで気を抜きません」


 サクラが引き締め、ティアが意気込む。それぞれの思いはある。それでもここまでやってきた達成感から何か言わずにはいられなかった。


「いくぞ」


 ランスの言葉に、全員が武器を構え直し扉に手をかける。ただ一人の人間以外、誰もその部屋にはいなかった。玉座に座り、ランスたちを待ち受ける。その部屋には階段があり、最上段にはフルアーマーを着込んだ男が巨大な剣を地面に突き刺し静かにランスを見る。


「よくぞ来た。英雄ランスよ」

「あなたが天帝か?」

「そうだ。我こそが帝国の象徴にして、天からこの地位を与えられた者、天帝である」


 天帝が話をしたことで存在感が増していく。ルッツやレイレは足が竦み立っていられない。彼らはあくまでランスの仲間ではあるが、ここに立つことを許された主人公でもヒロインでもないのだ。


「お前を倒して王国に勝利をもたらす」


 ランスは剣を構え、最後の間へ足を踏み入れる。


「英雄よ。貴様は何を望む?」

「王国の勝利を」


 天帝の質問に、ランスは階段に足を踏み出し応える。


「英雄よ。貴様に未来はどう見える?」

「人々が争わず、笑って居られる未来を」


 あと数段で天帝まで剣が届く距離までやってきた。ミリューゼの槍ならば、この位置から届くだろう。


「英雄よ。王は孤独だぞ。それでも進むか?」

「俺は王にはならない。皆と共に平和を目指す」

「それは険しい道ぞ」

「覚悟はできている。俺には俺を支えてくれる仲間がいる」


 ランスが天帝の目の前に立ち、天帝が巨大な剣を振り上げる。


 もう言葉はいらない。


 天帝の剣と、ランスの聖剣がぶつかり合う。天帝の剣が聖剣によって切り裂かれていく。


「おお、これが聖剣の光か」


 天帝は目映い光に神を見る。聖剣はそのまま天帝の首を撥ね飛ばし、全ての宿命を終わらせる。


「天帝の最後だ」


 ランスは聖剣を高々と掲げ、天帝を討ったことを示した。天帝の最後をどこからか知った文官たちが最後の間に現れる。その他にも駆けつけた兵士が、天帝の姿を見つめ帝国の最後を知ることとなる。

 彼らは無言で祈りを捧げる姿勢を取り、天帝を弔った。


 天帝が討たれたことで、帝国兵は武器を捨て投降していった。ここに残る兵士は僅かで、帝国と言っても数々の国を滅ぼし配下に納めてきて成り立っていた。

 天帝が死んだ今、滅ぼされた国々の民は、帝国に従うことはなく自らの国や種族に従い名乗りを上げることだろう。

 それは次第に大きな波となり、民衆の間で暴徒を起こした。城へ民が溢れ、一時帝国は沈み革命が成立した。


「やったわね。ランス」

「ああ、これで本当に戦争は終わりだ」


 革命のため集まった民衆を沈めるため、ランスは天帝の首を民衆の前に掲げた。王国の英雄ランスが天帝を討ったことを改めて全世界に宣言したのだ。

 民衆の心を一つにし、英雄の名を世界に知らしめた。


「英雄ランス!」

「「「「ランス、ランス、ランス」」」」


 民衆はランスを称え、冒険者ギルドによって全世界に天帝崩御が知らされ、英雄ランスの名が世に広まる。

 帝国の民として戦いを続けていた死霊王、闇法師は天帝の死を知り降服した。帝国は天帝、宰相の不在により、内務卿を名乗る文官と和平交渉を始めた。

 天帝という人物だけで天帝は成り立っていたため、天帝を失ったことで帝国は脆く崩れ去っていった。


「これで、やっと国に帰れるわね」

「ああ。帰ったら、俺と結婚してくれるか?ミリューゼ」

「もちろん。私もこの時を待っていたわ」


 正妻はミリューゼに譲ったヒロインたちも、側室になることが決まっている。ランスは帝国を倒したことで、王国と帝国を統一した。これにより統一王となることが決まっていた。

 ランスは王になるつもりはない。彼が成ろうとしているのは、民の代表だ。民の声を聴き、天帝が言うような孤独にはならないように、民の意見を聞いていこうと決めていた。


「さぁ、みんなで帰ろう」


 ランスの仲間たちは思い思いの心境を抱えながらも、それでも思うことは一つだけだ。戦争の終結を喜んでいた。

 

 ただ一人を除いて……


「わかっているわね」

「本当になさるのですか?」

「この先、障害になる者はいなくなってもらわなければ」


 ミリューゼは密かに、レイレによって命令書をセリーヌに送らせていた。


「ヨハン・ガルガンディア、あなたには生きていては困ります」


 ランスが民衆に手を振る裏で、ミリューゼはある計画を実行しようとしていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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