国境の街
新たにゴブリンキングを従えたヨハンたちは、三日をかけて国境の街にたどり着いた。国境の街はドワーフ達を中心に様々な種族が暮らしている。人間やゴブリン、エルフなども出入りしている。
「お久しぶりですな。ヨハン様」
国境の街で出迎えてくれたのは、ゴルドーとその他多勢の評議員たちだ。評議員とは精霊族を運営する代表者たちであり、様々な種族から選出されている。精霊領は前のようにシーラ・シエラルク一人が代表を務める君主制ではない。
様々な種族の代表が話し合ってこれからの精霊族の行く末を決めていくのだ。
「ああ。久しぶりだな。成果はどうだ?」
国境の街では、物づくりのスペシャリストが大勢いるので、様々な物を作るように頼んでいる。
「我々も未知の品物故、かなり苦戦しました。しかし、新たな物を作ることへの挑戦は楽しかったです」
「では実際に見せてもらえるか?」
「では、こちらへ」
「あの、ヨハン様。私達は?」
俺がゴルドーに頼んだ品物を見に行こうとすると、アイスが止めてくる。
「ああ、忘れてた。ゴルドー、兵士を収容する施設はあるか?」
「帝国兵が使っていた宿舎がありますので、片付ければなんとか」
「なら、アイス達をそこに案内してやってくれ」
「かしこまりました」
評議員たちは俺に挨拶すると分散していった。その中から、ゴルドーの呼びかけにより一人が戻ってくる。巨大な体をしたオーガだった。
オークよりも大きくゴブリンよりも立派な角を持ったモンスター。俺はランスと共に一度暴走したオーガと戦ったことがある。とてつもないタフネスと強さに苦労したものだ。しかし、本来のオーガは高い知能を持っいるため人と争うことはない。
「オーガ族の代表。ドリューであります」
大きな巨体を屈め、俺に忠誠を尽くすオーガに若干ビビりながら頷く。
「ああ。ヨハン・ガルガンディアだ」
「ドリュー殿。ヨハン殿の兵を宿舎に案内してやってくれぬか」
「かしこまりました」
「頼むぞ」
ゴルドーが国境の街評議長を務めているので、他の種族へ頼む権限も持っている。
「はっ」
ドリューは文句ひとつ言わず、アイスの案内を請け負ってくれた。アイス達はドリューの容姿に唖然としながらも付いて行った。
「じゃあ、ゴルドー頼むぞ」
「はっ。こちらへ」
俺はゴルドーに案内されて、ゴルドーの工房へと足を踏み入れる。工房の中にはツナギを着たココナがスタンバイしていた。
「ヨハン様、いらっしゃいませ」
ココナは無口だが、挨拶はできる子だ。
「ああ。久しぶりだな」
「はい」
「早速なんだが、例の物を見せてくれるか?」
「かしこまりました」
そういってココナはアタッシュケースを取り出す。中には研ぎ澄まされた包丁たちが並んでいた。
「おお、凄いな。やっぱり技術が違う」
この世界にはナイフやダガーは存在する。だが、包丁がないのだ。ココナには包丁とはどういうモノかを説明して俺専用のモノを作ってもらった。
「あとはこれとこれも」
この世界にはフライパンはあるが中華鍋はない。鍋はあるが、大きさがデカすぎたり小さすぎたり丁度いいものがない。だからこそ全て俺専用だ。
「メインはこれじゃな。魔力を流せば使えるぞ」
ココナが道具を見せてくれた後に、ゴルドーは自信作だと俺を外へ案内する。そこにはキッチンが作られていた。この世界は釜戸はあるが、ガスや電気のコンロはない。
道具を選ばなければそれなりの物は作れる。しかし、もしも適切な道具があるのなら……料理を作るうえで不便な点が多々あった。そこで俺は俺専用のキッチンを依頼したのだ。
「凄いな」
そこには要望通りのコンロが用意されていた。煉瓦調のキッチン台に二つのコンロ、中華鍋も洗えるシンクがつけられていた。
「ヨハン様の要望はかなり難題でした。本来使うと言われたガスと言われるモノはない。代用品である電気と言うものを作る巨大な施設もない。応用できるとすれば魔法だけ。そこで我々が考えたのが、魔導釜戸です」
ゴルドーのプレゼンなど耳に入っていなかった。調味料の確保や食材の確保は常に行ってきた。しかし
、満足いく調理できる場所がなかった。
これまで過ごしてきたことで、釜戸の使い方には随分となれた。しかし、やっぱり微妙な火加減やら、豪快な火がほしい。専用のキッチンがあると料理の質は変わるのだ。
「早速使ってもいいか?」
「はい。構いませんよ。右方につけられたロッドに触れて魔力を注入すればヨハン様の自由に火や水を操れます」
火は魔力で生み出すが、水はちゃんと井戸に繋がっている。井戸の横から魔力により吸入する仕掛けになっているらしい。
俺はアイテムボックスから食材と鍋、調味料を取り出す。作りたい物、それは煮物だ。
「とりあえず肉じゃがかな。弱火でコトコト味を染み込ませたい」
魔力を流し込み、火をつける。鍋をコンロの上において、切った野菜と肉を鍋に入れて自家製醤油と砂糖でじっくりコトコト煮る。
「なんじゃ。せっかくの釜戸なのに、そんな弱火でええのか?」
「ああ。この料理はこれでいいんだ」
俺は鍋に蓋をして、煮上がるのを待ちながら次の料理を作る。次の料理は火力がモノを言う。肉じゃがができる前に他の料理を作っていく。
「でも、久しぶりのキッチンだからな。色々試させてもらうよ」
火力が重要な中華料理から、繊細な味わいを出さないといけない日本料理まで。それぞれの特徴を生かした料理を作り出す。俺は楽しくなって調子に乗ってしまった。
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