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閑話 アリルーア草原の戦い 5

次の話から本編に戻ります。


ただ不定期更新にさせていただいておりますので、書き次第ということになると思います。

夜襲をかけた翌日、一夜明ければ、目の前の草原にはゾンビの大群が押し寄せていた。

夜襲の失敗は夜のうちに知らされていたが、ゾンビたちが夜のうちにここまで近くまで接近していることに気付いたのは、明け方だった。数体のゾンビたちが接近していることはミゲールにも知らされていたが、まさかここまでの大群だとは、ミゲールですら予想できるものではなかった。


「どうしてこうなった!」

「わかりません。いったいこれほどまでの大群がどこから」

「見たことがある顔がいた」


 ミゲールは遠目のスキルを持っている。鷹目ほど優秀なモノではないが、遠くを見るだけならば十分なスキルなのだ。遠目で見た限り、王国兵の鎧や兜を着けた者を見かけた。


「どういうことですか?」

「ミディアの鎧とレーアの鎧を着ている者がいた。顔も本人で間違いない」

「とっ、言うことは?」

「奴らは死体をモンスターに変える方法を持っているということだろう」

「そんなバカな!」


 ライスは驚きを隠せずにいた。共和国にモンスターを操る者がいると言う話は聞いたことがあるが、まさか死んだものをモンスターにできる者がいるとは聞いていない。


「そんなバカな話でも実在したということだ」

「どうされますか?あの大軍が相手では、この砦に残る者では対応しきれません」


 ライスの言葉にミゲールの頭がフル回転する。


「ただ逃げるだけでは、あの大軍から逃げることはできないぞ」


 いくら頭を働かせて逆転することも、逃げることもままならない。頭を抱える二人の下へボルシチがやってきた。


「邪魔をするぞ」

「師匠!」

「情けない顔をしておるの」

「正直、参っています」

「ふむ。お主は逃げよ」

「それができれば問題はないのですが、さすがにあの大軍では逃げることもままなりません」

「じゃからワシが来たのだ。砦はワシが預かろう。ワシが殿を努める。お主らは王国へ戻り再起を図るのだ」

「そんなこと!師匠はすでに引退も当然の身、この戦いが終われば領地でゆっくりと暮らせるではありませんか」

「だからこそだ。ワシはすでに引退が見えて来とる。ならば、死に場所を求めてもよかろう。ワシも軍人、死ぬのならば戦場で死にたいと考えてもおかしくはあるまい」


 ボルシチの言葉にミゲールは何も言うことができなかった。師であり、自分よりも長く戦場を経験しているボルシチのことをミゲールは理解できると思った。


「師よ」

「もう何も言わんでもええ」


 ミゲールが何か言おうとすると、ボルシチは言葉を遮り、後ろ向いて手を振りながら二人の下から去って行った。それはミゲールとボルシチの、最後の会話となった。


「ライス、できるだけの兵を逃がす」

「かしこまりました」


 ライスも執務室から飛び出し、すぐに兵達の非難に取り掛かる。


「俺もできることをしよう」


 赤い鎧に身を包み、槍を持つ。殿がもっとも大変な役目であることは間違いないが、退路を作るのも同じぐらい大変な役目なのだ。ミゲールは自ら先陣を切って役目を果たそうと考えていた。


「皆の者、我に続けーーーー!!!」


 アリルーア砦を囲もうとしているゾンビ達の群れを突き切るように、赤馬に跨ったミゲールは戦場を駆ける。逃走する中で、砦を振り返ることはない。

 もっとも信頼する師がその身を投げ出して自分を救ってくれたのだ。一人でも多くの王国兵を救わなければならない。


 赤馬に跨る赤鎧は誰よりも目立ち敵の的となることは当たり前だった。

敵はゾンビだけではない。ボーン兵も、姿を見せない傭兵隊もまだまだ力を蓄えているはずなのだ。

 先頭を走り抜け、一人でも多くの敵を減らしていく。


 どれほど逃げられたかわからないが、一日中走り通しで疲れ切った体を引きずるミゲールの前に奴は現れた。


「お前がここを通ることは、すでに予想できていた」


 漆黒の鎧を纏い黒馬に乗ったその騎士は、戦場で見たならば死神と間違う恐ろしさがある。


「ここで現れるかよ」

「ミゲール様、ここは私が!」


 ライスがミゲールの前に出ようとする。しかし、槍が道を塞いでいた。


「ライス。お前が叶う相手ではない。お前は戦うことよりも作戦や指揮を執るほうが向いている。俺はここで離脱しなくてはいけないが、できるだけ多くの王国の民を救ってくれ」

「しかし!」

「行けっ!これは命令だ」


 ミゲールの叫びに、ライスは悔しそうな顔をしながらもミゲールの命令を実行するため、最低限の兵を残して立ち去った。今は指揮官や兵隊など言っていられる余裕はないのだ。もちろん大将はミゲールではある。

 しかし、それはアリルーアに限ってのことであり、本当に守らなければならないのは王なのだ。王の下へ一人でも多くの兵を連れ帰る。それがミゲールがライスに託したことだった。

 ならば、ライスにできることはミゲールの願いを叶えることだけだった。


「必ず、生きてくれ」


 ライスが最後に残した言葉をミゲールは反芻する。


「もちろん生きて帰るさ」


 師を失い。友を逃がし、残されたのは自らの肉体と武だけ。生まれてからずっと侯爵として多くの者を背負ってきた。そんなミゲールが全ての重荷を降ろして一人の武人として戦うのだ。


「初めて本気で戦うかもしれんな」

「そうか、ならばその本気とやらも打倒してくれよう」


 ミゲールが槍を構える。ミゲールの思いを理解しているのか、対峙する黒騎士は大剣を抜き放った。


 第二軍はほぼ壊滅状態となり、アリルーア草原の戦いは最後の局面を迎えようとしていた。


「黒騎士よ。来るがよい」

「覚悟されよ」


 ミゲールと黒騎士は同時に馬を走らせる。先制はミゲールの槍が黒騎士に向かって伸びていく。しなりながら、ありえない曲がりかたをするミゲールの突きが黒騎士を襲うが全て弾き返す。

 ミゲールの猛攻を受けて、黒騎士が下がる。黒騎士の行動に、ミゲールはナイフを投げて追い打ちをかける。黒騎士は大剣を持っている手とは逆の手で、ナイフを弾き飛ばし、追撃してくる槍を大剣で受け止める。

 

「やるな」

「お前を殺して俺は生き残る」


 ミゲールは疲れなど忘れて、黒騎士へ全力を注ぎこむ。残された兵士達も二人の戦いを見守ることしかできない。

 ミゲールの連突きに対して、黒騎士は防戦一方に見えるが、普通のモノであればその連突きを受ければ耐えることなどできないのだ。


「どうした赤騎士よ。その程度か?」


 ミゲールもおかしいとは感じていた。いくら攻撃しても手応えがまったくないのだ。


「はっ!守ってばかりで何を言うか」


 それが強がりだということは分かっていた。それでも自分を奮い立たせなければ、一気に形成が決まってしまいそうな気がしたのだ。


「ならば攻撃と行こうか」


 ミゲールの連突きをたった一刀の横薙ぎで払いのけ、馬の頭をぶつけ合う。ミゲールも腰に差した短剣を抜こうとするが、黒騎士の大剣の方が速かった。


「終わりだな」


 ミゲールの腹が切り裂かれる。ミゲールはとっさに短剣で防ぎ、黒騎士の攻撃を後ろに飛ばされることで軽減する。それでも全ての威力を防ぐことはできず、口からは血を吐き出した。

 鎧は裂け、肌にまで到達している。衝撃により立つことは厳しい。今すぐ死ぬことはないが、もう戦う力は残されていない。


「今度こそ終わりだ」

「俺が死のうとも王国は負けぬ」

「ふん。負け惜しみか。すでにお前が王国最強であることは帝国の調べでわかっている。貴様が死ねば王国に未来などない」


 黒騎士はつまらなさそうに、ミゲールの言葉を否定した。


「そんなことはない。我が国には英雄が誕生したのだ。お前達など英雄様が倒してくださる」


 ミゲールは英雄と呼ばれているランスに会ったことがある。それは授与式の時で頼りないと感じたが、それでも言わずにはいられなった。王国は負けてはいないと。


「ならば、楽しみにさせてもらおう」


 黒騎士は然程興味がなさそうに、ミゲールへのトドメをさすため馬から下りた。


「王国万歳!」

「さらばだ。赤騎士」


 黒騎士は剣を振り下ろした。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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