戦乙女
『騎士になりて王国を救う』の主人公ランスには、ランスを護る戦乙女がいる。戦乙女たちはランスと共に戦うことで、一騎当千の強さを誇る。
もしも彼女達がそれぞれの戦場で、その力を使えたなら、帝国と王国の均衡を簡単に覆していたことだろう。
「進軍」
二十万に増えた王国軍は、指揮官が全て女性という王国始まって以来の、異例の人選となった。総大将を務めるは、近年貴族となったリン・ガルガンディアである。彼女が総大将に抜擢されたのは、これまでの功績によるものもが大きいが、それ以上に彼女の人柄が他の女性たちからの賛同を集めた。
リンの矛と盾になる両翼は、王国の武力と知恵、カンナとセリーヌの両名だ。両将軍が先陣を駆け、大橋を進軍していくことで、王国の古参兵や正規兵は喜んで付き従うことができる。古き貴族の家系である彼女らを支持する声は少なくないのだ。
戻ってきたフリードたち偵察部隊を再度、死霊王軍の動きを探るため解き放ち、死霊王の状況を探れば、死霊王は陣を引いたまま、まったく動いていないという。
不可解に思ったリンは、小競り合いで相手の真意を量ろうと、オークキング率いるオーク軍で奇襲を仕掛けさせた。それに対して、帝国兵は臆することなくオークを迎え撃ち、撃退して見せた。
「大丈夫ですか?」
命辛々逃げ延びたオークキングたちオーク兵を、リンは自ら治癒魔法で回復していった。
「面目ない。相手の力量を図ろうと思っておりましたが、逃げることだけで精いっぱいでした。ですが、奴らは間所を境にこちらには攻め入ってはきません」
オークキングの報告にリンはある確信を得た。
「そのようですね」
オークキングの戦いは無駄ではない。帝国側がどういう目的で動いているのかわからないが、待ち構える姿勢を取っているのだ。それを理解したリンは、集まった軍と共に帝国兵と正面からぶつかることを選んだ。
先陣を切るのは紅い鎧に身を包んだカンナだった。彼女は個人の武勇が高く、兵を指揮すると言うよりも兵を引っ張ると言った方が正しい将軍だ。そのためカンナの部下たちは、カンナの少し後方に位置するセリーヌ軍に組み込まれ、指揮はセリーヌが取ることで武と知を兼ね備えた軍へと変わることができる。
さらにその後方、軍としては中間に位置する場所には、エルフやシルフィ―などの精霊軍が付き従う。指揮をするのはシーラ・シエラルクだ。
そして最後尾には蒼い鎧に身を包んだリンがおり、その横にはアイスとフリードの二人が控えていた。
「本当にこのままぶつかるっすか?」
「まずは奇襲を仕掛けることになるでしょうね」
「奇襲っすか?まぁシーラさんがいればそれも可能でしょうが」
フリードはシーラの能力ついて説明を受けていたので、霧を使って相手を攪乱するのだと思った。
「今回の奇襲にはシーラさんは使いません」
フリードの質問に対して、アイスは簡潔に答えを返していく。五人の将軍によって話し合われた内容を事細かに話すことは、アイスにとって合理的ではなかったので、簡潔な物言いになる。
「じゃあどうするっすか?」
「見てればわかります」
アイスは説明することを放棄して、指を差す。その先には帝国軍五十万が見えていた。大橋から溢れるほど大勢の人々が王国軍を向けるため待ち構えているのだ。
「スゴッ!凄いっす。こんなにたくさんの人、見たことないっす」
フリードも今から始まる戦いに恐怖を覚えつつあった。それと同時に王国側が、どんな奇襲を仕掛けるのか、気になって仕方なかった。
「始まります」
フリードがアイスに質問しようとする前に、リンの声がフリードに聞こえてきた。リンの言葉通り、王国兵が帝国軍とぶつかると思われた瞬間、王国軍が反転して橋を引き返してきた。
帝国兵士も迎え撃つために構えていたため、王国兵の反転に対して、帝国兵は意表をつかれ、緊張の糸が緩む。
「撃てー!」
そこにシーラ達エルフたちが弓をいた。しかし、それも数百単位なので、五十万の帝国兵からすれば微々たる被害しか出ていない。
奇襲でもなんでもない正面攻撃に、フリードは質問しようしたが、弓が放たれるのが合図だったかのように、巨大な岩が五十万の軍勢に降り注ぐ。
ヨハンが星を落としをしたとき、帝国兵は準備を怠っていなかった。ヨハンが奇襲を受けたとき、ドラゴンたちは帝国兵によって駆逐されたと思われた。しかし、彼らは五十まで数を減らしていたが上空へ逃げ延びていた。
リンは行動を共にしていたダルダにそのことを聞き、魔法の届かない上空から巨大な岩を降らしてもらうように願った。
ダルダはリンが考えた作戦をトキネに伝え、ドラゴンがいたからこそできる奇襲作戦を実行させた。相手はヨハンがいないことで、星落としはないと考えている。そこに不意に落とされる大岩に、対処できないでいた。
「スゴイッス」
リンの容赦ない策は、帝国に大打撃を与えた。さらに帝国にとって不運なのは、大橋にいる兵士と丘に兵士が分断されたことだろう。
ドラゴンたちには大橋の入り口近くに落とすように指示をしていた。トキネはリンの策を十分に理解し、帝国軍が二分されるように投下した。
「好機です」
アイスの声に、リンが手を上げる。
「かかれー!」
リンの号令は先頭に構えるカンナまで届き、カンナ率いる第二軍、セリーヌ率いる第四軍が突撃をかけた。王国が誇る女性たちが帝国に牙を突き立てる。
帝国と王国の大群がぶつかる最終局面が始まろうとしていた。
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