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挑発

ハロルド砦は共和国にとって精霊の森を監視するために作られた要所である。王国を監視するために作られたセリーヌ砦と違い、ハロルド砦は堅牢な砦ではない。

 エルフたちを監視するために作られた、ただの物見砦でしかないのだ。


「思っていたよりも小さいな」

「はい。六万人が入るにはかなり手狭ですね」


 砦の中にキル・クラウンが率いる軍勢がいる。そう思うとヨハンたちは不憫に思えてきた。


「防壁もなく、あるのは木でつくられた門と柵だけか……かなりお粗末だな」

「はい……どう攻められますか?」

「攻めるか……」


 双高山の地で、仲間になったモンスターたちを入れると数では互角となった。


「戦わずに待つのもありかもしれないな」

 

 キルがどうしてハロルド砦に立てこもったのか砦を見てわからなくなった。こちらが攻めれば守ってくれる壁すらない、そんな建物になんの意味があるのか。


「待つのですか?」

「食料の供給を絶つだけで、勝手に自滅しそうだ」


 ヨハンにはアイテムボックスによって食料の貯蔵ができている。双高山の回りにある森によって、多くの食材も手に入れることができた。

 食料に余裕があるので、砦を固めて包囲するだけで十分な気がしてくる。


「なんのために援軍が来たのでしょうか?」


 シェーラとフリードの偵察では、キルの軍がハロルド砦から出たという報告は届いていない。なのに援軍がやってきた。どんな意味があるのか、ただヨハンには嫌な予感がしていた。


「なんでだろうな。ただ、今は様子を見たい」


 ヨハンの勘によって、攻撃は見送られ膠着状態へと突入する。これには砦の中で身を潜めていた帝国兵の方が驚いたようだ。こちらが武装解除して長期戦の構えを取ったためだ。それを見た帝国兵は砦の中から、太鼓やラッパなどの楽器を使って挑発を始めてきた。


「我らは最強帝国軍、貧弱、小癪な王国兵など敵ではない。恐れをなしたか王国兵、臆病ものには用はない。我らに勝てると思うなら、いつでもかかってくるがいい。首だけ国に帰してやるぞ。わははは」


 悪趣味な歌とともに楽器を打ち鳴らす帝国兵を見て、ますますヨハンは動けなくなっていた。挑発をして何の意味があるのか?このまま戦えばキルたち帝国兵の敗北は必至だ。

 何より、こうして砦を囲んでしまえばどこからも物資を得られず、餓死者まで出してしまう。六万強という数字は伊達ではない。

 それだけの兵を養うだけの、食料備蓄がハロルド砦にあるとは思えない。


「どうして挑発をしてくるのでしょうか?」

「わからん。わからんが、相手が苦しい状況だということはわかる」


 挑発するのには訳がある。もちろんこちらを怒らせ突撃をかけさせるのが一つの狙いだろう。だが、キルがそれだけのために挑発するだろうか、もっと他に狙いがあるんじゃないか、双高山とはうって変わり、キルがヨハンを振り回すような状況へと変わっていた。


 三日を過ぎたころ、朝から夕方まで続いていた挑発は夜にも行われるようになった。夜通し鳴り響く楽器の音に、王国兵士たちも碌に休めず、疲労がたまってきていた。

 

「今ならば戦っても勝てると思いますが、このまま包囲するだけでは、こちらがもちません」


 各隊からの苦情により、ヨハンは攻撃を仕掛ける決意を迫られていた。しかし、ヨハンの中では攻撃を仕掛けるぐらいならば退却したほうがいいのではないかという思いが浮かんできていた。

 ハロルド砦から近い双高山を拠点として手に入れ、現在も改良しているのだ。監視をしつつ、いつでも攻撃に出られるのではないかと思えた。


「オーク隊、敵砦に攻撃を仕掛けました」

「なにっ!」


 オークたちは他の隊よりも様々ものが優れている。彼らは他の魔族よりも知能が高く、自身の種族で言語を持つこともわかっている。

 ただ、彼らは魔族でもあるのだ。魔族の性質状、闘争本能が強く我慢が苦手でもあった。いつまでも鳴り続ける楽器の音にいら立ちを募らせ、グーゴの静止も聞かずにいくつかの隊が独断で砦に攻撃を仕掛けたのだ。

 彼らは知能が高い分、感情も豊かで、その中でも怒りの感情がもっとも強く出やすいため沸点が低い。


「リン!他の隊に攻撃を仕掛けないように指示を出せ、絶対に砦に攻撃を仕掛けるな。それとグーゴに命令を聞かなかった意味を罰として、オークだけで攻撃しろと伝えろ」

「かしこまりました」


 ヨハンはグーゴたちオークを生贄に捧げることにした。キルの狙いが何かわからないが、明らかに攻撃を誘うような挑発の意味は何なのか、確かに攻撃を仕掛けてみなければその意味はわからない。


 グーゴはヨハンからの命令に奥歯を噛みしめた。これは罰として『死ね』ということかとグーゴは思ったのだ。グーゴはヨハンの鮮やかな戦略に魅せられた。しかし、ここにきて他のオーク同様に、敵に攻撃を仕掛けないヨハンに苛立ちも感じていた。


「ならば我らオークだけで落として見せようぞ」


 オークたちは総勢八千人ほどいる。もしも八千人のオーク討伐依頼が冒険者ギルドに出されれば、それはSクラス任務に相当する。

 個体でも普通の人より遥かに強く、知能も高い。オークには魔法だけでなく、独自の戦い方まであると考えれている。そんなオークたちが八千人も集まり、徒党を組んで襲ってくるのだ。

 戦ったことがあるものならばそれだけで、逃げ出しくなる光景であろう。


「オーク族、帝国兵と交戦に入りました」

「シェーラとフリードに援護させてくれ。トンと双高山の連中には絶対に攻撃をさせるな。むしろ警戒態勢を取らせて周囲を探らせろ」

「周囲ですか?」

「そうだ。何かあるとすれば外だ」

「かしこまりました」


 ますます強くなる嫌な予感に、ヨハンに空を見た。空は太陽が隠れ、今にも雨が降りそうになってきていた。


「夜と雨か……嫌なタイミングだ」


 ヨハンは思考を巡らせ、いつでも退却できるように指示を出した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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