タイマン 後編
ジャイガントが使うアーティファクトの性質を見抜くために攻撃を避けながら分析する。
槌の部分を地面に振り下ろすと、地面を這う雷が生まれる。横に薙げば業火が生まれ、かち上げたならば風の渦が舞う。
「自然の力だと?」
「この槌は神が作りし聖なる武器。その力は自然を操ることができる。今見せた力なんぞ、この武器からすれば片鱗に過ぎんぞ」
ジャイガントの魔力吸収スキルを封じたと思えば、神様が作った武器とか反則過ぎるだろ。そんな設定ゲームの中にもなかったぞ。
「そんな反則級の武器とかなんで持ってるんだよ」
「何が反則だ。戦いに反則なんぞないぞ。勝てばいいのよ」
俺は色々考えた自分を殴ってやりたい。このオッサンはどんな形でも負ければ認めたのではないだろうか。
「なら俺も遠慮しない」
今までとは違う鎖を出現させる。俺は纏っていた魔力を解除して、ディメンションと同時期に習得したスキルを発動させる。
「サイコキネシス」
この世界に超能力という概念があるのかどうかわからない。それでも俺が創造したこの力は、魔法以外の生命力を使って鎖を持ち上げる。
「芸のない奴じゃな。鎖なんぞで何ができる。いくら刺そうが、ワシの鍛え抜かれた筋肉には届かん」
そんなことはどうでもいい。シールチェーンの中でも最高の出来がこの一本なのだ。シーラたちに渡したのは、このオリジナルの複製品に過ぎない。
「なら、試してみろよ」
鎖が生きた蛇のようにジャイガントの体に巻き付いていく。
「こんな鎖なぞ」
ジャイアントが力任せに振りほどこうとするが、今までの鎖とはわけが違う。力で振りほどけるほどオリジナルの鎖は柔ではない。何よりジャイガントに対抗するようにサイコキネシスで締め付ける力を増大させている。
「ぬぬぬ、ふぬっ!!!」
いくら力を入れても振りほどけるはずがない。俺はサイコキネシスをかけたまま鎖に魔力を流し込む。
この鎖に名前を付けるとするならばドレインチェーンと名付けたい。シールチェーンは動きを封じ、魔力を遮断するものだが、このドレインチェーンは捕まえた者の魔力を吸い出す。
「なっ!」
ジャイガントはいくら力を入れても抜け出せないことにようやく気付いた。強引に槌を振るおうとするが、シールチェーンがジャイガントの動きを止める。
「なぜだ。なぜ力が入らん」
身動きも取れず、魔力を吸い出され、スキルも発動しない。不可思議な現状にジャイガントはとうとう倒れ込む。
「はぁはぁはぁ、なんなんだこの鎖は!」
叫ぶことしかできなくなったジャイガントを見下ろすように俺は静かに近づいていく。
「ネフェリト・ジャイガント。俺の勝ちだ」
「何を言っておるか、ワシは負けてなどおらん。こんな鎖、すぐに外して」
「あんたが自身の力で戦うのならば、俺も自分自身の力で戦わなければフェアーじゃないと思った。だけど、あんたはあんた自身の力じゃない。神様の力に縋った。他人の力を頼りにしたあんたの負けだ」
ジャイガントの顔は大きい。口の前に立てば一飲みされてしまうかもしれない。それでも俺の前で身動きを取れずに這いつくばっている。
「この鎖はなんだ!」
「あんたが神の武器に頼った。俺は人の叡智に頼った。同じようなものだ。俺はあんたを倒すためにどうすればいいか考えに考え抜いた。そこで思いついたのが、あんたのスキルを封じることだった。最初は戦うために次元を作り出すことを考えた。ディメンションはそんな俺の考えを実現させてくれた」
次元の狭間を見渡す。地面はあるが、どこまで続くかわからない闇の空間。それでも果てはある。何より俺が死ぬか、スキルを解除すれば元の場所に戻れるようになっているのだ。
ここまで空間を広げるために何度使用したことかわからない。それでも次元を理解するために能力を何度も使った。
「しかし、俺は将軍となったことで仲間を護らないといけない。伝説の武器なんて都合のいい物は俺は持っていない。あんたを倒すことも巨人たちを倒すことも俺にはできない。なら普通の武器であんたたちに対抗するしかない。だけど、被害を最小限に収めるためには俺の持てる技術を全て使う必要があった。そしてゴルドー共に完成へ導いたのが、このドレインチェーンだ」
ドレインチェーンは強力だった。魔力を流し込むことで術者まで巻き込む恐れがあった。何度、実験してもこれだけは改善できなかった。だけど魔力を使わず、ましてや触れずに鎖を使うことができたらどうだろうか?そう考えているとジョブと共に、このスキルを得られることになった。
「あんたが神の武器を使うなら、俺は人の知識と努力、そして思いの集大成で完成した武器で、あんたを地に這いつくばらせる」
俺の言葉にジャイガントは目を開き、ゆっくりと閉じた。
「ふぅ~ワシの負けか……負けるとはこんなにも悔しいことなのか……」
「そうだ。負けたら悔しい。だから次勝つためにどんなことでもするんだ」
「貴様はワシに負けて強くなったということか?」
「そうだ。二度と負けたくない。あんな悔しさを味わいたくない。そう思ってきた」
「なるほどな」
俺の言葉に納得したのか、ジャイガントは仰向けに大の字に寝そべった。
「好きにするがいい。ワシは負けた。あのときお前に伸びしろがあると思ったから生かした。しかし、ワシに伸びしろはない。お前に殺されるのであれば満足だ」
ジャイガントは心底満足した顔をしていた。戦いに負けたのは始めたなのかもしれない。負けた後も潔いジャイガントに清々しさを感じる。しかし、戦士として死を望む、このオッサンを殺してやるわけにはいかない。
「おい、オッサン。俺の下につかないか?あんたはここで俺に負けて死んだ。ならあんたの命は俺のモノだろ?俺の夢に付き合ってくれないか?」
「夢じゃと?」
「そうだ。俺には夢がある。それには巨人族の力が必要だ。何よりあんたが手を貸してくれるなら心強い」
俺の言葉にしばし、ジャイガントは考えるように沈黙して口を開く。
「ありえんな。ワシは天帝と共に夢を見た。今も夢の続きを見ておる途中だ。天帝は唯一俺が認めた男、いやお前で二人目になった。しかし、最初に歩んだのは天帝とだ」
ジャイガントの瞳には夢半ばで倒れる男の表情はなかった。むしろ、満足がいく生き方ができたことへの満ち足りた表情だけだった。
「うるさい。俺にはお前が必要なんだ。敗者は黙って従え!」
「なんじゃその言い方は!負けたとはいえ敗者にも尊厳はあろう!」
「尊厳なんかあるか!単なる死にたがりに尊厳もへったくれもない!いいか、天帝は国を作って満足したかもしれない。だけどな、俺は今からが大変なんだ。負けたならそれを手伝うのは当たり前だろ」
俺の理不尽な言葉にジャイガントはハトが豆を食らったような顔をしている。しばし沈黙が流れた後、唐突にジャイアントが大きな声で笑い出した。
「ガハッハハハハッハ!!!!お前は本当に面白い。よかろう。天帝に逆らうことになるが、お前の夢とやらを聞かせろ。ただし下らぬ夢ならば断わるぞ」
「いいさ。とりあえず話を聞け」
俺は腕を組んで偉そうに語り出す。ジャイガントは孫を見るような目で俺を見てくるのが気に入らなかったが、ちゃんと話を聞いてくれた。
いつも読んで頂きありがとうございます。