結婚式
元帥閣下編 前半終了です。
閑話を挟み後半に入っていきたいと思います。
キルを処刑したヨハンは、残された帝国兵達の処遇について、それぞれの立場や境遇を吟味して捕虜とするのか、帝国に帰すのか、王国の民として受けれいるのかを決めて行った。
帝国兵は一千万ほどいると言われているが、そのほとんどが滅ぼした国の兵士や民を、そのまま吸収して兵として使っているのだ。滅ぼされた国を再興させてやることはできないが、帝国から解放して王国の民にすることはできるので、希望を聞きそれぞれの処遇を決めていった。
「以上か?」
10万近い捕虜がいたのだ。ヨハン一人では捌ききれず、シーラやアイス、それぞれの幹部がヨハンの考えを理解した上で、仕分けを行った。ヨハンの助っ人として双高山にきていたジェル―にも手伝いをしてもらいなんとか仕分けきることができた。
「そうですね。以上です」
ヨハンの横で同じようにグッタリとしているジェルミーから返事があった。
「手分けしたとはいえ、半端ないな」
「ええ、出身地やそれぞれのやりたいことなど、部下たちを使って面接をしてもらいましたけど、やはり最終判断はヨハン様にしていただかなければなりませんからね」
ハロルド砦と双高山に分けて行われた事情聴取という名の面談をした後、届いた書類を幹部が吟味し、ヨハンが最終判断を下すという形で十万近い人数のこれからを決めていった。すべての検査を終えるのに七日ほどかかってしまった。
「敵の動きはどうなっているんだ?」
「シェーラさんとフリードさんの報告では現在は動きがないようです。リン殿は大分退屈されているようですよ」
「いつ戦闘が始まるかわからないからな。この双高山での仕事を終えたら、ガルガンティアを頼むよ」
「そうですね。仕事を済ませて、しばしの休息を頂いた後に、帰らせていただきます」
10万人のうち、半数が南部の方へ強制労働者として贈られることが決まった。ほとんどがエンドールの配下だったもので、軍人として鍛えられている分、普通の市民となるためにリハビリが必要だと思ったからだ。
残った半分は、帝国によって滅ぼされた国や、シーラやゴルドナのように仕方なく従っていたものたちだったので、ガルガンディア領内に引き取り、ガルガンディアの民として受け入れることを決定した。
少数ではあるが帝国の貴族というものもいたので、帝国に連絡して、賠償金を払うのであればお返しするという書状を送っておいた。
元々共和国出身だった者がいたので、そういうものにはハロルド砦と、その周辺にある村の再興を手伝ってもらうように手配した。
「これからは、ここが帝国との戦いの要所となる。ゴルドーたちドワーフには働いてもらわないとな」
新たに手に入れたハロルド砦と周辺の村々を、ゴルドナとゴルドーのドワーフ親子に託すことにした。ハロルド砦を帝国と戦える要塞に作り替えてもらうためであり、新たに吸収することになった共和国の民を鍛えなおすためでもある。
さらに協力者として、エルフの民に畑づくりを教えてもらうことになり、街づくりも同時に初めてもらう。
「ジャイアントにもそろそろ声をかけるか」
セリーヌ砦で防衛に当たっているジャイアントには、ハロルド砦に移ってもらい、防衛に当たってもらう必要がある。
街や要塞を作っているときに帝国兵が邪魔しに来られても、ジャイアントがいれば大丈夫だろう。
ヨハンはそれぞれの帝国兵の処遇と、ガルガンディアの民たちの仕事を分担し終えると、リンが休養する双高山のダンジョンを訪れた。
「ヨハン、おかえりなさい」
部屋に入ると、リンが元気な様子でヨハンを出迎える。
「寝てなくていいのか?」
ヨハンは慌ててリンに駆け寄るが、リンは笑ってヨハンを窘める。
「何を言ってるんですか、ケガをしたのはもう一週間以上前ですよ。ヨハンのお陰で傷はありませんし、どこもいたくないですよ。ヨハンが部屋から出るなというので、みなさん気を使って私をここから出してくれないんですよ」
「うっ、だって心配で」
「大袈裟です。私はこの通りピンピンしてます」
リンは両手を振り回し元気であることをアピールする。ヨハンの使ったエクストラヒールで完全に傷は治っていたので、しばらく寝ていれば戦闘の疲れも癒えてしまう。
「でも……」
「でも、ではありません。私も皆さんのお手伝いをします」
「はぁ~わかったよ。でも、大きな仕事はある程度終わったから、その前にしたいことがあるんだ」
「したいこと?」
「ああ、ジェルミーにはそのために来てもらったんだ」
ヨハンはリンが目覚めてからジェルミーと共に忙しい中で用意を続けていた。
「来て」
ダンジョンの中をしばらく歩くと、小部屋に案内される。
「ここで準備をして」
ヨハンは小部屋から出ていき、中にはアスナやシーラなどの女性幹部たちがリンを待っていた。リンは何が行われるのかと、不安でいっぱいになったが、真っ白なウェディングドレス着せられ、みんなの生暖かい顔を見ているうちに不安よりも戸惑いの方が強くなっていた。
「さぁ、行ってきなさい」
シーラに背中を押され、小部屋の奥にある扉を開けると、そこにはタキシードを来たヨハンと、司祭のような恰好をしたジェルミーが立っている。
さらに両脇にはガルガンディアを支える幹部たちや、様々な種族の代表者たちが二人を祝うために参列していた。
「あなたとヨハン様の結婚式よ」
アスナがリンの耳元で囁き、リンの下にリンの父親がやってくる。
「お父さん!」
「みんなリンを祝っているよ」
いつも情けない父親が、正装してリンの横に並び立つ。
「さぁ、彼の下に行こう」
リンは父親の上でを取り、バージンロードを歩きだす。ベールで隠された顔を俯かせて、涙を隠した。
「リンを、よろしく頼む」
父親の代わりに、ヨハンの腕に捕まり、ジェルミーの前に立つ。
「ヨハンさんさん。あなたはリンさんと結婚し、妻としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、夫としての役割を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「誓います」
「リンさん。あなたはヨハンさんと結婚し、夫としようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、妻としての役割を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」
「誓います」
「では、誓いのキスを皆の前で約束しなさい」
ヨハンはリンのヴェールを挙げて見つめあう。
「幸せにするから」
「はい」
二人はみんなの前でキスをする。
戦争の最中、行われた二人の結婚式は多くの者に祝われた。辛いことが続いていたので、二人の結婚は細やかな幸せな出来こととして人々に心の癒しをもたらした。
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