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砂嵐

 オークたちは強い。一人一人が鍛えられた帝国兵士五人を相手に互角に戦っていた。

それが軍となりハロルド砦を襲っているのだ。六万対八千の戦いにだったとしても、引けを取ってはいない。

 

「現在は膠着状態に入っています」


 挑発するような楽器の音は鳴り止み、交戦に入ったハロルド砦は碌な防備もないので、オークたちの侵入を許して肉弾戦に突入していた。


「周囲はどうなっている?」

「未だなんの報告も上がっていません」


 ヨハンはキル・クラウンが何かしらの罠を仕掛けを施していると思っていた。しかし、杞憂だったかと考えを改め始めていた。


「全軍は……やりすぎだな。よし、フリード隊にグーゴ隊の援護を強化するように言ってくれ」


 フリード隊五千を戦場に突入することで、内と外から本格的にハロルド砦を攻める状態に突入する。

敵が何か罠を仕掛けていたとしても、まだ戦力の三分の一しか戦いに投じていないのだ。何かあったとしても、残った三分の二で対応できると決断した。


「砂煙です」


 ヨハンが戦の計算をしていると、伝令が砂煙を報告してきた。ただの砂煙ではない。まるで竜巻のような強大な砂煙がハロルド砦に向かっているのだ。


「戦をしている者たちにも退避命令をしろ!」


 まともに呑み込まれれば被害が予想できない。早々に引き上げて、様子を見なければならない。


「オーク隊引きません!」

「ならフリード隊だけでもいい。シェーラ隊にも伝えろ」


 シェーラ隊五千も援護という形でハロルド砦近くにいた。


「砂煙はどれくらいで到着する?」

「半刻ほどです」


 近く見えるが、まだ遠い。今なら軍を引けば間に合う。


「シェーラ、フリードに早々に退避するように、トンたちには精霊の森方面に逃げるように指示を出せ」


 トンたちは双高山方面とは違い、ハロルド砦を包囲するように布陣している。


「わかりました」


 ヨハンはリンとともに、早々に軍を退避させるために動き始めた。半刻ほどのちにやってきた砂煙は、まるで嵐のように吹き荒れハロルド砦に直撃する。

 人が、オークが、砂嵐によって舞い上がり、吹き飛ばされていく。


「凄まじいな」


 ヨハンはその光景に唖然として見つめることしかできなかった。砂嵐が止むまで第三軍は動くことができなかった。


 一刻ほど経ち、砂嵐が過ぎ去ったのを確認して、ヨハンたちはハロルド砦に戻ってきた。ヨハンたちを待ち受けていたのは、ハロルド砦を覆いつくす帝国兵だった。


「どうなってるんだ?」


 ハロルド砦には、オークの死体が積み上がり、それに対して建物は砂嵐を受けたとは思えないほど被害が少なかった。


「帝国軍死霊王様直属三死騎が一人、キル・クラウンから、ヨハン・ガルガンディアに申し渡す。降伏せよ。今ならば帝国の将として迎えよう。申し出を受けるならば、白い旗を掲げよ。申し出を断る場合は全軍を上げて貴様の首を取る」


 キル・クラウンが風魔法を使い、ヨハン・ガルガンディアへ届くように勧誘を兼ねた宣戦布告を宣言した。キルが全軍に聞こえるように言ったのだ、これは帝国からの正式な申し出であることに間違いない。

 しかし、ヨハンにキル・クラウンからの申し出を受けるつもりはなかった。双高山方面に退却を開始しつつ、ハロルド砦が見える丘に立つ。


「王国軍総司令長官ヨハン・ガルガンディアが申す。キル・クラウンの申し出ありがたく思う」


ヨハンは言葉を切り、空を見た後にハロルド砦に視線を戻す。


「がっ、王国兵として最後を迎えることを心に決めている。申し出に対してお断り申し上げる。存分に戦い合おうぞ」


 ヨハンは丘の上から敵の数をざっと確認する。その数、ハロルド砦を囲うだけで、十万は超えていることだろう。砦内と合わせれば、十五万ほどの兵がいることになる。ヨハンを倒すために集結していた兵の数にヨハンは黒騎士との戦いを思い出す。

しかし、黒騎士のときとは、戦況が全く違うことをヨハンは感じていた。


「ならば遠慮はいらぬ」


 キルがオークの首を持ち上げる。それはオークたちの中でも一際大きな巨体を持ったグーゴのものだった。


「このオークのようにお前の首を我が前に掲げてくれよう」

「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」


 キルの言葉に応えるように帝国兵たちが叫び、地響きを起こしていた。


「やれるものならやってみろ」


 ヨハンは置き見上げとして星を落とす。十五万の軍勢であろうと、星をまともに受ければ被害は甚大なことだろう。

 しかし、帝国軍は一切動じることはなかった。星に対して巨大な竜巻を作り出して弾き飛ばしたのだ。


「貴様のことは良くしっている」


 ヨハンのメテオストライクは、キルの研究によって、対策を講じられていた。


「あれが砂嵐の正体か……」


 砂嵐の後に現れた軍勢ということで推測していたが、キルが用意した軍勢は、巨大なハリケーンを作り出してしまうほど強力な魔法を使ってくるのだ。


「引くぞ」


 ヨハンはそれ以上何かすることなく、兵を双高山へ向けて引いた。分かれてしまったトンには精霊の森に向かい、シーラとアイスを呼んできてもらうように頼んだ。

 今のままでは勝てない。ヨハンはガルガンディア軍の総力を挙げた戦いを迫られていた。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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