新たな町
ヨハンが出した課題に対して、それぞれの答えを出したようだ。一か月で二人の将軍は町を作り上げた。
ライスは元々貴族の出であり、その部下たちも様々な人脈を持っている。そのため王都へ通じる街道沿いを整備することで商人がやってきやすいよう環境を作った。
商人たちも人がいて、商売が成り立つ場所ならばどこでも訪れる。それも行き来しやす道があるのであれば、馬車を使い大型の商品を持ってこれるとなれば商機と感じることだろう。
道路の整備を終えると、王都に戻り商人たちに話をつけた。大量の木材の代わりに煉瓦を運んでくれないかと。木材は貴重ではないが、量があれば煉瓦との交換には十分な量を売ることが叶う。
木には様々な性質があるので、木材としてそのまま利用してもいい。燻して木炭にしてもいい。性質によっては紙が作れたり、樹液を使ってゴムを作るゴムの木などの用途も様々だ。
商人と上手く交渉したらしく煉瓦以外にも塩、コショウ、肉や野菜などの食べ物から調味料まで手に入れた。力仕事ができても建築とは知識が必要なものだ、もちろん農業も同じである。
ライスは、建築の専門家と農業の専門家を商人に頼んだ。両方ともに教えを乞うことで、効率が上がり順調に作業は進んだ。
ガルガンディア砦の北西にはライスが作り上げた。王国式の街並みができつつある。一万四千の兵士を、ライスは作業に応じて分担化させた。力と体力があるのもには道路整備を、知恵と技術があるものには街づくりを任せることで、能率を上げたのだ。
一か月と短い期間ではあるが、ある程度の形を整えるまでに至った。
「これが報告書になります」
ヨハンの元にライスが報告書を持ってきたのは、開始から丁度一か月が経った日だった。
「うむ」
俺は報告書に目を通した。行き届いた街づくり。人材の使い方による効率の良さ。ライスが上に立つ人材であるとよくわかる報告書だった。
「よくできている」
「はっ!ありがたきお言葉」
要人や王国側から来たものは北西の町に拠点を構えてもらえば気持ちが落ち着くだろう。
「町の名前は考えているのか?」
「名前ですか?」
「そうだ。お前が作った町だ。何か考えておけ」
「・・・では、一つ付けたい名前があります」
「早いな。なんだ?」
「ミゲールという名前を付けたいと思います」
「ミゲール?どうしてだ?」
「命の恩人の名前なのですか」
「なるほどな。わかった。ガルガンディア領、北西の町の名前はミゲールだ」
「ありがたき幸せ」
ライスが恩人だと言った者の名前は第二軍総大将の名前だ。それに関して、俺が何かを言う気にはならなかった。
アイスが報告に来たのは、ライスに遅れること三日後のことだった。
「すみません。遅くなりました」
敬語にも不慣れなアイスは、ドギマギしながら報告にやってきた。
「見せてみろ」
文字を書くのもあまり慣れていないらしく、あまり綺麗とは言えない報告書を読んでいく。
アイスが考えた南東の町はツリーハウスと明記されていた。俺が名前を付けろと言う前に、すでに名前を考えてきたようだ。その辺は男性と女性の違いがあるのだろう。
「構造が分かりづらいが?」
「私には図面で書くことが難しいため、実際に見てもらえればわかると思います」
アイスは説明するのも苦手だと、報告書の意味を成していなかった。
「わかった。すぐに見に行こう」
「えっ!今から行かれるのですか?」
「もちろんだ」
俺の言葉に驚いていたが、立ち上がると何かを決心したように誘導を始めた。
ゴブリンがいる砦よりも山脈寄りに作られたツリーハウスという町はどこにあるのかわからないほど、気に覆われていた。むしろ、木と町の境目がないほどだった。
「ここが町か?」
俺は疑問を浮かべたくなるが、木しかない。
「はい。ではご案内します」
ご案内しますと向かったのは、その中でも一番大きな木だった。一番大きな木に扉がついている。
「うん?」
「お気づきですか?」
俺が疑問に思うとアイスが、木に付けられた扉を開く。木の中は一万人が余裕で入れる大広間があり、大衆食堂のような木の椅子が置かれていた。これが木の中だとみていなければ疑いたくなるほどよくできている。
「どうなっているんだ?」
「この木はユグドラシルの木と言われています」
「ユグドラシル?」
「はい。世界樹と言われている木で、別の世界とこの世界を繋いでるとも言われています。全ての木の母であり、この大木で我々生き物を見守ってくれていると私の一族では教わりました」
アイスは狩人の一族で育ったといっていた。野山を駆け回るため、アイスは体力もあり、狩りをするうえで自然と魔法を理解していったいう。
また狩りをするうえで大切なのは罠と待つことであると言った。
「待つこと?」
「はい。好機は必ず訪れます。だから、私たちは好機を作り出す罠を大切にします。またその罠に獲物がかかるのを待つことを何よりも軽んじていけないと教わりました」
アイスはユグドラシルを見つける運と、それを活用した街づくりを見事に達成した。そしてこれまで生きてきた経験を生かした罠の数々を披露してくれた。
ライスのような気品も知識もないかもしれない。しかし、アイスには生きるための知恵と経験があった。
そしてアイスにはもう一つ才能があるようだ。
「アイス!ヨハン様のお連れしたなら教えてよ」
「アイス様。これはこちらでよろしいでしょうか?」
女性の騎士たちには妹のように可愛がられ、男性の騎士には女神として尊敬されている。彼女の持って生まれた愛嬌が、人を動かしているのだ。
「ヨハン様。私を将軍にしてくれてありがとうございます。私、頑張ります」
「期待している」
俺はアイスの肩を叩こうとしたのだが、アイスが頭を差し出してきたので頭をポンポンと叩いてやる。
「えへへへ」
頭を叩くとアイスは嬉しそうに笑っていた。
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