第二軍の現状
ガルガンディアに戻って執務室に入れば、サクやリンを始めとした主要メンバーが揃っていた。
「ヨハン様おかえりなさいませ」
「「「おかえりなさいませ」」」
ジェルミーを筆頭に幹部たちが頭を下げていく。種族など関係なく並んだ者たちは嬉しいが、いつの間にここまで堅苦しくなったのか。
「そういうのはいいから、現状を教えてくれ。サクが俺を呼び戻すぐらいだ。相当なんだろ?」
俺は話題を変えるためにサクに話を振った。ジェルミーやリン辺りは面白いモノがみれたと笑っている。
「はい。現状を説明しますと、ハチャメチャです」
「ハチャメチャ?」
サクの物言いに、俺は聞き返してしまう。珍しい口調であったこともあるが、サクの声から疲れているように感じられたからだ。
「はい。まず、戦争が開始された西の都では、第二軍の将軍であるルッツ殿が、現在も戦闘を繰り返しているため、ルッツ殿は第二軍から離脱した状態です。そのため戦力の四分の一が西の都に滞在しています」
ルッツは俺が出ていくときと同じか、まぁこれは仕方ないだろう。闇法師のモンスター群を相手に勝つのは至難の業だ。守りに徹しているのだろう。
「また、これは極秘にわかったことなのですが、どうやら英雄様は獣人国に援軍を出していたらしいのです。数にして千ほどが前線から離れております」
「援軍自体は求めに応じたんだろう。ランスのしそうなことだな」
俺の言葉にサクはため息を吐く。
「それだけであれば問題なかったのですが、英雄様は私兵を全て連れて自ら出陣なさいました」
「はっ?ランス自ら?サクがため息をついたのはそこか、なるほどな」
サクがため息を吐く理由に納得できた。だが、いよいよ獣人王国のイベントが始まったらしいな。もちろん、ミリューゼのピンチにはランスが帰ってくるだろう。それが主人公様のご都合主義というものだ。
「まぁ、それほど心配する必要はないだろう」
サクやジェルミーなどは深刻な状況だと思っていたようで、俺の発言に怪訝そうな顔をする。
「何をおっしゃられているんですか!ことの重大性はヨハン様にもわかるでしょう」
実際、最高指揮官であるランスが主戦場から離れるのはかなり問題があるだろう。しかし、これも話の流れとしては当たり前のことなのだ。そんなことを知らない人たちからすれば、かなり危険な行為に思えるだろう。
「はぁ~その穴埋めに俺が呼ばれたのか?」
「いえ、ランス様は一度戻ってきてミリューゼ様をお救いいたしました」
戦争は開始したからな、ミリューゼ様と黒騎士では力の差がありすぎる。ピンチとなれば帰ってこずにはおれないだろうな。まぁランスなら間に合うだろう。
「それじゃあ。なんで俺が呼ばれたんだ?」
「敵の数が予想よりも多く対処に困っているそうです」
「敵の数が多い?」
「はい。帝国の兵士は一千万とも言われています」
「一千万……圧倒的に多いな」
「王国には、そのうちの三分の一が動員されているそうなのです」
「三分の一?」
「はい。中央に黒騎士、西に闇法師、そして我々のところに巨人が攻めてきていました。さらに獣人王国にはマッドサイエンティストが特殊な兵を連れて襲撃していると聞きます」
四つの部隊を合わせると、300万ほどになるらしい。六割近く中央のランス砦と対峙する黒騎士の支配下に置かれ、三割ほどが獣人国に向けられいるらしい。残りが西の闇法師に割り振られ、こちらにはジャイアントたち100が攻めてきた。
帝国本国にはまだ残り三分の二が正規兵として残っていて、、死霊王、竜騎士が指揮を執ることとなっている。
「どうしてランスは俺に援軍要請を?こちらにも巨人が攻めてきているのは伝わっているんだろ?」
「こちらに書状が」
サクが渡してきた手紙はランスから俺に直接当てた手紙だった。内容は以下のようであった。
ヨハンへ
現在、獣人王国が侵略されているため防衛の手伝いをしている。一時的に第二軍の指揮を執ったが、まだまだ獣人王国も無事ではない。
そこで、第二軍の指揮権をミリューゼに移行するので補佐をしてやってほしい。実質の権限はミリューゼに任せるが、プライドの高い彼女が傷つかないように影ながら守ってほしい。
ヨハンが巨人と戦っているのは知っているが、こんなことを頼めるのはヨハンしかいないと俺は思っている。頼れる親友を持てて誇りに思う。
では、あとは頼んだ。
「なるほど、ふざけてるな。なんだこの他力本願な内容は」
「だからっ!だから言ったではないですか」
ジェルミーは心底怒り、サクはため息を吐くのも嫌なほど呆れていた。
「王女様の護衛をしろってことか?」
「そうなりますね」
「なるほどな」
自分が自由に戦うために一時的でもいいから、ミリューゼを護れということだ。巨人族との戦いをしながらでも守ることはできるだろうと言ってきたのだ。
「やるしかないか。まぁこれなら俺が直々に出張る必要はないな」
ランスがいるのであれば出て行ったほうがいいかと思ったが、これなら俺よりも違う者を向かわせた方がミリューゼ様の周りも安心するだろう。
「アイスは国境の街においてきたし、残ってるのはライスか」
個人の戦闘能力に関しては問題ない。しかし、将軍としての力量は、ライスはアイスに劣る。アイスは直観で物事を判断する。それが上手くいくから恐ろしいのだ。
だが、ライスの方は、分析によって答えを出す。そのため経験にないことは判断できない恐れがあるのだ。
それでも第二軍で軍師をしていたというので、かなりの場数は踏んでいるが、それでも足りない。
「なら、ライスを将軍にしてサクが出陣してくれ。残った軍に関してはリンが引き継いでくれ。その間の実務は俺が務めよう」
俺の決定に意外な顔をしたのは、ライスと普段無表情のサクの二人だった。
「よろしいのですか?」
「うん?何かおかしいか?」
「あっ、いえ、私はセリーヌ様の部下です。ライス殿とて過去は第二軍の軍師であり、貴族の出ですよ」
「だから?」
「信用してよいのですか?」
「そういうことは自分の口で言わない方がいいと思うけど。まぁいいや、俺は二人を信頼しているよ。何よりセリーヌ様の部下でも王女様は守るだろ?それに過去がどうであれ、ライスに俺を裏切るメリットがないな。仮に裏切られても痛くないと言える」
俺の言葉にサクは言葉を失った。ライスは嬉しさ半分、戸惑い半分と言った苦笑いを浮かべていた。それでも自分が認められていることが嬉しかったのだろう。
「喜んで任務を果たさせていただきます」
「ああ、頼んだ」
このライスの言葉で、サクも反論することを完全にやめた。二人からの意見が終わると、会議は終わりを告げた。
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