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終結

この話により元帥閣下編を終了します。


次回から閑話を数話挟みます。



 リンの読みは間違っていなかった。死霊王は自身の魂を髑髏の仮面の中に封印していた。どうして誰からも見える弱点を晒しているのか、それは死霊王自身が施した魔術による制約であった。


「まさか不死身の身体が、こんな形で崩れるとはいやはや」


 自身の天幕に戻った死霊王は、崩壊寸前の髑髏の仮面を見つめ、溜息を吐きつつ、自身の施した術の解除を行っていた。

 軍の指揮は滞り、今まで通り間所を過ぎた王国兵を追う者は帝国兵にはいなかった。最初の奇襲により多少被害は出たが、それ以降は帝国側が有利であったため、損失したのは一万か二万程度である。

 二十万の軍勢と衝突して、被害がそれで済んでいるのだ。ありがたいと思わなければならない。


「しかし、侮っていましたね。まさか、ヨハン・ガルガンディアを討っても、攻めてくる気概が王国にあるとは」


 死霊王は、他の将軍たちの存在をもちろん知っていた。知っていたが、軽んじていた。所詮は小娘たちには何もできるはずがないと思っていたのだ。


「ふぅ~なんとか生き返った」


 死霊王は秘奥義の解除に成功し、自身の心臓が脈打つのを感じる。


「生きてるっていうのは本当にいいねぇ~空気がおいしい」

「死霊王様!」


 ホッと息を吐いた死霊王の下へ、報告が舞い込んでくる。王国兵が再度攻めて来たのか死霊王は思った。


「王国兵かい?」

「いえ、天帝様が!」


 報告兵の言葉に、急いで死霊王は天幕を飛び出す。


「何があった!」

「天帝様が崩御なされました」

「なっ!どういうことだ!」


 死霊王は部下の魂を喰らいそうな勢いで、報告兵に食って掛かる。


「王国の英雄ランスが、天帝様の居られる聖都に出現し、防衛しておりました近衛達を蹴散らして天帝様を討ちました」

「なっなんてことだ。では、我々は、我々はどこに帰ればいいと言うのだ」


 死霊王にも城はある。だが、天帝のいなくなった今となっては、帝国が分裂することは目に見えている。いくら五十万の兵がいようと、今すぐ聖都に戻ってランスを討っても意味がない。


「伝令!」

「今度はなんだ!」


 頭の中がパニックに陥りそうな死霊王は、続けてやってきた伝令に怒鳴り声を上げる。


「ゴブリンと思しき軍団が、河の下流からやってきます。その数一万、さらにフィッシャー族二万も続いてるようです」

「悪いニュースは続くものだ。迎え撃つ準備を」

「それが、王国兵も部隊を再編してこちらに向かっています」

「まだ懲りていないのか、御嬢さんたちは」

「それが、王国兵の先陣を切っているのはジャイアント様のようです」

「何っ!あいつめ、天帝様への恩を忘れた挙句、私まで討つつもりか」


 死霊王は次々と報告される事態に、進退窮まったことを知る。そして一つの結論が頭を掠め、息を吐き気持ちを整理する。


「冷静にならねばならぬな。皆に伝えよ。帝国は敗北した。王国と和平交渉に入りたい。相手は王国軍第三将軍リン・ガルガンディア殿と記せ」


 死霊王なり最後の皮肉である。夫であるヨハン・ガルガンディアを討った相手から書状が届くなど、皮肉でもなんでもないだろうと考えたのだ。

 死霊王は、白旗を上げて降服を示した。帝国兵達もそれに習い武器を捨てた。王国兵はすぐに帝国兵を取り囲み、将軍たちを捕まえた。


 死霊王の処遇について、王国兵を代表してリン・ガルガンディア、カンナ・ゼイナール、セリーヌ・オリンポスが取り仕切ることとなっていた。

 しかし、いざ裁判が始まろうとして死霊王が尋問室に入れば、そこにいたのは三人の女性たちではなかった。


「皮肉とはこういうことをいうのかもしれんな」


 死霊王はリン・ガルガンディアに皮肉を込めて書状を送った。それは死霊王がヨハン・ガルガンディアを討ったからである。しかし、討ったはずの人物が目の前に座っていた。


「さぁね。ただ俺は生きている」

「死霊王の名を君に献上したいぐらいだよ。私が獲物を仕留めそこなったのは初めてだ。君は不死身かい?」

「運がよかっただけさ、後はフィッシャー族のお蔭だな」

「彼らを仲間につけたか、貴殿もなかなかに面白い御仁のようだ」


 ヨハンの顔を見た死霊王は驚いていたが、ヨハンが発する言葉には動じることなく、むしろからかうようにヨハンに話しかけ続けた。


「我々はどこで間違ってしまったのだろう」

「あんたたちは何も間違っちゃいないさ。このゲームはシナリオ通りに進み、もうすぐクライマックスを迎える」

「シナリオ通り?」

「意味はわからなくていいさ。ただ、英雄が誕生するだけだ」


 ヨハンの言葉に、死霊王は不思議そうに首を傾げ、手が空いていたならば両手を広げていたことだろう。


「すでに君達には英雄がいるだろ?」

「ああ、そういう意味じゃないさ。王国も帝国も関係ない。悪しき王を倒したことで、真の英雄が誕生するってことだ」

「君は面白いことを言う。人は英雄など求めていないよ。必要なのは統治者であり、指導者だ」

「あんたは案外いい人なのかもな」


 ヨハンの言葉に、死霊王は目を大きく開き、そして笑い出す。


「私がいい人かい?そんなこと久しぶりに言われたな。君との話は面白いだが、そろそろ時間ではないかね?」


 いつまでも採決を下さないヨハンに、死霊王の方から採決を望むように申し出てくる。


「採決か、きっと王国にあんたを送れば死刑は確定だろうな」

「そうか、私は死ぬのか……」

「いや、俺としてはあんたには生きていてほしい」

「どういう意味かね?」

「帝国の領土は広い。これまで帝国が滅ぼしてきた数々の小国家や国々がそのまま運営できているのは、それらを一手に仕切るあんたの采配だろ。その仕事を王国のために続けてはくれないか?」

「本気で言っているのかね?」


 ヨハンの申し出に死霊王の方が、驚いた顔をする。


「君は本当に面白いことをいうな。私を生かすというのかね?」

「そうだ。あんたには生きて、俺の助けをしてもらう」

「そんなことして、大丈夫なのかね?」

「体面上は、あんたには死んでもらう。その後、俺の下へ来てくれないか?」

「ふふふはははっははは。本当に面白い。この歳になって、このような面白いことを言われるとは思わなかったぞ。ヨハン・ガルガンディア、どうしてジャイアントやシーラなど帝国に忠誠を誓った者が貴殿に寝返るのか、わかったような気がするぞ」


 死霊王は盛大に笑いヨハンの申し出に対して、快く受け入れた。


「この老骨、最後の花を貴殿の下で咲かせたくなったわ」


 その日、帝国の中心人物であった死霊王は、ヨハン・ガルガンディアに和睦を願い出て死刑を言い渡された。セリーヌやカンナは死霊王の処刑を目の前で見た。

 これにより六年近くに及ぶ帝国と王国の戦いは、多くの悲しみを生み、英雄ランスと知将ヨハンによって終結となった。


 『騎士に成りて王国を救う』の本編はこれにより、終結を迎えることなる。英雄ランスは天帝を討ったことで凱旋パレードで出迎えられ、その横にはミリューゼ王女が寄り添っていたという。

 さらにランスを助けた、サクラ、シェリル、ティア・キングダムの姿が続き、その後ろには、カンナ・ゼイナール、セリーヌ・オリンポスの両将軍とその兵が続いた。


 パレードは盛大に行われ、王国の繁栄と栄光を称えているようだった。


 しかし、そこにヨハン・ガルガンディアの姿も、リン・ガルガンディアの姿も無く、人々は疑問に思いながらも帝国に勝利した結果に酔いしれた。


 

いつも読んで頂きありがとうございます。

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