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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
騎士になりました。
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閑話 逃走者ミリューゼ

 ランス砦を放棄したミリューゼ率いる第二軍は王都へ向かった。当初は獣人王国へ直接向かう予定だったが、思いのほか離反者が多く、食料不足と休息が必要だったためである。


「よくぞ無事に戻られました。ミリューゼ王女様」


 ミリューゼは王都にて手厚い歓迎を受けた。それは彼女が王女である限り当たり前のことだろう。ただの将軍であれば、戦果もなく逃げ出してきた敗残の将に罰こそ有れ、これほどの温情が与えられることはない。


「くそっ!何が姫将軍だ。私は何もできないではないか」


 与えられた部屋の中でミリューゼは自分の不甲斐なさを嘆いていた。六羽の中には元元帥の娘カンナや教会の聖女アクアもいる。それは決しておまま事ではないとミリューゼは思っていた。

 しかし、共和国との戦争でも、また帝国との戦争が始まってからも、自分たちははっきり言ってお荷物だ。唯一暗躍する形でセリーヌが力を見せている。


「ミリューゼ様、落ち着かれませ。ランス様が側にいれば、ミリューゼ様の真の力も発揮されましょう」


 セリーヌが言っている真の力とは巨人族を退けた際の力のことを言っている。ミリューゼも、うすうすは気づいていた。ランスと共に戦えば今まで味わったことのない力が漲り、戦いへの高揚感が溢れてくるのだ。


「だが、ランスの留守を預かっていたのだぞ」

「それも仕方ありません。せっかく出した援軍要請を蹴った第三軍が悪いのです」


 セリーヌはすべての責任を第三軍に擦り付けようとしていた。そのために第三軍の軍師であるサクをあの場に残してきたのだ。セリーヌにとってサクは捨て石であり、役目の半分を完遂したといえる。

 二万という軍勢を残したのも、それだけの兵力があって何もできませんでしたと、第三軍の失態を明確にするためだ。


「それは……しかし……ランスから預かっていたのは私だ」


 セリーヌはミリューゼのまともなとこが美徳とだと考える反面、弱みでもあると思っている。


「それならば、我々は一時退却したのちランス様を連れて再度あの砦を取り返せば問題ないでしょう」

「そうか、取り返せば」


 セリーヌの甘い囁きに、ミリューゼは自分に言い訳ができると納得し始めていた。この場にサクラはいない。ランスと共に獣人王国に行ったからである。

 彼女がいたならば状況は変わっていたかと聞かれれば大差はないだろう。


 王都に帰ってからは、六羽たちは別々の行動をとっていた。


 カンナは第一軍にいる父親の下で、自身の部下とともに鍛錬に打ち込み。アクアは教会と協力して第二軍の負傷者たちの面倒を見た。

 マルゲリータは自身の力無さを理解して、魔法研究と魔導士たちの育成に取り掛かっていた。

彼女たちもわかっているのだ。自身の力が及ばなかったことを、そして今自分たちが何をすべきなのか考え動いていた。


「王への謁見が叶ったそうです」


 六羽と呼ばれながら、ミリューゼの側近として働く給仕に勤しむレイレが伝令がきたことを伝える。


「ミリューゼ様、ここが正念場です。非は第三軍にあり、我々は一切落ち度はなかった。そのため起死回生の策を講じるために資金の援助が不可欠です。王に上手く話して資金調達を」

「わかっている。私とて、バカではない」


 セリーヌのいいように操られているとも思わぬミリューゼは頷いて王城へ出向いた。もちろんお供としてレイレとセリーヌも付き従うが、あくまでミリューゼのお供なのだ。

 ミリューゼたちが王城に着くと、案内の下、謁見の間ではなく王族専用プライベートルームへ通された。本来であれば王族かその給仕をするものしか入ることを許されないが、特例としてセリーヌも入室を許可された。 

 レイレに関してはミリューゼの給仕として通り慣れている。


「よくぞ戻った我が娘よ。まずは無事の帰還を心から喜ぶ」


 部屋に入るとすぐに王様がミリューゼを満面の笑みで出迎えた。そこにいるのは一国の王ではなく、一人の父親だった。

 王の横には宰相が座しており、この場が公の場であることは伺える。


「ありがとうございます、父上。此度の失態申し訳ありません」

「失態?何を言っておる?」


 ミリューゼは良くも悪くも真面目である。王が父親らしい態度を示すと、叱られた子供のように正直に謝罪を口にした。

 しかし、そんなミリューゼに対して王は何を謝るのかと疑問を浮かべた。


「私はランス砦を放棄して、逃げ出しました」


 王の言葉にミリューゼは素直に自身の失態を言葉にした。セリーヌは仕方がないとあきらめムードだったが、王から出た言葉は意外なものだった。


「うん?そうだったのか?第三軍の報告では、ミリューゼが全権を第三軍に預け、王都を経由して獣人王国の援軍に向かうと書かれていたぞ」

「「はっ?」」


 王の言葉にミリューゼも、そしてセリーヌも間の抜けた声を出してしまう。それを見かねた宰相が第三軍から送られてきたであろう手紙を差し出してくる。

 そこには第三軍総大将ヨハン・ガルガンディアの刻印が押され、ミリューゼの支持にてランス砦の引継ぎと黒騎士撃退の報告がなされていた。


「黒騎士撃退?」


 それを見てセリーヌは驚かずにはいられなかった。全ての失態を第三軍に擦り付けるどころか、第三軍はそれを看破するとんでもない戦果を挙げていた。


「実に頼もしい将軍たちだ」

「将軍たち?」

「うん?聞いていないのか?英雄ランス殿が獣人王国の敵を倒し、帝国のマッドサイエンティストを退けたぞ」


 そんな報告はランスから届いていない。次々に知らされる知らせにミリューゼは地面を失うような喪失感を味わった。

 それはセリーヌとて同じであり、二人の将軍への怒りが込み上げていた。


「獣人王国への援軍が不要になった以上、ミリューゼは王都にて婿殿の帰還を待つがよい」


 謁見の間で会うのではなく、このプライベートルームであったのは、すでにミリューゼは蚊帳の外だったのだ。


「はい……」


 話を聞き終えたミリューゼの落胆は大きく。セリーヌも容易に慰められる度合いを超えていた。何より第三軍がどのように黒騎士を討ったのか気になって仕方なかった。

 

「本格的に調べる必要があるわね。ヨハン・ガルガンディア」


 落ち込むミリューゼの横で、セリーヌは良からぬ考えを巡らせていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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