祝辞
少し短めです。
ヨハン・ガルガンディアがリン・ガルガンディアへプロポーズしたことは、すぐに王国、帝国問わず、多くの者が知ることとなった。お節介な者と言うのはどこにでもいるものだ。
知らせを聞いたランスや、王国の重鎮たちから祝辞が届けられた。それはヨハンを知っており、現在対峙しているキル・クラウンからも祝いの言葉が送られた。
「ランスにまでどうやって知らせが行くんだ?」
「ミリューゼ様の祝いの言葉もついてますね」
「そうだな。こっちはセリーヌとカンナだ。げっ!元帥殿まである」
ヨハンは第一軍の将軍を今でも元帥と呼んでいる。それはヨハンの中で元帥は彼だけという思いからだ。それぞれ大変な時だと言うのに祝辞を送ってくれたのだ。
「何より戦っている相手を祝うか?」
「私は会った事がありませんが、キル・クラウン殿は随分と陽気な人なのですね」
キル・クラウンの人物像を思い出して、俺は苦笑を禁じ得ない。
「それにしても、なんでこんなことになってるんだ?」
「フリーが……」
「あいつか……」
リンは申し訳なさそうに、ヨハンは呆れた感じで互いに息を吐いた。
「それにしてもこれどうしようか?」
ヨハンの前には、ここ数日で届いた祝いの手紙や贈り物がたくさん積んである。元帥という地位は低いものではないのはわかっていたが、王国に住まう貴族から送られてきたたくさんの祝いの言葉が、ヨハンと仲良くしていたいと思っている者が多くいたようだ。今まで名前も聞いたことがない貴族たちから届いているものまであるのだ。
「こんなに祝っていただけるなんて思っていませんでした」
「まぁ、王国の元帥と将軍の結婚だからな」
いくらヨハンが貴族社会に疎いと言っても、自身の立場の重みぐらいはわかっている。
「とりあえず、今は結婚式はできないから、お礼状を書かないとな。この戦いが終わったら盛大な結婚式でもあげようか」
「結婚式ですか……なんだか、考えられませんね」
リンは考えられないと言いながら、口元が緩んでいた。リンも女性なのだ。結婚式は上げたいと思っているようだ。
「リンのドレス姿は綺麗だろうな」
「恥ずかしいことを言わないでください」
今年十八になるリンは女性らしい顔と、まだ幼さを残す顔が見え隠れする。そんな少女から女性に変わろうとしているリンの頬が赤らめられる姿は、素直に可愛いとヨハンは思ってしまう。
「とりあえず、今は礼を尽くして、あとはジャルミーに丸投げだな」
「なんだか、物凄く張り切っているジャルミーさんの姿が浮かびます」
「あの人はこういうの好きそうだからな」
腹黒なジャルミーはヨハンとリンが苦労する姿を見て楽しそうにするのだ。ヨハンは溜息を吐きながら、礼状を書きあげ、配達鳥たちに運ばせる。
「そろそろ身を引き締めないとな」
ヨハンが一仕事終えて、天幕の外を見れば、連日繰り広げられていた宴の姿があった。ヨハンとリンへの祝いとしてフリードが主催して行われていた。
「はい。今は戦時ですからね」
リンも苦笑いしながら、二人で天幕を出る。
「おっ!ご両人の登場だ!皆杯を持て」
フリードが二人の姿に気づいて、飲み過ぎて倒れている奴まで起こして杯を持たせる。種族を超えて飲み明かしていることで、新参のコボルトやナーガなども随分と打ち解けたようだ。
宴をすること自体は悪いことばかりではない。フリードはこういう祭りを仕切るのも上手いようで、互いのわだかまりを取り除いてくれている。
「皆、俺とリンのことを祝ってくれてありがとう」
俺もそれに水を差すつもりはない。
「よっ!ご両人。ヨハン・ガルガンディア様、リン・ガルガンディア様」
フリードは二人の名前を呼んだだけだ。だが、リンはヨハンと同じ姓を受ける喜びに目を閉じる。
「こんな戦場のど真ん中で祝いもあったもんじゃないが、俺はリンと歩んでいく。帝国が強大であろうとリンが隣に立ってくれるなら、俺はこれは戦いを勝ち抜く原動力にできると思っている。俺達は帝国を討ち果たし王国に勝利をもたらす。俺に、いや俺達二人についてこい!」
ヨハンは最後に腕を突き上げ、リンを抱き寄せた。兵士達は主の幸せを喜びさらに酒を煽っていく。それは、さらに一日続き盛大に祝われた。
ヨハンが料理を作り、新たね兵達の歓迎も兼ねた宴となり、料理に心奪われたナーガ族などはリンを差し置いて求婚してくる者までいたが、酒の上での無礼講で笑って許した。
ヨハンの太腿はリンに抓られて腫れていたが、そこはご愛嬌である。
「進軍を開始する」
宴にはいつか終わりが来る。最後の宴を終えて、ヨハン率いる第三軍は七万にまで膨れ上がり、次なる戦場への出陣を開始した。
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