新たな仲間
次の話から閑話を挟みます。
ヨハンとジャイガントが次元の狭間から抜け出してくると、そこにはエルフと巨人が手を取り合っている姿があった。
巨人たちの多くはそのままの大きさだが、何人かが動きやすい大きさに縮んで破壊された家を修復している。
「どうなってるんだ?」
ヨハンの疑問に答えてくれたのは、ヨハンたちが次元の狭間から帰ってきたことに気付いたシーラだった。彼女はヨハンが帰ってきたことを気づくと巨人たちと話していたのをやめてヨハンたちに近づいてくる。
「我らが大将。ご無事なご帰還何よりです」
軍議のときに見たシーラはどこかの貴族の令嬢のような佇まいをしていた。しかし、ヨハンの前で片膝を突いて礼を尽くす姿はどこかの武人のようで頼もしかった。
「えっ、あっ、ああ。シーラか。誰かと思った。えっと……何かあったの?」
「報告はのちほど。して、ジャイガント殿とは話はついたのでしょうか?」
シーラはちらりとジャイガントを見る。シーラには巨人族を仲間にしたいと告げている。ヨハンとジャイガントが連れ立って戻ってきたことで答えは出ているが、ヨハンの口からシーラは聞きたいということだろう。
「ああ。戦いは俺の勝ちだ。巨人族は俺たちについてくれることになった」
「それはようございました。私からもご報告が」
「うん?なんだ?」
「この戦を通して、私にも思うところがありました。ゴルドー殿と話し合ったのですが、私も評議会に参加しようと思います。また、私が参加することを告げると、ゴルドー殿から評議員委員長を任されることになりました」
シーラはかつて責任を背負っていた。そのせいでシーラは一度壊れた。疲れ切っていた彼女のこと思い、大丈夫かと見つめる。
俺の言いたいことがわかったのか、シーラは固い決意を込めた瞳で俺を見つめ返してきた。
「大丈夫なんだな?」
確認する意味で言葉を発する。彼女は俺が納得したことを悟ったのか目を閉じた。
「はい。私はもう逃げません」
「そうか、なら任せる。シーラが評議員委員長になってくれるなら、精霊族も安泰だな」
「はっ。お言葉に添えるよう精進致します」
堅苦しいやり取りは終わり、ドリューの話を聞かせられる。巨人族の不甲斐なさにジャイガントは巨人軍を叱咤しに行き、アイスたちはドリューの策略により、偵察に出ていたことがわかった。
シーラの活躍で事なきを得たが、エルフやドワーフなどの精霊族に被害が出たことを、俺はシーラに頭を下げる。
「軽率な行動をとった。すまない」
「頭をお上げください。ヨハン様がシールチェーンの所有権を譲渡してくださっていたからこそ、私たちはこうして生きていられたのです。ヨハン様が私を信じてくださったこと、心より感謝いたします」
いつの間にか、俺を呼ぶ言い方が「ヨハン様」に定着していることにむず痒い気持ちになる。戦いが始まる前は殿だったのに……。
「それならよかった。戦後処理もあるだろうが、とりあえずは目的を達成した。死んだ者の弔いと巨人族を歓迎したい。今日は宴にしよう」
「はい。皆も新たな仲間を歓迎しております。そして死んだ者たちが安心して地に帰れるように送り出しましょう」
共通の敵と戦ったことで、エルフやドワーフたちも巨人たちのことを受け入れることができ、上手くまとまったようだ。アイスたちには厳重注意が必要だが、どうやらなんとか事なきを得たな。
「酒はあるか?」
「おう。こっちにあります」
宴が始まれば悲しいことも嬉しいことも分かち合える。
酒を飲み始めれば、ジャイガントとゴルドーが意気投合した。元々ドワーフ族は酒に強いモノが多く、ゴルドーはその中でも一番飲む。対してジャイガントも酒は二番目に好きなものだとゴルドーと張り合うように飲み始めた。
二人とも樽をコップ替わりにしているので、どれくらい酒豪かがわかると言うモノだ。
意外なのはアイスやシーラも酒に強かったことだ。親睦を深めようと二人が飲み比べを始めた。飲みすぎて酔っ払い、服を脱ぐ行為にまで発展しているのは無礼講ということで見逃しておこう。どちらも副官が止めに入っていたしな。
俺の横にはココナがいた。見た目は幼女のココナだが、戦えばゴルドナと同じように勇猛果敢な戦士となる。手先も器用で鍛冶師としても一流の彼女がお酌をしてくれる。
「ヨハン様。私も怖かった。死を予感した」
エルフだけではなく、ドワーフにも被害が出ている。ココナの心境を考えれば辛かったのも分かと言うものだ。
「側にいられなくて悪かった。俺がいれば事態は変わっていたかもしれないのに」
俺の言葉にココナが首を横に振る。
「ヨハン様は悪くない。あのときも、今も、一番大変なことをしてくれてる」
あのときと言う言葉に、初めてジャイガントと戦ったときのことを思い出す。あのときもココナと二人でゴルドーを説得して国境の街に来たのだ。
「そういってくれると助かる」
「本当。ヨハン様は凄い」
今日のココナはなぜか色っぽい。幼女のような小柄な体形だが、成人した女性である。しな垂れかかられれば柔らかい肌と鼻孔を擽る女性らしい香りにドキリと胸が脈打つ。
「ヨハン殿は、ココナ殿が好みか?」
俺がココナのことで頭がいっぱいになっていると、反対側からシーラの声がする。振り返ってみれば絶世の美女が目の前にいた。
「近っ!」
「胸は私もあまり大きくはないが、私のような女はダメなのか?」
俺があまりの近さに驚いていると、シーラが腕に絡みついてきた。他種族の美人二人から言い寄られる状況にシドロモドロになってしまう。
慌ててどうしたものかと混乱していると、いつの間にか二人とも俺の肩に頭を預けて寝てしまっていた。
「なんだよ。酔っ払いかよ!」
安心半分、勿体なさ半分で息を吐く。二人を寝かせるように指示を出す。俺は風に当たりたいと思って席を立った。
満点の星空を眺めていると、リンのことを思い出す。
「やっぱり連れてくればよかったな」
リンも成長を続けている。だからこそ、離れることで互いの仕事を全うできるようにしたかった。それでも寂しいと感じるのは仕方ないだろう。
「大将が一人でいるのは不用心だな」
声をかけられ振り返ると、キル・クラウンがいた。
「どこかに行ったんじゃなかったのか?」
「戦いを見守っていただけだ」
「そうか……」
「咎めないのか?」
「咎めても仕方ないさ。それもあんたの仕事だろ?」
「違いない」
俺は持っていた酒をキル・クラウンに渡す。
「いいのかい?」
「今日は無礼講だからな」
敵だと宣言しているキル・クラウンはどこか憎めなくて、俺はキル・クラウンと二人で満点の星を眺めながらグラスを傾けた。
いつも読んで頂きありがとうございます。