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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
騎士になりました。
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サクの策 6

 黒騎士率いる騎馬隊がランス砦の外周を走りながら挑発してくるのに対して、サクが攻撃命令をすることはなかった。黒騎士が連れている騎馬たちもまた強者なのだ。砦を守る兵士たちが城壁の上から矢を放っても、防がれるか当たりはしない。上手く当たったとしても千本放って一人や二人では意味をなさない。

 だからこそ、騎馬たちが走る姿を見ても何ら手立てを講じることはない。


「ふん、挑発には乗ってこんか、ならばこちらが誘いに乗ってやろう」


 黒騎士も、サクが何かしら仕掛けを用意していることは理解できていた。それでも膠着状態が続くことを面白いとは思わなかった。黒騎士はランス砦の城門の前に立ち、魔剣を抜く。


「ハーデス、その力を見せよ」


 黒刀身に赤い波紋が描かれた魔剣は、黒騎士の願いに応えるように怪しい光を放つ。黒騎士は城門に向かって魔剣を振るう。たった一刀振るわれただけで、城門はその形を保てなくなった。

 攻城兵器を使い、何十人もの兵士を使ってやっと攻略することができるはずの城門を、たった一人の人間が切り伏せた脅威に王国兵は愕然とする。


「化け物」


 王国兵は誰もが思ったことだろう。あの黒騎士に本当に勝てるのか、王国兵が疑問に思ったのとは別に、サクは冷静に腕を振り上げる。城門が崩れ、敵の姿が見えた瞬間、サクの手が振り下ろされた。


「放て!!!」


 今まで外周を走る黒騎士に何もしてこなかったのは確実に敵を捕らえる想定をしていたからだ。サクが放った一手は城門を破られて初めて発動する。


「黒騎士殿、信じていましたよ。あなたならランス砦の城門を破ってくると」


 サクは敵である黒騎士を信頼していた。その強さを、必ず城門を破る手立てを持っていると思っていた。だからこそ、サクは城門を破られる前提で策を考えていた。


 一斉に放たれる矢の雨に、屈強な黒騎士率いる騎馬隊の意表を突いた。騎馬隊も砦攻略の際に、上から降り注ぐ矢は経験する。しかし、まさか城門を破られてこんなにも迅速な対応をされるとは考えていなかったのだ。正面から降り注ぐ矢は、騎馬隊よりも馬に刺さり数十騎が転落していく。

 城壁から放った矢では、一騎か二騎だったものが数十を倒すことができたのだ、十分に策として成功と言える。


「第二陣放て!!!」

 

 しかし、それで満足するサクではない。第一陣はあくまでけん制である。本命の第二陣は矢に油を付けたロープを付けて放たれた。それは騎士たちを狙うのではなく、なるべく後ろにいる騎馬にも届くように放たれる。


「なんだ?ロープ?」


 騎馬たちも先頭が矢の雨によって崩れたため、城門で立ち往生していた。身動きが取れずにいた兵たちは前が見えないので状況がわからない。飛んでくる矢にロープが付いている意味など理解できないだろう。


「走れ!!!」


 しかし、いち早く状況に気付いた黒騎士が号令をかける。黒騎士の声に鍛え抜かれた騎馬たちが味方を飛び越え砦の中へ流れ込む。


「魔法隊、今へ」


 それすら見越していたサクが、城壁の上から魔法隊に号令をかける。弓隊は第二陣が矢を放つと同時に陣を引いて砦の中へと身を隠しながら次の作戦に備えるため動いていた。


「大火炎」


 それはヨハンが編み出した協力技であり、サクが黒騎士を討つうえで最初の局面だと判断していた大火力魔法だ。

 騎士達は盾によって魔法も防いでしまう。騎馬隊に魔法を届かせるためにはどうすればいいか、答えは魔法でなく科学現象を利用する。

 油は火によって燃える、単純なことである。ロープにたっぷりとつけられた油は黒騎士の後ろから侵入してくる騎馬たちを火達磨へと変えていく。


「やってくれたな」


 数百騎が大火炎の餌食となり、積み重なった死体によって後続も侵入できずに立ち往生してしまう。侵入した黒騎士と数騎だけが、ランス砦の広場に取り残される。


「手を緩めてはいけません。皆さん敵を仕留めますよ」


 二万の殺意が、残された黒騎士と騎馬たちに向けられる。


「放てーーー!!!」


 キリングの声でかけられる号令によって一斉に矢が四方から放たれる。


「舐めるな!!!」


 一万人近い兵士が放った矢を、黒騎士は魔剣の一振りで弾き飛ばした。


「今ので俺を倒せると思ったか?舐めるなよ」


 サクを真っ直ぐに見つめ、黒騎士は魔剣をサクに向ける。


「待っていろ。貴様の首は俺が貰い受ける」


 黒騎士には分かっているのだ。この場で指揮をとっているのが誰なのか、誰がこの戦場を支配しているのか、全ての策をねじ伏せてサクの首を取りに行くことを誓った。


「ならば、私は全兵力を使ってあなたを打ち負かしましょう」


 サクは罠にハメた黒騎士が生き抜いたことに敬意を払い。挑発に対して挑発で返した。それは彼女にしては珍しいことであったが、それすらも彼女にとっては計算の内なのかもしれない。


「ここからは自由だ。自らの力で敵を倒すがいい」


 黒騎士は標的をサクに定めた。残された兵達のことなど何も考えず、砦の中へ突っ込んでいく。


「キリング殿、場所を変えましょう。ここからは他の兵など関係ありません。黒騎士と我々の戦いです」


 サクもまた黒騎士を標的として、自分の策を存分に発揮出る場所へ黒騎士を誘い込むため移動を開始する。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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