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双高山の戦い 最終日

 オーク族は誇り高い一族である。オークキング以外には決して屈することはない。相手が強者であろうと、怯むことなく戦うことをやめたりしない。

 だが、戦争とは恐ろしいものだ。個々の戦いで負けると思ったことがないグーゴでさえ、総大将を務めるヨハン・ガルガンディアを恐ろしいと思った。それと同時に、ヨハン・ガルガンディアに魅せられた。


「本陣を捨てるのですか?」


 グーゴは天幕に呼ばれ、どんな命令をされるのかと思ってみれば、いきなり本陣から軍を撤退させるという無茶ぶりだった。

 馬鹿にしているのだろうか?我々オーク族を戦闘にも出さず、あんな下等生物であるゴブリンに主戦場を任せるなどありえない。

 

「捨てるっていうか、一時避難する」

「避難?」

「そう、たぶんそろそろ相手さんも動くと思うから、ノームたちが用意してくれてる本当の本陣に行こうか」

「本当の本陣?」


 グーゴにはヨハンの言っていることが一ミリもわからなかった。ただ、上官であるバイドの命令に従うだけだと自分に言い聞かせ、ヨハンの命令に従う。

 グーゴはバイドを頭だと思っている。その頭であるバイドが、ヨハンのいうことを聞けというのだから、逆らうわけにはいかない。


「承知した」


 オーク及び、ガルガンディアから連れてきた兵士たちをヨハンが言った場所へ移動させる。本陣を気づいた高山の後方に下がると、洞窟の入り口が見えてきた。


「おっ、ちゃんとできてるみたいだな」


 先頭を歩いていたヨハンが、嬉しそうな声を出す。ノームの作った穴の何が嬉しいのかわからない。


「ヨハン様、よくぞおいでくださいました」


 ノーム族の男が深々とヨハンに頭を下げる。ノーム族は同じ顔をしているので区別がつかない。まぁ他種族など全て同じ顔に見えるのだが、グーゴには顔の認識などできていない。ただ匂いがそれぞれ違うので、それで覚えているだけだ。


「うん。ノーム族の人だね。どの程度できてるかな?」

「はい。計画の五割程度というところです。皆さまを収容するには問題ありませんが、ヨハン様の理想には遠いかと」

「まぁ今はそれでいいよ。これから増築とかもするかもしれないから、とりあえず身を隠せればいいかな。後は言ったところまで掘れてれば問題ない」

「それならば問題ありません」


 ノーム族とヨハンの会話が終わり、兵士たちを洞窟の中へと入れていく。本陣を捨てて洞窟の中に入ることに戸惑ったが、本陣からほとんど離れていない洞窟がそれほど広いとも思えなかった。


「うん。いい出来だね」


 だが、中に入ってみれば考えが間違っていたことがよくわかる。高山をくり貫くように作られた洞窟はどこまで続いているかわからないほど深く。それは深いだけでなく、二万の軍勢を収容するのに十分な広さも兼ね備えていた。


「ここに簡易テントを張るから、みんな手伝って」


 ヨハンがどこからともなくテントを取り出し、各隊に渡していく。少し奥に進んだところにヨハンはテントを張り、時を待った。


「敵襲!」


 見張りとして本陣を見ていた者が、本陣が襲われたと知らせを伝えにきた。これはヨハンの予想が当たったということだろう。


「そう。ならあと一日かな」

「取り返しに行かないのですか?」

「行くよ。でも今じゃない。俺たちが動くのはシェーラが動いてからだよ」


 ヨハンの言っていることが本当にわからない。シェーラ隊は敵の襲撃を受けて逃げていったはずだ。それが本陣にどういう関係があるというのだ。


「ご報告いたします。シェーラ隊により本陣に陣取っていた敵に夜襲を仕掛けた模様」


 伝令の報告を聞いてグーゴは驚いた。またまたヨハンの言うことが当たった。どうしてシェーラ隊が本陣に現れる?どうしてヨハンはそんなことがわかる?


「そうか、ならそろそろ俺たちの出番だね。グーゴ戦闘準備を」

「……はっ!」


 いきなり話しかけられ、戸惑ってしまった。いつもより大きな声で返事をしてしまう。


「元気なのはいいことだけど、それは戦場で頼むよ」


 ヨハンに窘められて恥ずかしくなるが、どこか嬉しいと思っている自分がいた。


「申し訳ありません」

「いや、謝る必要はないよ。とりあえず頑張ろうか」

「はっ」


 ヨハンが発する力を抜いた言葉に、身を任せたくなる。グーゴはオークたちを率いて三万の軍勢に飛び込んだ。ヨハンが後ろにいるだけで大丈夫だと思えてしまう。そのグーゴの思いに応えるように、魔法が使われていく。補助魔法や回復魔法、誰かが攻撃を受けるたびに防御魔法まで展開される。いったい幾つの魔法を使えるというのか、いったいどれほどの魔力を保有しているのか。オーク族もガルガンディア兵も、たった一人の魔道士によって護られている。


「凄い……」


 グーゴは圧倒的な存在を知ることになった。そして、バイドが忠誠を誓った意味を知る。三万の軍勢が全滅する頃、王国側にも被害が出た。それは三万の帝国兵が全滅したことに比べれば、少なすぎる被害だった。


「さて、そろそろ次の段階に行かなければならないな」


 三万の軍勢を処理したヨハンは、軍勢を右の小山に移動させた。隠れたときと同じように本陣の旗はそのままに、人だけを移動させる。敵に大きな動きを悟らせないために態々ノームに作らせた洞窟を使って移動する。

 いったいどれだけ先まで読んでいたのか、まるで決められた物語のようにヨハンの思うように敵が動いていく。


「敵が動きました」


 グーゴは自分で言っていて信じられなかった。帝国兵が右の山に進軍を開始し出したのだ。


「そうか、後はトンたちがやってくれるな」


 ヨハンから聞かされた作戦は至極単純なものだった。リンを囮に敵を進軍させ、中央の森で活動していたトンたちによって攻撃をさせる。

 本当に単純な作戦だと思ったが、幾重にも重ねられた罠が帝国の大将を動かしたのだ。


「最後は私の号令でいいのですか?」

「ああ。キルに俺がここにいることは隠しておきたい」

「わかりました」


 リンの号令によって矢が放たれる。


 帝国軍は地と上空から同時に攻撃を受けることになり、右の小山からの撤退行動を開始する。


「勝った」


 グーゴはヨハンの戦略に魅せられた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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