模擬戦 前編
雪解けまで残り一カ月となったことで、第三軍の準備も最終段階に入った。紅白それぞれの部隊の仲も深まってきた。そこで両部隊による模擬戦をすることにした。
場所はガルガンディアの西にあるセリーヌ領との国境沿いを予定している。そこには広い平原があり、両軍合わせて三万近い人数でも戦いができるほどの広さがあるのだ。
平原にはガルーダと言う名前が付けられている。ガルーダとは神鳥を表す言葉ではあるが、この平原に神鳥が舞い降りたとい伝説があるそうだ。
ガルーダ平原には赤と白の旗が掲げられた。
北には白の旗を置き、大将がライスが務める。また南には赤い旗が掲げられ、大将をアイスが務めている。
どのような戦いをするのか、ヨハンはゴブリン達が建てた砦から紅白に分かれた部隊を見下ろしていた。
「どちらが勝つと思う?」
俺の横にはサクとリンが脇を固めている。
「第二軍の副総大将をしていたライス殿かと」
俺の質問に対して、リンは順当な方を口にする。対してサクはしばし思案した。
「わかりませぬ」
そう言って戦場を見つめていた。軍師としての彼女は一級品である。その彼女が分からないと言ったことに俺は興味を注がれた。
「分からない?サクにわからないことがあるのか?」
「私とて全てを見通せるわけではありません。見立てを立てるとすれば、軍事や人の使い方を知っているライス殿が、有利に見えますが。私がわからないのはアイスさんの方です。彼女は狩人だと聞いています。狩人たちは独自の思考と独自の戦い方を持っていますので、私では理解できないことがあります」
サクの回答に俺は面白いものが見れそうだと、戦場に目を向ける。
サクの予想が的中した。先手を取ったのは以外にも紅組の方だったのだ。平原には中央に大きな池があり、幾つか丘も存在している。大勢の人間が身を隠せるほどではないが、屈めば見え辛くすることはできる。
「上手くやったな」
その丘を使って紅組が白組を奇襲したのだ。白組は第二軍の騎士が多いため騎馬が多く。平原を迅速に移動していた。騎馬は直線的な動きには強いが、突発的な出来事に対応し辛いのだ。
アイスは見事に騎馬対して奇襲を成功させたのだ。
「先手は上々。次はどうする?」
サクの言葉もあったため、俺はアイスの思考について考える。
「今の策を取るのであれば、次は身を隠すと思われます」
「身を隠す?」
「はい」
サクの言葉が実現していくように、アイスが丘に隠していた兵を引かせて、正面から現れた正規兵が弓で牽制をかける。
騎馬も正面に現れた兵に勢いを取り戻し、目の前の敵を追おうとする。
「誘いか?」
俺はサクが言った言葉を理解する。
戦場では、ライスの騎馬が網にかかったように包囲されていく。鶴翼の陣を敷いているアイスの下に、吸い込まれていくライスの騎馬隊。決着がついたかと思われた戦いは、ライスの機転で一気に形勢が覆る。
「長蛇の陣か」
ライスは一直線に騎馬を並べて一点突破を図った。
「ライス殿も一筋縄ではいきませんね」
長蛇の陣は、確かに一点突破する力は強いが被害も大きい。
「前を進む者は逃げられるだろうが……」
俺の予想通り、囲まれて左右から攻撃される後続は次々と倒されていく。
「刹那的ですね」
ライスの戦い方を、サクはそう評した。
「どうだろうな?」
しかし、俺はそうではないと思った。確かに騎馬たちはアイスの策にハマって攻撃を受けた。だが攻撃を受けたのは部隊の中では一部なのだ。
一万四千の兵の内、足ったの三千。本隊である一万は沈黙を保っている。
対してアイスは五千の兵を伏兵として使っているが、鶴翼の陣には九千以上の兵を使っている。
「この模擬戦の勝ち負けはどうなっているのですか?」
俺とサクが楽しんでいると、リンが勝敗についての質問をしてきた。
「両方の陣地に差さっている旗を取った方が勝ちだ。もちろん総大将が打ち取られても同じだ」
「そうなんですね。でも、お互いの大将はどこにいるのでしょうか?」
リンの言葉に俺もサクも両者の大将を探してみる。
ライスの姿は自軍の防衛拠点に見つけることはできた。攻撃に向かわせたのはライスの側近なのだろう。指示も行き届いている。
それに対してアイスの姿を見つけることができたなかった。鶴翼の陣を敷いている中心部にはアイスの姿はなく。姿を消した五千の方は砦からは見つけることができない。
「アイスはどこだ?」
平原全体を見渡せるわけではないが、隠れるところなど限られている。砦から死角になっている丘の麓に隠れるか、池の中しかない。
「まさか池の中じゃないよな?」
「それはないと思いますが」
サクもまさかと池を見る。そうしている内に戦場がまたも動いた。
「ライスさんが動きました」
リンの言葉で戦場に目を向ければ、歩兵隊が前進を開始していた。
騎馬と違って歩兵は歩みが遅いものの、確実に進むので奇襲に強く。ライスが決着をつける一手を指した。
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