キル・クラウン
無遠慮に笑い続けるキル・クラウンを見ていると俺自身笑ってしまう。そしてこのオッサンに俺は質問をしたくなり問いかける。
「正直に聞いても良いか?」
「うん?なんだ?」
キル・クラウンは一人で、二、三本のワインを空けている。顔は程よく赤くなっていた。気持ちよく酔っているようだ。
「あんたから見て、王国に勝ち目はあるか?」
「ない……な」
キル・クラウンは一切の迷いなく断言した。一瞬の沈黙は俺への配慮だろう。
「どうして言い切れる?」
「突っ込むね~。まぁ、応えてやるさ。一食の恩義は返そう。帝国の総数は王国の約五倍。人口も土地も武器も全てが帝国の方が上。数はそれだけで暴力だ。それはお前もわかるだろ?」
「ああ」
俺は素直に頷いた。俺も人集めをしていた。人が集まればそれだけで力になる。
「それにな、帝国は長い年月を戦いに捧げてきた国だ。歴史が生み出す経験値も帝国は持っている。どんな戦いをすればいいのか、どうすれば敵が苦しむのか。そして、絶対に王国が帝国に勝てない最大の理由がある……」
キラ・クラウンは酔いが覚めたように真面目な顔になった。
「……帝国には化け物が三人いる」
真面目な顔をして言ったのだ。ちゃんとした意味あるのだろうと考える。ゲームの中では帝国に二人の化け物が出てくる。一人は八魔将の一柱であり、八魔将、竜騎士アラン・ディアス。帝国を護る盾であり最強の矛。竜騎士アラン・ディアスとランスの戦いは想像を絶する戦いになる。しかも一騎打ちしか想定されていないので、ランスの力が試される。
そしてもう一人の化け物。帝国の象徴にして帝国そのもの。天帝、その人だ。いくらランスが強くても天帝には一人では勝てない。
清らかな乙女たちの力を借りて、ランスが新たな力に目覚めたとき、天帝と互角に戦う力を得るのだ。
「竜騎士と天帝か……あと一人は……わからないな」
「ほう。やはりあの二人の強さは辺境にも届いているか」
「三人目は誰だ?」
「死霊王」
死霊王と言う言葉に、一人の人物が浮かんでくる。八魔将が一柱、死霊王デッドラー・ウルボロス、帝国の宰相であり、戦場に出れば軍師としての力を発揮する。
ランスとの直接対決はないはずだが、最終決戦の際に軍勢の指揮を執っている。軍勢対軍勢の戦いにおいてランス軍に敗北して消息不明となるはずだ。
「確かに死霊王の力はわからないな」
「ほう、名前ぐらいは聞いたことがあるか」
「敵だからな情報は集めている。そんなことよりもオッサンは死霊王に会った事があるのか?」
「オッサンってお前な……まぁ、あるな」
キラ・クラウンは煮え切らない言葉で、あると言った。
死霊王は、ゲームでもほとんど表舞台に出ない。存在はあるが実態の無い者なのだ。
「オッサンの目から見て死霊王はどんな人物なんだ?」
「掴み所のないお方だな」
「そうか……王国が勝つためには三人の化け物を倒す必要があるか」
俺はランスの道が如何に険しいかをまたも思い知る。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
俺の質問が止んだことで、キラ・クラウンから質問をしてきた。
「俺は……俺の生きたいように生きる」
「ほう~この世界で自由を求めるか。面白いな」
キラ・クラウンは心底楽しそうに笑っていた。俺もなんだかこのオッサンと話すのが楽しいと感じていた。
「お前には、どんな未来が見えているんだ?」
キラ・クラウンは、俺と同じことを思っていたのかもしれない。年寄りが若者に夢を聴くように、何の気なしに聞いてきた。
「俺が見る未来か……オッサンには未来が見えているのか?」
「俺か?俺にも見えてるぞ。帝国が勝って、戦のない平和な世の中が見えている。そしたら、のんびりと旅でもして暮らしたいと思ってるな。冒険者として魔物と戦って金を稼いで、適当に飲んで遊んで暮らしたいな」
「そうか、良い未来だな」
俺の言葉にキル・クラウンは照れたようにフードを被り直した。
「俺の未来は、種族など関係なく。エルフも、ドワーフも、人も、皆が笑って暮らせる場所を作りたい。王国もいい国だけど、人族の力が強い。。ゴブリンやオークたちは奴隷としての身分しか与えられず、魔物達は人としての扱いすら受けられない。エルフやドワーフも、平民としての地位は与えられても、奴隷と変わらない仕事しかない。悲しいだろ?どんな者でも分け隔てなく。暮らせる世界を……作りたい」
キラ・クラウンは呆れた顔をしていた。だけど、次第にその目はギラギラとして、口元は笑っていた。
「お前バカだな~」
「悪かったな」
「悪かないよ。むしろ俺は好きだ。やっぱりお前、俺の下へ来る気はないか?」
「ない。今は王国の民として頑張るさ」
「もったいない。お前の考えは帝国の天帝様よりだと思うけどな。帝国も今は恐怖で支配しているが。種族など関係なく。暮らせる国を目指しているんだぞ」
キラ・クラウンの目には力が込められていた。
「それでも、信じる男が王国にいるんだ」
「信じる男?」
「ああ。王国の英雄をしている(ゲームの主人公)ランスだ」
俺は心の中で思っていることは口にせず、この国の象徴の名前を口にする。
「英雄か……古い言葉だな」
キラ・クラウンはどこか悲しそうな顔で、空を見上げた。空は暗くなり宴も大分佳境に入ってきていた。
「長く話すぎたな」
「オッサンとの話は楽しかったよ」
「俺もだ」
キラ・クラウンは「寝る」と言ってその場を後にした。次の再会は戦場で、俺はオッサンの背中を見送った。
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