元帥のお仕事
ランスの宣言から、一週間が経った。ランスは早々に用意を済ませて、旅立って行った。ランスのパーティーメンバーは、ルッツ、ミリューゼ、レイレ、サクラ、シェリル、ティアの七人となった。
人選はランスの一存だとか、なんらかの思惑があるとか言われていたが、俺は主要キャラが集合したように思うだけだ。ライバルキャラ的な貴族野郎とかが名乗りを上げれば面白いのだろうが、今回のランスのライバルは俺ということになるのだろう。
しかし、俺はライバルキャラのように力がないのに名乗りを上げるほど無謀には慣れない。むしろ、ランスが昔のように美人を見ても固まらなくなったのは、あれだけの美女たちに囲まれて鍛えられたからなのだろうとか、他人事としてしか捉えれないのだから仕方ない。
「失礼します」
考え事をしていると、第三軍の将軍となったリンが執務室に入ってくる。
「準備できたか?」
「はい。それぞれ軍の準備が整いました」
「そうか、すぐにいく」
俺は元帥が纏う豪華なマントを羽織り、マントの中には似合わない王国式の軍服に身を包んでいる。広場に出れば、整列した鍛え抜かれた騎士や魔導士たちの前に立ち正面から見据える。
彼らは一般兵ではない。それぞれが何らかの階級を持ち、上官として部下を持っているものたちだ。
「様々な手続きや作戦の実現のために諸君らのことを随分と待たせてしまった」
この一週間は書類整理やら引継ぎ業務やらでてんてこ舞いだ。ランスは事務仕事に向いていないようで、かなりの書類整理がたまっていた。
セリーヌとリンがいなければもっと手間取っていただろうな。
「指揮官として働いる諸君らに集まってもらったのは他でもない。改めて挨拶をしたいと思ったのだ。第三軍の将軍を経て、元帥となったヨハン・ガルガンディアだ。英雄ランスに続き、こんな若造が元帥になって本当に大丈夫なのかと疑問に思う者もいるだろう」
俺は指揮官たちを一瞥する。明らかに敵意を向けるものこそほとんどいないが、見定めようと観察されていることは理解できる。
「自分なりに元帥としてできることをやっていくつもりだ。結果を見て判断してもらいたい」
俺はそこで一旦言葉を切り、挨拶を締めくくる。何かしらアクションがあるかと思ったが、誰一人言葉を発することなくこちらを見ている。
「では、決まったことである部隊の配置を告げていく」
一週間で決めた内容を指揮官たちに伝え実行させる。元帥は全ての決定権を持つが、現場で指揮を執るのは彼らなのだ。配置や支給される物資、部隊編成や作戦などを伝えていく。
「以上だが、質問はあるか?」
今回は軍を四つに分けた。将軍が四人になったのもあるが、敵の数が多いため分散して処理に当たらなければならない。
王都防衛は今まで通り第一軍と、カンナの父に当たる第一軍の将が務める。人数もこれまでと変わらない数とした。もともと少数だったこともあるので、弄る必要がなかったのだ。
またほとんどが老兵なので、現場に出しても役に立たないと判断した。
ただ、第二軍は若い者が多く。カンナを将軍としたことで、カンナも将軍としては新人なのだ。第一軍と連携を取ってもうい、カンナの補佐をしてもらおうと考えた。
そのため中央のランス砦をカンナに預けた。無理に攻め込むまず、守りに徹していれば正直誰でもよかったが、ほかの将軍たちの中ではカンナが一番適任だと思えたからだ。
さらにカンナの補佐として、アクアと教会が第一軍と第二軍の橋渡しをしてくれる。ここまでが防衛重視の配置となる。
次は攻勢重視の配置なのだが、ルッツが抜けたことで辺境伯領が手薄になってしまった。そこでセリーヌ率いる第四軍が西から辺境伯と連携して帝国に攻勢に出てもらう。もちろん相手取るのは闇法師率いる魔物軍だ。
武器を利用するよりも、魔法を駆使しての戦いになるため、戦略と戦術に長けたセリーヌと、魔術、魔法に長けたマルゲリータ姉妹で当たってもらう。
最後にセリーヌ砦及びガルガンディア砦がある東側は、リンを将軍とした第三軍が守護務める。ただ、今回は守ってばかりではランスの助けにならないので、敵陣へ踏み込む要となってもらう。
ランスたちが敵陣深くまで踏み込めるかは、リンと第三軍次第ということだ。
俺はといえば元帥として王都を離れるのはどうかという声が上がったが、王都にいつまでも居たくないというのが本音であり、戦場に出ている方が随分と気が楽だと思ったので、リンに同行して攻撃部隊に参加するつもりだ。
王都の主語及び事務関連は第一軍に任せることにした。この辺はランスで経験済みなのか、すんなりと引き受けてもらえた。
今回は防備に兵を集めたため、カンナの率いる第二軍が一番多く。次にセリーヌの第四軍、ここには魔導士と重装歩兵を多く配置した。
そして俺の第三軍は今までのメンツと志願兵を募った義勇軍で作戦に当たる。
「フリードは志願兵か?」
志願兵を募ったことで見知った顔を見つけた。
「へへへ、ヨハンさんが元帥ならオレッちも参加しないわけにはいかないっしょ」
三年ぶりに会うフリードは冒険者として一人前になっていた。冒険者ランクはBまで上げり、かなりの研鑽を積んだことがうかがえるほど強さを醸し出している。
「随分と強くなったな」
「へへへ。おいらだっていつまでの偵察だけの男じゃないっす」
「ああ、今回は多くの冒険者も参加してくれている。フリードにも期待しているぞ」
「任せるっす」
元帥という仕事に物怖じするかと思ったが、やってみるとガルガンディア領でしていた仕事よりも随分と楽だと思えた。
ランスによって第一軍の説得や、諸々の諸事情などすでにお膳立てがなされていたお陰なのだが、どうにも乗せられた自分に悪い気がしない。
「勝てよ。ランス」
空に向かって拳を突き上げ、ランスの成功を祈った。
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