サクの策 4
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「開門!!!」
号令と共にランス砦の門が開かれる。いきなり敵が飛び込んでくるかと思ったが、杞憂に終わった。
サクの策を実行するために、俺は第三軍をまとめて出撃の準備を急がせた。病人たちは、リンがいなくなるということに不安を抱いていたが、第二軍にも衛生兵はいるのだ。彼らに後を任せて、リンも第三軍の副官として隊に組み込んだ。
シェーラが偵察任務から戻り、黒騎士率いる騎馬隊を見つけられなかったことを報告した。狩人たちの中には身を潜めるスキルがあるので、狩人たちを手足のように使って情報を集める範囲を広げたが駄目だったようだ。
敵は重軽傷者の処置や俺が放った戦略級魔法へ、どう対処するかなどの話し合いがなされていたという。
「概ね俺とサクの予想通りか」
ヨハンはサクが読んだ通りに敵が動いていることを知り、半分安堵する。しかし、自分の中で消えない嫌な予感が拭えないのだ。
何より向こうの総指揮官である黒騎士の行方が分からないことが、嫌な予感をぬぐえない原因に思えてならない。
「出撃!!!」
開かれた門から第三軍が出撃していく。それを見送る第二軍の兵は、ほとんどがリンを見送りに来ているのだろう。俺は先頭に立ち、サクの言葉を思い出していた。
「敵が沈黙を守っているのは、こちらから追い打ちをかけてくるのを待っているからかもしれません。攻撃に転じる余力があっても、こちらに好機と思わせることで誘い出し、誘い出したところで一網打尽にしようとしているのでしょう」
サクの言葉は俺が嫌な予感だと思っていたことに当てはまる。
「そこで第三軍率いるヨハン様が出撃して、戦場を横切るようにガルガンティア方面へ移動してください。敵からの攻撃があれば応戦を、攻撃がなければそのまま森に隠れてください」
出撃と共に俺たちは、敵が陣を引いていた場所を横切るように駆け抜ける。敵は戦線を下げているので、こちらが横切っても矢の一本も放ってはこなかった。何事もなく森に入ることができた。
「森に入ることができたなら、黒騎士を警戒してください。黒騎士が隠れることができるのは、ガルガンディア方面の森か、西にある森のどちらかしかありません。もしもガルガンディア方面であれば、森に入り次第、遭遇戦になる恐れがあります」
森に入っても敵の気配はなく、俺たちは野営の準備に取り掛かる。敵と出会わなければ一日を森で野営して過ごすことになる。
そうすることでバカな敵には近くに狙いやすい獲物がいるという囮になり、賢い敵には警戒するべき存在が潜んでいると思わせることができる。
「私たちが狙うのは賢い敵である黒騎士です。ランス砦にいる王国兵は二万人、ヨハン様のお陰で戦える状態まで回復した彼らを使って黒騎士に対抗します。帝国はシェーラ殿に集めてきてもらった人数だけでも十万はいると思われます。この戦いに勝利するためには多少のリスクを負わなければならないでしょう。黒騎士がどれだけの兵を連れているかはわかりませんが、 王国兵二万を黒騎士率いる騎馬隊にぶつけます」
森に逃げた者たちを追わず、砦に襲い掛かってきた黒騎士をサクは討つと言った。それがどれだけ危険なことであるかはサクもわかっている。サクの策が失敗すれば、確実にランス砦は帝国の手に落ち、王都を目の前に帝国は最高の砦を手に入れることになるのだ。
「それこそヨハン様が気に病むことではありません。この砦を本来守るべき人たちはすでにこの地を立った。残された者たちができることは敵に一矢報いることです。それはガルガンティア兵を蔑み、ミリューゼ王女に見捨てられた彼らであるべきなのです」
今回のサクは非情であると俺は思っている。だが、決して有利な状況とは呼べない。今の状況を打開するためには非情な判断も必要であると思った。
「ヨハン様、敵襲です」
サクの言葉を思い出していた俺の下へ、シェーラからの伝令がやってくる。
「数は?」
「一万ほどがこちらに向かってきます」
「黒騎士か?」
「いえ、陣を引いていた部隊から来るので戦功を焦った者ではないかとシェーラ様がおっしゃっておりました」
ヨハンが率いる第三軍が五千なのだが、倍になる一万という言葉を聞いてもヨハンが動じることはなかった。
「弓隊に陣形を組ませろ。魔法が使える者たちも集めておいてくれ」
「はっ」
伝令はヨハンの指示を伝えるために去っていく。
「大丈夫でしょうか?」
「黒騎士ではないということは賢くない奴が戦功を求めたのだろう。返り討ちにするだけだ」
「はい」
リンが自分の指揮する部隊に戻ったので、俺はダルダと共に上空から号令をかける。
「魔法隊は敵に矢を届かせよ。弓隊は敵に矢を打ち込め。迎え撃つぞ」
敵は騎馬隊で構成されているらしく足は速いが、防御に優れてはいない。俺はダルダの上からタイミングを計り号令をかける。
「放てーーー!!!」
俺の号令と共に一斉に矢が打ち出される。騎馬隊からすれば遠い場所から弓に届くはずがないと思っていたのだろう。
しかし、魔法隊が作り出した風に乗り、矢は騎馬を打ち抜いていく。
「第二陣発射」
三列に並べた弓隊が、交代で弓を放っていく。波状攻撃することで敵から休まず矢が降り注いでいるように見えていることだろう。
「ダルダ、いくぞ」
俺はダルダと共に一万人の帝国兵に突撃をかける。矢によって数百騎が脱落し、馬が転ぶことで連鎖して兵たちも倒れていく。そこにダルダと俺の協力技が帝国兵を襲う。
「勝鬨を上げろ」
一万の騎馬兵は呆気なく姿を消した。森に陣取る俺たちに騎馬隊との相性は最高だった。矢と魔法から逃げ延びた騎馬隊も森に入った瞬間に狩人たちの獲物と化した。一万の騎馬隊が消滅するのに二刻もいらなかった。
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