戦局
ヨハン・ガルガンディアが三死騎の一人であるキラ・クラウンを倒したことは、すぐに他の戦場へ知らせが届いた。
それは苦戦を強いられていたカンナ率いる第二軍にも届き、第三軍の勝利にカンナたち第二軍は湧いた。
「本当か?本当に三死騎の一人を退けたのか?」
「間違いありません」
「そうか……希望が見えて来たな」
カンナは将軍として抜擢されたが、それに見合う力量がないことを、ここ数日で嫌というほどに思い知らされた。それでもここまでランス砦を守ることができたのは、第一軍にいる古参の兵達とカンナを支え用途指定暮れている第二軍の兵たちがいたからに他ならない。
「敵軍の攻撃が止みました」
カンナに知らせが届き希望を見出しているころ、敵側にもヨハンの勝利が伝わったのか、ランス砦を責め立てていた帝国軍の攻撃が止んだ。
「どうなってるんだ?」
「敵の陣形は変わりませんが、一部離脱した部隊があるもよう」
「離脱?」
帝国本陣の一部がなくなっていた。攻撃が止んだのは二刻ほどときだけだったが、再開された攻撃は、それまでの圧倒的な攻撃力はなく、どこか消極的な攻撃だった。
「敵の将が変わったのか?」
カンナ戦いの流れが変わったことに戸惑いながら、矛を交えた相手が変わったことを感じていた。それはカンナ軍にはありがたいことであり、ヨハンの勝利とともにカンナの心に安堵を生んだ。
「離脱したのは、三死騎自身だと思われます」
「なにっ!どうなってるんだ?」
三死騎離脱は嬉しいが、相手はどこにいったのかわからない。不安が残る形で、戦況が膠着状態に入っていった。
カンナは将軍として、初めての戦いがこれほど激しく厳しいものになり心身ともに疲れていた。そして自身の力の無さを嘆いてもいた。
「将軍、今はお休みください。この程度の戦いならば、自分達でもなんとか戦えます」
「そんなことできるわけ……」
カンナは気丈に振る舞おうとしたが、目の前が暗転した。立っているのもやっとの状態で気力だけで保っていたのだ。後ろから意識を奪った古参の兵が副官を見る。
「お咎めがいかようにも受けよう」
「痛み入ります」
「将軍は頑張り過ぎだな」
副官を務める男はカンナを抱き留め、意識のないカンナを兵士に運ばせる。
「さて、相手さんが将軍不在なら、こちらも将軍不在でやりますかの。みんなカンナ嬢になるべく長く休んでもらうとしようぞ」
「嬢ちゃんは頑張ったからな。こっからはワシらの仕事じゃ」
古参兵たちが副官とともに指揮をとり、戦況を睨み合いのような膠着状態へと持っていく。
「この戦争は新元帥殿と第三軍の将軍に任せるしかないな」
古参兵は帝国兵の攻撃方法が変わったことで、籠城強化と休みなく働いていた兵達を休め。第一軍を使って防備に当たった。
数が少ない第一軍の兵は、古参ならでの策と工夫で敵と渡り合い、カンナたち第二軍の休息の時間を作り出した。
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辺境伯領でも第四軍ことセリーヌ軍が敵軍の変化に気付き、それと同時にヨハンの勝利に戦局が動く気配に気づいていた。それはセリーヌ軍が身を寄せていたランスたち勇者一行にも伝えられている。
「ミリューゼ様。戦局が動きそうです」
「それは助かります。ここに来たのはいいのですが、立ち往生していたところでしたからね」
ルッツを迎えに来るために、辺境伯領を訪れていたランスたちは、三死騎の襲撃により辺境伯領から帝国へ侵入することが出来なくなっていた。
「敵の攻撃次第ですが、我が軍が穴をあけますので、そこから帝国へお入りください」
セリーヌが相対した三騎士は慎重な相手だった。こちらからの動きには敏感に反応するのに、向こうからは攻めて来ず、重厚な壁を作るようにセリーヌ軍の侵入を拒んだ。
「ごめんなさい、セリーヌ。あなたも将軍になったのに、こんな仕事を任せて」
「いえ、私はミリューゼ様の右腕。それは私が将軍になろうと変わりません」
セリーヌの横に控えるマルゲリータも同じ様に頷いていた。
「ありがとう。あなた達六羽が、この国の中心に立っていることを誇りに思います」
ミリューゼの下に報告に来たセリーヌは緑色の鎧に身を包み将軍としての責務を全うしていた。それは黄色いローブに身を包んだマルゲリータとて同じことで、二人が王国のために活躍していることをミリューゼは喜んだ。
「ありがとうございます。ランス様はさすがですね」
セリーヌも将軍という地位に戸惑いはあった。軍師としいて策を巡らせることはあっても、自身がトップに立って指示を出すのでは重圧が違うのだ。
辺境伯領にきたとき、正直ランスたち一行が辺境伯領にいなければ、セリーヌたちはもっと苦しんでいたことだろう。しかし、ランスたち一行により遊撃や奇襲といった戦局を打破する作戦が強いられたおかげで、敵も警戒を強めて攻め手を失う均衡状態が作り出せたのだ。
「ランスは不思議な人です。本当に大切なことが見えているのでしょうね。相手のスキや攻撃されたくないポイントを上手く攻める。私にはできないことです」
「いえ、ミリューゼ様の武は遠くから見ていても王国の誇りです」
ランスと戦う乙女たちは、本来の力以上の強さを発揮している。ミリューゼもその一人なのだ。
「私の武はランスのものです」
「はい。その武を王国で御救いください」
「必ず成し遂げて見せます」
三死騎の一人がセリーヌ軍の前からいなくなることはなかったが、ランスの奇襲と、ヨハンの勝利が三死騎を慎重にさせ、セリーヌ軍には力を与えた。
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