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相応しい人物

 セリーヌ砦は森に囲まれている。ジャイアントが攻め入った時も、森が進行を遅らせ、ランスたち勇者一行の戦いを助けた。

 

「森は迷路だ。森があるだけで難攻不落の土地となる」


 セリーヌ砦から共和国領内を見る。この場所で戦えば必ず、こちらが有利だと確信が持てる。だが、そうはならないことを知っている。


「なら、ここで陣を張るのですか?」

「いや、この場所は相応しい人物に預ける」

「相応しい人物?」


 セリーヌ砦に新たな来訪者がやってきたのは、俺がリンと会話済ませて数時間後のことだった。


「お待たせしました。ヨハン様」


 絶世の美女とは彼女のためにある言葉だろう。エルフたちは全て美男美女というが、彼女はその中でも一番の美しさを持っている。


「シーラ様!」

「リンさん。お久しぶりです。将軍になられたそうで、おめでとうございます」


 シーラの後ろには、エルフの戦士たちが付き従っていた。


「相応しい人ってシーラさんのことですか?」

「私は、今回は補佐に努めるつもりです。しばらくしたら国境の街に帰りますよ」

「そうなんですか?」

「はい。今回は私ではなく、シルフェネス家の者たちにお任せします」


 シーラに紹介され、シーラの後ろに控えていたエルフたちから一人の男性が前に出る。


「彼らもエルフの王族だからな、戦う力はある。いつまでも精霊の森で隠居していてもらうのももったいないから、今回はセリーヌ砦の土地と森を守護してもらう役目を頼んだんだ」


 シェーラは偵察任務で森の方へ赴いているので、ここにはいない。家族がくることは事前に伝えていたのだが、久しぶりに会うのが照れくさいと偵察に行ってしまった。

 

「我々のことを考えていただきありがとうございます」


 シェーラの父親に当たる人物だろう。男性エルフが頭を下げた。


「いや、これもシェーラが頑張って働いてくれているからです。彼女がいることで、私たちは随分と助けられた。彼女の働きがあったからこそあなたたちシルフェネス家の人を信じようと思いました」

「そう言っていただける私たちも胸が楽になります。シェーラは昔からお転婆で、エルフにしては好戦的な性格をしていました。ですが、あなたの下で生き生きとしている姿を見れたときはうれしく思いました」


 父親は父親なりにシェーラのことを心配していたのだろう。


「改めてお願いします。シルフェネス家の力を私に貸してください」


 シーラの父親に手を差し出し協力を要請した。その手を取り、力強く頷き返してくれる。


「私たちを助けていただいたガルガンディア殿に報いるため、全力を尽くさせていただく」


 シーラは今回、シルフェネス家がこの地で住みやすい環境つくりをするために来てもらった。この場所での戦闘は極力避けたいが、もしも敗走するときは、この場所が命綱になることは間違いないのだ。


 シルフェネス家との合流を果たし、交流を深める宴を開いた。それはこれから戦地に向かう軍の指揮を高めるためでもあり、緊張している義勇兵の心をほぐす意味も含まれていた。

 エルフたちを初めて見る者たちは心奪われ、初めてでない者も、その美しさに心奪われる。エルフだけでンなく、ゴブリンもオークも酒を飲みともに笑いあう。


「ここにいらしたのですね」


 風に当たりたくて、セリーヌ砦の物見に上っているとシーラがやってきた。


「シーラか……宴は楽しんでいるか?」

「はい。まさか、人族とこんな風にお酒を飲みかわす日が来るとは思ってもみませんでした。何より、この場所には、ゴブリンも、ドワーフも、エルフも、人も種族など関係なく集まっています。それも皆楽しそうに」

「精霊族や魔族は他にもいるけどな。まぁ種族なんて関係ないさ。みんな言葉が通じて話ができる。それだけで十分だろ?」

「そんなことを言えるのは、この世界であなただけだと思いますよ」


 シーラは楽しそうに笑っていた。その笑顔に魅力されない人間はいないだろう。


「綺麗だな……あっ!今のは忘れてくれ」

「ふふふ。ズルい人ですね。口に出しておいて、なかったことにはできませんよ」

「そうだな。すまん」

「謝る必要もありません。嬉しいですよ。綺麗と言われて喜ばない女性はいません」


 シーラは俺をいじめて会話を楽しんでいるようだ。


「あんまりいじめないでくれ」

「いじめてなんていませんよ。ただ……」

「ただ?」

「こんな時間が永遠に続けばいいのにとは思います」


 シーラの流し目にドキリとする。一瞬にリンのことを忘れそうになる。


「ヨハンさん、浮気っすか?」


 ヒョコッとフリードが顔を出す。


「フリード!」

「男なので気持ちはわかるっす。でも浮気はダメっすよ。おいらはリンの味方っす」


 顔を真っ赤にしたフリードからは酒の匂いがしてきた。こいつが酔う姿は初めて見たが、どうやら絡み酒のようだ。


「お邪魔が入ってしまいましたね」


 シーラは呆れたような声を出して、物見から去っていった。


「ふう~油断できないっす」

「お前酔ってないだろ」

「バレたっすか?まぁ、これもリンのためなんで許してほしいっす」


 フリードは悪びれた様子もなく伸びをする。


「ヨハンさんは偉くなってモテるっすからね。おいらはあんたを守りながら監視するっす」

「お前に守られるようじゃ終わりだな。それに浮気をするつもりはないさ」

「ヒドイっす!おいらも強くなったっす。そんなことよりも本当っすか~。さっきのお姉さんの誘惑は満更じゃなかったっすよね?」


 俺はシーラの笑顔やいい雰囲気を思い出す。


「……そうかもな」

「ほらっす。まぁ、あの人はヤバいっす。かなりいい女っす。誘惑されたら仕方ないっすけど、ダメっすよ」

「おっおう」


 フリードに説教される日が来るとは思っていなかったが、こいつはこいつなりに成長していたのが、おかしくなってきた。


「お前がいてくれてよかったよ」

「何がおかしいっすか?こっちは説教をしてるっすよ」


 真顔で怒るフリードが、面白くて笑いが止まらない。そんな俺にフリードは説教を続けていた。

久しぶりに気心が知れる相手と過ごす時間に、ランスと過ごした幼少期を重ねて、さらに笑ってしまった。

いつも読んで頂きありがとうございます

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