閑話 リンの手紙
今日から閑話を挟みます。
あの方とこんなにも長く離れたのはいつ振りでしょう。あの方と出会って、今まで必死に後をついて来ました。
あの方は凄いスピードで人生を駆け抜けていくので、追いかける私も必死にならなければなりません。
「今日の案件は以上ですか?」
「ええ、ご苦労様です。後はやっておきます」
ジェルミーさんに確認をとって執務室を後にする。あの方の代わりとしての仕事に、大分慣れてきました。
「伝令!!!」
私が仕事を終える頃、ガルガンディア砦に伝令が届きました。それは第二軍からの援軍要請であり、あの方に向けて手紙を書かなければならなくてはなりました。
援軍要請ですので軍事方面に詳しいサクさんが主になると思います。ジェルミーさんもついでに内政方面の内容を提出すると言っていました。
そして私もガルガンディア代表代理として何か書いた方が良いような気がして、手紙を書くことにしました。
「手紙って何を書けばいいのでしょうか?」
いざ、手紙を書こうと、机の前に座ると何を書いていいのかわかりません。
「明日にでもジェルミーさんに相談してみましょうか?」
翌日、執務が終わると早速ジェルミーさんに質問してみました。
「ジェルミーさん、あの方への手紙は何を書いたらいいのでしょうか?」
「手紙……ですか?思うことを書けばよいのではないでしょうか?」
「思うことですか……」
「はい。リン殿の思っていることを、そのまま書けばあの方は喜ばれると思いますよ」
ジェルミーさんは優しい声で、いつも話をしてくれます。私がわからないと思っていても諭すように教えてくれるのです。
「ありがとうございます。もう少し考えてみます」
「はい。喜んでいただけるといいんですね」
ジェルミーさんに相談してよかったです。でも、私はあの方に何を思って、何を伝えたいのでしょうか?
「あれ?あれは、サクさん?」
サクさんがテラスの方に歩いて行くのが見えました。サクさんもあの方に手紙を書くので、話を聞いてみたいと後を追いかけることにしました。
「何をしているのでしょうか?」
テラスに出て行ったサクは、手に持っていた何かを空に向けて解き放つ。
「サクさん。何をしているんですか?」
「ツっ!リンさんですか……見ていたのですか?」
「偶然サクさんがテラスに向かって歩いていくのが見えたので」
「そうですか……」
「それで何を?」
「セリーヌ様に手紙を出しておりました」
あの方から、サクさんはセリーヌ様の側近だと聞いたことがあります。これはスパイ行為なのでしょうか。
「先に言っておきますが、定期連絡をしただけです。スパイ行為ではありません。ガルガンディアに不利益になるようなことは何も書かれていません。強いてあげるのであれば、あの方が長期でガルガンディアにいないことを書いたぐらいでしょうか」
サクさんにしては珍しい言い訳染みた言葉に、私は目を丸くしてしまいました。私はそこまで聞いていないのです。しかし、サクさんは誤解されたくないと言葉を捲し立ててきました。
「ふふふ。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。あの方からサクさんの仕事の邪魔をしてはいけないって言われていますから」
「……そうですか、すべてお見通しですか……あの方はどこまで先が見えているのでしょうね」
サクさんが何を言っているのかわかりませんでした。
「私は軍師として、先を見越しているつもりです。軍事面もですが、政情や国の行く末もそれに含んでいます。それらを吟味したとき、あの方ほどこの国に、いえ、この世界に必要な方はいないと思ってしまいますね」
私がわからないという顔をしたのを察してサクさんが説明してくれました。
「サクさんもあの方が好きなのですね」
「……どうしてそういう結論にいたるのでしょうか?」
サクさんが間をおいてから聞き返してきました。
「だって必要な人だと言ったときのサクさんの顔は、嬉しそうで恋する乙女の瞳をしていました」
「私があの方を……」
「ふふふ、私たちはライバルですね」
「すでにあの方はあなたを選んでいます。今更、横やりを入れるつもりはありません」
「そうでしょうか?エルフのシーラさんやシェーラちゃん、ドワーフのココナさん、まだまだあの方を好きな方はたくさんいますよ?」
「そうですね。あの方を好きな方はたくさんいるかもしれません。でも、あの方が選んだのはあなたです」
サクさんの真っ直ぐな物言いに私の顔は熱くなります。
「ふふふ。本当に可愛い人ね。あの方が選んだ要素も多く含んでいる。私はあなたには勝てませんよ」
サクさんがこんな風に笑うのを初めて見たと思いいます。一人の女性として楽しそうに話すサクさんは本当に綺麗で、私の方こそ勝てないと思うのです。
「私もあの方へ向けて手紙を書くのですが、何を書いたらいいと思いますか?」
「ありのままのあなたの思いをかけば良いではないですか、少しぐらい我儘を言う方が喜ばれると思いますよ」
ジェルミーさんと同じ言葉なのに、サクさんの言葉で私は書くことを決めることができました。
「ありがとうございます。書く内容が決まりました」
「それはよかったですね。できれば、あなた方が末永く幸せでいられるように私もお手伝いします」
サクさんは私にもう一度優しい笑みを向けてからお辞儀をして去っていきました。その姿はかっこよくて、サクさんのようになりたいと思います。
「あの方への思いを書きましょう。皆さんが心配していること、そしてもう少しお傍で働きたいと、少しわがままを書いておきましょう」
私が手紙を出したお陰なのか、あの方はサクさんを助ける軍隊の副官として、私を戦場へ連れて行ってくれることになりました。あの方とサクさんのために私は頑張ります。
同じヨハン様を好きになった人を助けます。
いつも読んで頂きありがとうございます。