対巨人軍
シーラ・シエラルクが来たことで、軍議が開始された。出席しているのはシーラ・シエラルク、アイス、ゴルドー、ドリュー、ココナ、シェーラの六人と国境の街で定めた評議員たちだ。
現状の第三軍国境兵士の数は、エルフ族の援軍が到着したことで、ドワーフたちも合わせると二万ほどの兵が集まっていた。
国境の街に人が増えたことで、人員の余裕ができたのがありがたい。巨人族を相手に人数がいても仕方ないがいないよりはいてくれるほうがありがたい。
ほとんどの者には国境の街を守る警備兵として残ってもらう。戦いに出るのは連れてきていたアイスの兵と、シーラが連れてきてくれたエルフ兵、合計一万で対処することにした。
「本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」
「今回は大規模な戦闘にはならないと思うから」
シーラの質問に対して、俺は自信の目論見を皆に伝える。目論見が正しければ、大きな戦いは一度だけ、その戦いも大勢を動員しての戦いにはならない。1体1の男のタイマンだけだと思っている。
俺は必要なスキルを習得して、練度を上げておくだけだ。
「では、我々の役目とは?」
「君たちには、巨人軍の足止めを頼みたい。もちろん無暗に戦うわけじゃない。あるものを使ってもらう」
俺はジャラリと鎖を取り出す。シーラには見覚えがあったのか、顔をしかめた。
「それを使われるのですか?ですが、相手は巨人。魔力を抑えたところで元々の力が違うのでは?」
シーラの疑問はもっともである。だからこそ、今回の鎖は魔力封印だけではない。
「ああ、確かに前のままであれば、意味はない。だが、ゴルドーとの共同開発により、これも進化している。名前も付けてなかったから、これに名前を付けるとするなば、全てを封印する鎖、その名も『シールチェーン』だ」
ゴルドーと何度も実験を重ね。魔力以外にもスキルを付加できる方法を編み出した。付加魔法の限界を超えたのだ。
「これは我々でも使えるのですか?」
シーラは苦い記憶から鎖を毛嫌いしている。もちろん触れた者が全て、力を失っては意味がない。
「もちろん、発動条件を作ってある」
「発動条件?」
「ああ、これは魔力を遮断するために作った物だ。そこで魔力を流し込むことで鎖は全てを遮断するために能力を発動していく。段階を踏んで遮断を終えるんだ。まずは動き、次に魔力、最後にスキルを奪う」
説明を聞いたシーラ達は息を飲む。
「これがあれば、どんな相手だって。ジャイガントだって……」
シーラの言葉に他の者達も頷き合う。巨人族は魔力が通じない特別な種族であり、普通の人間では勝てないと言われ続けてきた。
それが道具を使うことで普通の兵士でも巨人に勝てる可能性が出て来たのだ。
「ジャイガントには使わない」
「どうしてですか?これさえあれば楽に勝てるではないですか」
「それじゃ意味がないんだ」
俺の言葉を理解できないようで、集まった者達はしきりに首を傾げる。
「俺は巨人族を倒したいんじゃない」
「どういうことでしょうか?」
「巨人族を手に入れたい。できる事ならばジャイアントも仲間にしたいと思っている」
俺の発言にシーラ以外のメンバーも驚いた顔をする。唯一、シェーラだけは驚いていないようだった。
「そんなこと本当にできると思っているのですか?」
「わからん」
シーラの問いかけに対して、俺は即答した。
「彼らには彼らの考えがある。俺が分かってるのはジャイアントの能力と、ジャイガントが凄い奴だということだけだ」
俺の言葉で軍議は解散となった。これ以上の立案するべき案件はなく。作戦を実行させるために演習を行うとアイスはすぐに席を立った。
アイスの手伝いをするためシェーラも席を立ち、鎖の調整のためココナとゴルドーもアイスの後を追う。
ドリューと評議員たちは一礼して退出していった。ゴルドーと共に守備側の指揮官を任せたのでドリューは守備陣営の兵をまとめにいったのだろう。
残ったシーラは、席を立つことなく。俺を見つめていた。
「あなたは何をお考えなのですか?」
シーラもどこかでわかっている。ヨハンの中に見た王の器。それはシーラも持っており、そしてその重圧に押しつぶされそうになったからこそヨハンが考えていることが分かるようでわからない。
ヨハンを見ていると昔の自分を見ているようで、不安が込み上げてくる。こんな時にゴルドナがいてくれたらと思う。しかし、彼には彼の仕事がある。シーラは頼れる相棒がいないことで自分がしっかりしなければならないと心に誓った。
「シーラ、もしもこの世界が間違った方向に進んでいたら君ならどうする?」
「間違った方向?」
「王国と帝国の戦いが終わったとき、この世界はどうなるんだろうな?」
「どういう意味ですか?」
シーラはヨハンの言っていることが分からず、問いかけた。しかし、ヨハンが応えることはなかった。代わりにヨハンの背中は、遠い未来を見つめるように窓の向こうの空を見つめ続けていた。
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