謎のオッサン
俺は調子に乗り過ぎた。調子に乗り過ぎて様々な料理を作り過ぎた。微妙な火加減がいる煮炊き物。強い火が必要な中華料理。そして今まで何とか味付けで誤魔化してきていた数々の料理たちをもう一度作り直してしまった。
「どうしようか?」
「どうしようかじゃないじゃろう」
俺の言葉にゴルドーが呆れた顔をする。ココナも遠くを見つめる。
「何人前なんじゃこれは?」
「ざっと一万人前ぐらいかな?」
ここにきてから十二時間ぐらいで、テーブルに飾られた数々の料理に俺は頷く。その一つである肉じゃがを口に含む。
「うん。懐かしい」
「懐かしいじゃないじゃろ」
ゴルドーの言葉にココナも頷く。
「まぁ、兵士達を呼べばなんとかなるだろ。それに街の人達にもお裾分けするか」
「そんなら俺ももらう権利があるかい?」
俺とゴルドーが話していると、茶色のローブを身に纏った髭面のオッサンが青椒肉絲を口に含んでいた。
「うっめ~……ゴクン。はぁ~なんだこれ!」
青椒肉絲を一口食べただけで感動して溜息を吐いた。皿を手に取り次々と料理をさらにおいていく。
「あの人は?」
「さぁ~多分旅のモノだと…」
俺の言葉にゴルゴーも首を傾げる。
「なぁ!あんたがこれを作ったのか?」
髭面のオッサンは、煮物やら中華を混ぜこぜに乗せて俺に問いかけてくる。
「ええ。俺が作りました」
「はぁ~あんた天才だな」
男は心底感心しながら、から揚げを口に含んだ。
「あなたは?」
「俺か?俺は冒険者で旅人をしている者だ。名はキル・クラウン」
「キル・クラウン?へぇ~面白い名前ですね」
「そうだろう。そうだろう。俺も気に入ってんだよ」
キル・クラウンは口の中いっぱいに料理を放り込んで大笑いを始めた。キル・クラウンが食べても料理はまだまだ無くならない。料理が冷めて不味くなるのも面白くない。俺はココナとゴルドーに人を呼びに行かせた。
「いや~こんな美味いもん食ったのは久しぶりだ。もっと食いたいけど。腹がいっぱいだ」
兵士達が食べに来る頃にはキル・クラウンは食事を終えて、テーブルに置かれていたワインを飲んでいた。
「本当に美味かった。なぁ料理長」
「誰が料理長だ」
「うん?違うのか?こんだけ美味いもんを作るんだ。どっかの料理長をしてたんじゃないのか?」
「いや。俺はレストランで働いたことも、どこかの家に勤めたこともない」
「マジか~なら俺の家に来ないか?お前なら歓迎するぞ」
「冒険者なのに家があるのか?」
「おう。俺は元々貴族だからな。お前一人受け入れるぐらい問題ないぞ」
茶色のローブの下には鍛え上げられた体が見えている。キル・クラウンが只者ではないことは分かった。どこの誰なのだろうか。
「今は帝国と王国の戦争中だぞ。あんたの家が大丈夫なんてわからないだろ」
「俺の家は絶対に大丈夫だ。この世で一番安全じゃないかと思うほどだぜ」
「そうなのか?あんたは王国の人間か?それとも帝国か?」
俺は料理人を演じながら包丁を片手に聞いてみた。
「俺は帝国のモノだ。まぁ偵察も兼ねてきたが。お前に会えたのはラッキーだったな。こんな美味い物を作る料理人が王国にいるなんてもったいない」
キル・クラウンは心底残念だとため息を吐いた。
「はぁ~だから俺は料理人じゃねぇって言ってるだろ」
俺はため息交じりに告げる。今の情報で、このオッサンが冒険者じゃないことは理解できた。偵察と言った時点で軍人であることは間違いない。
ただ、それほど偉そうに見えないので位の高い者ではないのかもしれない。
「じゃあ、お前は何なんだよ。俺だってな。美味い物は食べたことはある!だけどな、こんな野菜に味が染み込んだ料理も、大火力を使った油が使われてる料理も見たことも聞いたこともないぞ。俺は結構グルメなんだ。王国にも共和国にも行って美味いもんは食べた。だけどな、どこにもこんな料理はなかったぞ」
料理についてしつこく迫ってくる。なんとも厄介なオッサンに見込まれたものだ。
「俺が食べたいから作ったんだ。誰も知らなくて当たり前だろ?」
「それなら、なおさらスゲ~よ。お前はどこの天才だよ。新たな食事を生み出すなんて、できている時点で天才だ。新しいモノが作りたくてもほとんどが失敗だ。なのにお前の料理はどれもこれも完成された美味さがある」
ガヤガヤと料理を楽しむ兵士や民衆に俺は顔がほころぶ。それと同時に料理を褒め称えてくるオッサンの事など気にならなくなってきた。
「聞けよ!はぁ~お前みたいなやつは始めたぞ」
自分の口上が聞いてもらえないことに悲しそうにしていた。
「オッサンがなんと言ってくれても俺は、王国が好きなんだ。王国を出る気はない」
「そうか、なら力でいうことを聞かせるしかないな」
「そんなことできるのか?」
「おう。俺が王国を屈服させてお前をモノにする。俺はキル・クラウンだからな」
「王を殺すか……やってみろよ。まぁモノにすると言われても、オッサンに言われたら嬉しくないセリフだな」
俺のセリフにキル・クラウンは大笑いしていた。
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