山賊討伐 1
今日から一話づつ投稿します。気持ち長めにしています。
よろしくお願いします。
ランスの休日に合わせて食料や武器などのアイテムを揃えていた俺達は、早速クエストの目的地である、共和国と獣人王国の国境沿いへとやって来ていた。
「なんでこんな辺境のクエスト受けたんだ?」
ランスが国境に近づくにつれてそんなことを言ってきた。
「お前には必要だと思ったからだよ」
「俺に必要ってどういうことだ?」
「さぁな。それより、俺からも質問していいか?」
「なんだよ」
ランスの後ろに付いてくる二人に視線を向ける。
一人は小柄な少年で、盗賊風の軽装備にダガー系のナイフを持っている。
もう一人は魔法使い風の少女でこちらは黒いローブに黒いステッキを持っていた。
どちらも明らかに旅をするような装備ではなく、軽装備と言っていい荷物しか持っていない。
「こいつらはなんなんだ?」
「やっとかよ。一日ついてきたのに、こいつらもお前が相手にしないからショボくれてるだろ」
ランスは俺の反応に大きく息を吐く。
「最初は見間違いかと思ったんだ。仲間は分かる。だけどなどうして子供を連れて来てんだよ」
明らかに子供というか駆け出しの新人二人なのだ。ランクもEが良いところだろう。
「いきなりのクエストだったからな、集められる奴がこいつらしかしなかったんだよ。俺とお前が居れば大丈夫だろう?」
ランスの言葉に溜息を吐き、二人に視線を戻した。
「それでお前達は何ができるんだ?」
「やっと話してくれるっすね。おいらはフリード、フリーって呼んでほしいっす。職業はシーフで探索が得意っす。鍵開けとかは特訓中なので、成功率が低いっす」
スゲ~軽いノリとバカにしたくなるような話に頭を抱えながら、もう一人に視線を向ける。
「わっわたしは……リンって……いいます。あの~その~魔法使いで……火の魔法が使えます……一応中級まで、あと風も」
さっきのバカと違い今度はオドオドとした少女にこれまた頭を抱える。
二人とも12歳で、冒険者登録して一カ月だという。
ミッションの成功率が低く、成長できないため困っているところにランスに声をかけられたらしい。
ランスは面倒見がいいところがるので、こいつらの困っている姿に黙っていられなかったのだろう。
まぁ、バカだったヨハンと付き合ってくれたもランスだけなので、こればかりは悪く言い辛い。
「状況はわかった。俺はヨハンだ。第三魔法師団に所属しているが、職業は戦士で斧を使う。ヒールも使えるからケガをしたら遠慮なく言えよ。それと今回のクエストは重要クエストだから、失敗したくない。それぞれの役割を熟せるようにしてほしい。まぁ緊張するのは仕方ないから俺達のサポートを頼む」
俺が話しているうちにリンがガチガチと震えだしたので、最後はサポートと言う言葉を強く言っておく。
「いいな?」
「了解っす」
「はい~」
フリードは元気よく、リンは戸惑いながら返事をした。
甘い自分にランスのことを言えないなと思いながら笑っちまう。
「お前も俺のことは言えないな」
そんな俺の気持ちを読んだのか、ランスがそんなことを言ってきた。
「うるせぇ!」
ランスの肩を小突いて、俺は歩き出す。
探索が得意だと言ったフリードに先行させて、身を隠しながら山賊らしき影を探してもらう。
俺自身も現実に山を捜索すれば、どこでイベントが発生するのかわからない。
それでも、この山付近でイベントは起こるはずなのだ。
拠点にできる洞窟を見つけ、風を凌ぎながら焚火を作る。
「今日は収穫なしだな。まぁここまで来るのに二日、クエストを開始して三日目だが、そろそろ打ち切りを決めないとな」
ランスの休みは一週間しかない。
ミッションのことを伝えていたので、一週間の休みをとってくれたのだ。
「そうだな、帰るのに場所を使っても一日はかかる。収穫なしだと痛いな」
俺の言葉にランスも同意を示す。
山に入ったことでモンスターと遭遇して素材は得ているが、あくまで目的は山賊狩りなのだ。
ミッション達成しなければ赤字を覚悟しなくてはいけない。
「アニキ達!人影があるっす」
偵察に出ていたフリードが洞窟へと駆け込んできた。
辺りは真っ暗で良く見えないが、夜目の効くフリードの話では数人の影が、川沿いを歩いていたという。
こんな夜中にご苦労なことだと思い、この機会を逃さないために俺達はすぐ出発した。
リンは強行軍に大分疲労がたまっているようだったので、ヒールをかけてやる。
「ありがとうございます」
三日過ごせば普通に挨拶ぐらいはできるようになるものだ。
まぁ会話をマトモにすることは未だにできないが、挨拶や単語が言えるなら十分だろう。
「いや、これから長くなる。今のうちに体力は回復しておけ」
俺はヒールの後に水と乾パンを渡してやる。
リンに続いてランスとフリードにも荷物から渡してやる。
こんなにも長くクエストに出たことがないのだろう、四人分の世話をする羽目になってしまった。
戦争用に数カ月は生活できるだけの食料を用意していたので、問題はないが後で請求してやろうと思っている。
「あっあの~」
俺が全員に食料を配り終えるとリンが珍しく声をかけてきた。
「なんだ?」
「ヨハンさんは魔法師団所属なんですよね?」
「そうだ」
「魔法を使えるのに、どうしてヒールも使えるんですか?」
「はっ?」
「だって、魔法使いは火力が命だと師匠に教わりました。ヒールなんて覚えるのは神官の役目だと」
「ああ、俺は魔法師団に所属はしてるが、魔法使いじゃないからな。俺は戦士で騎士を目指さしているんだ。だから自分の身を護れるならヒールでも火力が大事な魔法でも覚えるよ」
俺の言葉に驚いた表情でリンが固まってしまった。
リンの師匠は相当に火力を大事にする魔法使いらしい。
「私、冒険者になって思ったんです。もっと皆さんの役に立ちたいって、ヨハンと会えてよかったです。私にも希望が持てました」
何に感銘を受けたか知らないが、尊敬の眼差しを向けれれている気がする。
「ヨハンのアニキ、影が見えたっす。イチャイチャはその辺で止めてほしいっす」
フリードが膨れっ面で発見報告をしてくる。どうやらフリードはリンが好きらしい。
リンに対して女性としての視線を向けたことはないので、フリードの態度がおかしかった。
「すまん、すまん。それで、敵は何人だ?」
フリード、ランス、リン、俺の順番で隊列を組んでいるので俺からは敵の数が見えない。
「5人だな。何か大きな荷物を運んでいるようだ」
「大きな荷物?」
「ああ、四人がかりで大きな箱を抱えている。一人は警戒しながら道を作っているな」
どうやらビンゴだな。大きな箱にお姫様がいるはずだ。
「フリード、相手の風貌とか見えないか?」
「月の光も無いんじゃ、これが限界っす」
フリードも夜目を最大限に使っているが見えない。これで戦闘を仕掛けて違いましたでは済まない。
俺達は物陰から尾行を続けながら、相手の様子をうかがう。
「あっ!」
「どうした?」
フリードの声にリンが驚き、ランスが声をかけると、リンが足を踏み外した。
「リン!」
俺が手を伸ばすが、リンが山間を滑り落ちていく。仕方なく俺は、リンを追いかける。
「ランス!」
「おう」
はぐれるぐらいならば一緒に落ちた方がいい。
ランスは俺の意図をすぐに察してフリードを掴んで山間に飛び込んだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。