タイマン 前編
鎖とは便利なものだ。振るえば鞭のようにシナリ、叩けば棒のように頑丈で、守れば固くも柔らかくもできる。魔力を注ぎこむことで自由自在に変化する鎖を駆使して、ジャイガントを翻弄する。
「面妖な技を使いよる」
奇抜な技を見てもジャイガントの余裕は変わらない。楽しそうに俺の攻撃を受け、反撃を繰り出してくる。
「全力で行かせてもらうぞ」
「いくらでも来るがいい。全て打ち砕いてくれるわ」
鎖の先端は槍のようにとがっている。尖ったいくつもの鎖を自由に動かして攻撃を繰り出す。
「行け!スネークチェーン。轟け、サンダーチェーン」
地を這うようにジャイアントの足に絡みつくスネークチェーン。ジャイガントの頭上から雷のように降り注ぐサンダーチェーン。付加魔法で強化をかけて、いくら乱暴に扱っても絶対に切れないようになっている。
尖ったチェーンの先端がジャイガントの肩や足に突き刺さる。
「ぐうう。虫に刺されたか?」
ジャイガントの大きさからすれば、針が刺さったようなものだろう。だが、そこから俺の攻撃は続く。
「浸食せよ。ドリルチェーン」
食い込んだ先端はドリルのように回転をはじめ、ジャイガントの肉を抉る。
「しゃらくさいわ!」
削られる肉をモノともせずに、ジャイアントが力を込めただけで、鎖の先端がはじき出される。ジャイガントは筋肉の収縮だけで、ドリルを弾き飛ばしたのだ。
「小僧!臆したか?そんな小細工のような技でワシに勝てるとでも?」
小さな傷が無数にできているが、致命傷になり得るものは全くない。それでもジャイガントの体には確実に傷がついている。
「カスリ傷でも構わない。確実にあんたに勝つ」
「まどろっこしいことは好かん。だから全力でいくぞ」
ジャイガントの腕に巨大な斧が現れる。巨人族が使う武器は、その一振りで街を破壊する。
「俺も負けない」
ジャイガントが斧を振り上げた。俺は鎖を何重にも重ねる。
ガッキーン!!!
鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。切れるはずのない鎖が数本切れた音がした。
「やるな」
全力で踏ん張っているのに対して、ジャイガントは余裕で、もう一度振りかぶる。前回のような様子見は一切ない。全力のジャイガントが俺を攻め立てる。
「ガハハハハ!ワシの攻撃をここまで受け止めるか」
振り下ろされる斧は加速することで威力を増していく。最後の一振りとばかりに大きく振りかぶった腕が斧の重みにより振り下ろされる。護っていたはずの鎖が千切れて粉々に砕け散った。
「自慢の鎖は切れたようだな」
「どうかな」
鎖を作っていたときから、ジャイガントの戦闘で耐えられるとは考えていない。全ての鉄は魔力で付上がっている。空中へと持ち上げ周りに漂わせる。
「弾丸よ。飛べ」
鎖を構成していた鉄一つ一つが、まるで鉄砲の玉と同じように打ち出される。
「むう~」
ジャイガントは腕を交差させて顔を覆い隠す。弾丸は容赦なくジャイガントの腕や足、腹に突き刺さっていく。
「グハッ!」
「誰も使い道が一つだとは言ってないぞ」
弾丸により、これまで以上に傷を負ったジャイガントの髪が逆立つ。
「調子に乗るなよ。小僧が!」
殺気の強さに心臓が鷲掴みにされるような圧迫感を感じる。
「もう貴様を護るものはないぞ!」
傷ついた腕を振り上げて斧を振り下ろす。両手に斧を構えて十字に切り裂くように斧をふるう。
「クロスアタック」
斧スキルで弾き技だ。技を使うことで一度だけ相手の攻撃を弾き返すことができる。
「サイクロン」
風魔法との合わせ技の斧スキルで、斧が放つ斬撃はサイクロンを作り出す。吸収されることを見越して、この技に魔力を含んでいない。サイクロンは全て斬撃で作り出される。
「牛突き」
牛の角を模して斧を重ね合わせる。まっすぐジャイガントの腹へと突き刺さる。
「ぐふぐふぐふふふふっはははっはははははは!!!!これだこれこそが戦いだ。痛みをよこせ。俺を倒してみせよ。貴様との戦いは面白い。その非力な体でよくぞ工夫する。面白い技を使う。もっと俺を楽しませろ。もっと俺を痛めつけろ。そのうえで俺が勝つ」
ジャイガントは怒髪天している髪とは別に表情は笑っていた。不気味で、高圧的に笑い続ける。笑い続けながら突き刺さる俺目掛けてこぶしを振り下す。
危機一髪で回避すると、自らの腹に全力でパンチをお見舞いする。
「ウゴッ!はぁはぁはぁ。死ねーーー!!!」
ジャイガントは暴走するように拳を振るう。斧の脅威がなくなっても、素手の方がさらに早い。しかも前回戦ったときよりも強くなっている。前回は回復することに油断があったのだろう。
しかし、今回のジャイガントに油断はない。全力で俺を殺しに来ている。
「纏」
加速するジャイガントに、対抗するために自らを加速させる。
もう前の俺ではない。雷の魔法で体を纏っても傷つくことはない。今は魔力を纏えるのだ。下肢に纏った雷で反応速度と瞬発力を爆発させる。
「紫電」
完成された紫電は音を超える。
「ガハッ!」
俺が通り過ぎた後で、焦げたジャイガントが膝を折る。攻撃を緩めるつもりはない。俺はさらに追撃を繰りだす。
「限界突破で全パラメーターが上がったんだ。あのときみたいに俺は負けない」
俺の拳がジャイガントの体を浮かせる。今できる全力で殴り続ける。
「倒れろ」
ジャイガントの体を足場にして、全身に攻撃をする。続く連撃にジャイガントは防戦一方だと思っていた。
「小賢しい!!!」
怒声と共にジャイガントの体が膨れ上がり、殴りつけていた拳に衝撃が返ってくる。
「くっぅぅぅ。ヒール」
俺の拳は砕けていた。久しぶりに自分自身に回復魔法を使う。
「神々と戦ったこともある巨人の力を舐めるなよ。ミョルニル」
今まで使っていた斧ではなく。ジャイガントの手にはハンマーが握られていた。ハンマーは俺ではなく地面を打つ。何が起きたのかわからなかった。俺の体に電気が走り、一瞬意識を奪われる。
「ハイヒール!」
「何とか耐えたか。普通のモノならば今ので消滅するところだぞ」
「普段から雷を使っているお陰だな」
紫電を使っていたのが幸いしたらしい。どうやら今のハンマーはアーティファクトで雷を作り出すことができるらしい。雷になれている俺だから耐性があった。
「ならこれならどうだ」
今度はハンマーを横に薙ぐ。俺は危険を感じてとっさに屈んだ。そんな俺の上を轟音と共に火の玉が通り過ぎた。
「なっ!」
どうやら雷だけではなく。他にも魔法を生み出すことができるようだ。
「む~、今のを避けるか。くくく。本当に主は面白い。だが、ワシがこの聖なる槌を手にした以上。主に勝ち目はないぞ」
巨大な槌はジャイガントにしか扱えない。ジャイガントが今度は上から下に槌を突き上げれば、俺のいた場所に竜巻が巻きこる。俺は何かされると避けていた。
「ガハハハ。自然の力にどう対処する」
それは魔法などと優しいモノではなく。自然を生み出すことができる武器だった。
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