模擬戦 後編
ライスが取った一手によって戦局が目まぐるしく動き始める。
ライスは歩兵を進軍させて奇襲予防は図った。また一点突破を果たした騎馬たちが反転して九千を挟撃できるように動き始める。
しかし、アイス軍は相手の動きを呼んでいたように旗を中心に方円の陣を敷き始めた。全方位どこから敵が責めて来るかわからないため、三百六十度見渡せる。防御に特化した陣形で迎えうった。
歩兵と騎馬の挟撃により、アイス軍の本陣が攻め立てられる。ライス軍は本陣に七千ほど残しているため、万全な防御態勢を整えつつあった。
「決着ですか?」
一方的に攻め立てられるアイス軍の姿にリンが「はぁ~」と息を吐く。
「どうでしょうか?」
それに対してサクが言葉を返した。サクの言葉を裏付けるようにアイスが姿を現す。
「どうしてあんなところから」
アイス軍の存在に、ライス軍は気づいていない。戦場を遠くから見つめているからわかる場所にアイス軍が現れた。
それは……ライス軍の背後に現れたのだ。
「迂回したのでしょうね」
「迂回?」
サクの言葉にリンが聞き返した。
「確かにガルーダ平原を戦場に指定はしたが、範囲までは指定していない」
俺は、リンの疑問に答えを返した。
「そうです。我々の死角になり、ライス軍に気付かれないルートを通ってアイス軍は移動した」
俺の言葉に付けたすようにサクがリンに語り掛ける。
「私たちが気づかないルート?」
「はい」
リンは考えているがわからないようだ。
「この砦の裏を通ったんだ」
「えっ!あれだけの人数が通れば、足音で気づくと思いますが」
「忍び足。たぶんアイスはそういうスキルを五千人全員に覚えさせたんだろうな」
忍び足は忍者のスキルで足音を消すことができる。また、狩人でも覚えられるため兵士に教えたのだろう。
「一斉射撃!!!」
アイスの声が砦まで響いてくる。それと同時にライス軍本陣に矢の雨が降り注ぐ。背後を突かれた上に、声をかけられなけば気づかなかったライス軍は、矢の雨が降り注ぎ旗が撃ち抜かれた。
「勝負あり!」
俺は風魔法で声を拡声させる。戦場全体に聞こえるように勝負の決着を告げた。声が響き渡ると互いに武器を納め、両軍が戦いをやめた。戦
闘終了後は速やかに平原中央に集合する。俺たちが平原に着くと、両軍がにらみ合うように集合していた。
「皆さん、まずはお疲れ様でした」
俺が声を発すると、両軍の視線がこちらに集まる。小高い丘の上に立ち、両軍を見渡せば、まだまだ殺気立っているのが見て取れる。
「今回の勝者は赤組、アイス軍です」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
アイス軍から歓声が上がり、ライス軍は沈んだようにため息を吐く。
「これまで多くの課題を皆さんにはクリアーしてきてもらいました。個人の力、集団生活、集団演習。二軍に分かれた競い合いで、互いの部隊を高め合うことができたと思います。いかがでしょうか?」
いがみ合っていた敵軍に目を向ける両軍の兵士たち。
「大将を務めたアイス、ライス。前に」
俺が名を呼ぶと大将服を着た二人が前に出る。他の者と見分けがつきやすいようにマントを着せている。
「戦ってみての感想を聞かせてほしい」
俺の言葉にライスが一歩前に出る。
「失礼します。私の方からで、よろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
「はっ!ありがとうごうざいます。まず、我々は戦術でアイス殿に圧倒されました。私は、狩人であるアイス殿のことを軽んじていました。これだけの数の兵を動かしたことがないはずだから、正攻法で戦えば間違いないと判断しました。ですが、私の放った騎馬に奇襲をかけられ、先手を取られました。そのあとも誘い込まれるように罠にハマり。苦肉の策を放っても膠着状態に持ち込まれてしまいました。そこで手を止めた私へ再度の奇襲でした。完敗です」
ライスの状況報告と完敗と言う言葉にライス軍は肩を落とす。
「わたっ、私もよろしいでしょうか?」
そんな軍を見かねてかアイスが急いで前に出る。
「いいぞ」
「ありがとうございます。私は狩りしかしたことがありません。狩りとは罠と待つことだと教わりました。獲物を罠に誘い込み、罠にかかるのを待ってから襲います。私は準備を重ね罠を仕掛けました。ですが、ライス殿の兵は罠にかかったにも関わらず、逆転の一手を打ってきました。ミリーさんたちが耐えてくれなければ勝負はどちらが勝っていたかわかりません」
アイスなりに気を使って言ったのだろう。後ろでミリーたち防衛組が頭をかいている。
「それでも今回勝ったのはアイスだ。そして、みんなも聞いてほしい。今回紅白と分かれて戦いをした。それは互いの戦力をわかってもらうためであり、みんなの上に立つ者たちの力量をわかってもらうためでもあった。ライスは正攻法で軍を動かすしたが奇襲による敗北した。だが、正攻法ほど強い。戦っている者たちは戦いやすかったと思う」
俺の言葉に白組は互いに顔を見合わせて頷き合っている。
「そして、アイスの下で戦った者たちは自分たちの知らない戦い方に戸惑った者が多くいたのではないだろうか?」
アイスと共に隠れていた五千の兵たちは何度もうなずいていた。
「それぞれの大将のいいところも悪いところ敵味方で体験できたことだろう。そのうえでここにいるのは味方だ。味方の得手不得手を心得ることで、互いに補えることができる。帝国の戦争が再開されるのも残り一か月となった。互いの町の発展をしながら、こうして演習も行う。そのための準備を怠らないでほしい」
「「「はっ!!!」」」
今回は肉体強化以外の魔法を禁じていた。もちろんスキルを使うことは禁じていないが、それぞれが特性を生かしたいい戦いだった。こうして、新生第三軍は完成しつつあった。
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