ガルガンディア式軍隊訓練
ガルガンディア式軍隊訓練とは、ヨハン・ガルガンディアが編み出した訓練方法である。この方法はのちに王国軍特殊部隊の訓練として採用されることとなる。あまりにも過酷な訓練なため上級士官を希望する者は必ず受ける特殊訓練としても認定された。
「クソ野郎ども!もっと腰を上げろ!そんなへっぴり腰で敵を倒せると思っているのか!」
激を飛ばしているのはドワーフ族大将ゴルドナである。現在はガルガンディアにてヨハンから軍曹という階級を授かり、第三軍の訓練にあたっている。
「こんなこともできないのか!だから貴様らは帝国に負けたんだ」
ゴルドナからは常に罵声を浴びせられる。それは訓練に必要な処置だとヨハンが考えたのだ。ゴルドナにはその見た目と強者としての圧倒的な存在感が発揮される素晴らしい天職であった。
ガルガンディア式軍隊訓練 その一
体力をつけろ。
騎士、剣士、戦士、魔導士、僧侶、職業など関係ない。
体力がないものは死ね。死ぬほど走れば体力は後からついてくる。 毎日、日が明けて暮れるまで走れ。それでも立っていた者は次にいく資格がある。
三万人いた第三軍兵士のうち、一日目の課題をクリアーした者は皆無だった。
魔導士は普段、研究に明け暮れて外に出ることすらない者がいる。そんな者たちが戦場に立って役に立つことはまれなのだ。一度や二度は魔法で活躍しても、長期戦になった際に魔法切れ、体力切れで使えないことが多々ある。
数の少ない王国ではそれが許されない。ならば魔導士であろうとも体力をつければ問題ない。それは実に理にかなった言い分だったと、のちにゴルドナがヨハンの言葉を皆に伝えた。
その一をクリアーした者が出たのは、三日目にして一人だった。休むことも食事をすることも許されない過酷な状況で、朝から晩までガルガンディア砦の外周を走り続けた。兵士たち全員がクリアーしたのは一か月後だったという。
クリアーした者から、次の課題に進める。
ガルガンディア式軍隊訓練 その二
魔力を纏え。
魔力とは本来誰もが持っているものである。しかし、魔導士はそれを使いこなすことができるが、戦士や剣士などは魔力を使うことを不得手にしているものが多いのだ。
では、そんな魔力を普段使わない者たちがどうやって魔力を纏うのか?それは簡単なことで、魔力を理解し、魔力に触れればいい。
「では、行きます」
それは魔法で作られたウォーターボール。殺傷能力を極限まで減らした水の玉である。それを日に何度もその身に受ければ嫌でも魔法を理解できるだろう。
魔法を放つのはリンとウィッチたちだ。彼女たちの訓練も兼ねているので、手加減などする必要はない。
体力試験を乗り越えた者たちは、魔法に不慣れな者が多く。直接魔法を食らうこで、強制的に身体に刻み込むのだ。魔法を理解した者が出たのは水浸しになってから一週間ぐらい経った後だった。
ガルガンディア式軍隊訓練 その三
森で生き抜け。
この世界にはモンスターがいる。魔物がいる。そいつらを殺せば経験値が得られる。経験値が得られればレベルが上がり、スキルを閃きやすくなり、全体的に強くなる。
しかし、それだけでは森を生き抜くことはできない。生き抜くためには食べる物、寝る場所、飲み水の確保が必要となる。そのために生き抜く知恵が必要となる。
モンスターを倒して強くなるのは誰もが経験することだ。効率もよく強くなれる。じゃあなぜしないのか、モンスターがいて強くなれる場所がない。ならこの場所を使えばいい。
ガルガンディアには未だに未開の土地が多くある。強力なモンスターも生息している。そいつらを倒してレベルを上げろ。
ガルガンディア式軍隊訓練 その四
ゴルドナを倒せ。
その四とは最終試験である。それは訓練で身に着けた実力を教官に示すということだ。
教官とはゴルドナのことであり、ゴルドナとのタイマンを行うのだ。
ここまで来たものは、体力があり、魔力を使う才能があり、生き抜くための知恵を兼ね備えたそんな奴しか立つことが許されない場所なのだ。
ただし、ゴルドナとてタイマンで負けるつもりはない。精霊族とは元々魔力量が多く。自然と魔法にかかわることも多くある。ヨハンが魔法を纏うコツを教えれば、ゴルドナはすぐに魔法による肉体強化の術を習得した。
元々、肉体強化がなくても巨人族のジャイアントとタイマン張るゴルドナだ。肉体を強化すればどうなるか、まぁ化け物の誕生である。エルフの長、シーラ・シエラルクがその姿を見ていった言葉はヨハンの耳によく残っている。
「私でも勝てないかも……」
エルフ族最強と言われた彼女が、肉体強化したゴルドナに対して勝てないと言わせたのだ。
そんなゴルドナを倒す最終試験に合格した者が……
……二名いた。
「一か月間、よくぞ訓練に励んでくれた」
それは一か月ぶりに見る。ヨハン・ガルガンディアこと第三軍の将軍の顔だった。
兵士たちは俺が現れると一斉に頭を下げた。
「「「ガルガンディア将軍!バンザイ!!!」」」
誰がバンザイなど教えたのだろうかと俺は疑問に思いつつ、手で鎮まるように指示を出す。
「過酷な訓練であったことは、皆が体験したことでわかっていると思う。しかし、帝国と戦う前にどうしても君たちのレベルを上げておく必要があった。帝国が攻めてくるのは雪が解ける春の初めだろう。それまであと二か月しかない。どうか、誰一人倒れることなくついてきてほしい」
俺の言葉に初日のように反論してくるものはいなかった。その代わり二人の人間が前に出る。
「何か?」
「ヨハン殿、こやつらはワシとの戦闘で合格を出した者たちです」
俺の質問に答えたのは、二人ではなくゴルドナだった。
「合格した者がいるのか!」
俺は合格したことに驚いた。最終試験まで行けること自体奇跡だと思っていたのだ。
その二までは、自己を鍛えれば何とかなる。その三に関しては、単独でそれなりのモンスターを倒さなければならないため最終試験には到達できないと思っていた。
「はい。名を聞いてやってほしいのです」
「わかった。二人とも、名はなんという?」
気づかなかったが、一人は初日に反論していたイケメンだった。根性も才覚も半端なく持っていたようだ。
「私の名前はライスと申します」
名前だけいうとイケメンは一歩後ろに下がる。そしてもう一人を見れば随分と小柄だと思っていたら、女性だった。
「私の名前はアイスと申します」
二人はボロボロの姿ではあったが、その瞳には確かな決意が見て取れた。
「よく合格してくれた。君たち二人には俺の手足となって働いてもらいたいと考えている。二人を将軍とする。皆もいいな」
俺の言葉に兵士たちは沈黙していた。
「喜んで良い」
ゴルドナの言葉を聞くと、一斉に歓声が上がった。
「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!よくやったぞ!ライス。アイスもスゲー」」」
二人を称える声が上がり、心から喜んでいるのが分かった。ゴルドナは通常訓練とは別に軍人としての心構えも兵士たちに説いていた。
だからこそ、大将もしくは軍曹の許可なく感情を表に出さないまでになったのだ。
「よくぞここまで彼らを導いてくれた。ありがとう」
俺は改めてゴルドナに礼を述べ、次の段階に入ることを決心した。
いつも読んで頂きありがとうございます。