閑話 英雄と聖剣
第三軍の救援に成功したランスの名は、王へ知らせられることとなった。ランスの素性や功績を調べた王様は、ランスを英雄として祭り上げた。
「王国を敵から幾たびも守り抜いた英雄が誕生した。その者は負けることを知らず、我々王国の民を救い、エルフと救い、そして我が娘、王女を救って見せた。彼こそが我が王国の宝、英雄である」
ランスは最初の戦いから負けたことがない。それは事実だった。最初の戦闘では敵の指揮官を討ち取った功績を認められ第一軍へと配属された。
さらに共和国との戦争の際には人々を守るためゲリラ戦にて民衆を助け、名誉騎士としての称号を獲得した。
これは多くの民衆が知ることであり、ランスの名は国中に知れ渡っていた。
そんなランスの下へ、エルフを救う極秘任務がやってきた。ランスは危険を顧みず、エルフを助け出し、未然にエルフが帝国につくことを防いだ功績により千人将として出世を果たした。
そして……巨人族から王国の王女を救った功績は、王様も認めるものとなった。
「彼に我が王国の繁栄を託し、一つの試練を受けてもらうこととする」
巨人族が西に向かう少し前、ランスの下へ王都への帰還命令が出された。巨人族の脅威も終わっていない戦場を離れることはできないとランスは考えたが、王女ミリューゼからの頼みということもあり、一時王都へ帰還することとなった。
王都では、英雄勲章と呼ばれる王国が認めた勇者だけでに贈られる勲章を授与され、さらに一つの試練を受ける権利を得た。
その試験とは、王族が守り抜いてきたある一つの武器に触れる権利だ。それは初代エリクドリア王であり、この世界で初めて勇者として活躍したものが使っていた聖剣だった。
しかし、聖剣は台座に刺さったまま何百年も抜けずに主を待っていると言われていた。いつしか、この聖剣を抜く者こそ正当なる勇者の後継者であると、エリクドリアに伝わる童話は有名で子供達の寝物語として語り継がれてきた。
「さぁ、ランスよ。剣に手を……」
抜けるなど誰も思っていない。いつしか、聖剣は抜くことはできぬ物として扱かわれていた。ただ剣に触れた者は王国のために戦う英雄と呼ぶようになった。
ランスもその権利を得たに過ぎない。見守っていた王も、元帥も、宰相も、文官やミリューゼですらそう思っていた。
しかし、ランスが剣を握ると、それまで何の反応もしてこなかった聖剣が、青白く光り輝き光が爆発する。光の放流が終わると、そこには青く光る聖剣を高々と掲げるランスの姿があった。
まさに神話の英雄のようだった……
破壊された台座の上で剣を掲げる姿は見ている者たちを魅了し、いつの間にか王ですら片膝を突いて頭を垂れていた。
「我らが真なる王よ!」
王の言葉に答えるように、文官たちが次々と頭を下げ、ミリューゼも元帥もそれに習った。
逆に視線の中心にいるランスは戸惑いを隠せずにいた。俺が勇者?この俺が……
ランスは知らない。この世界がゲームであることを、そしてそのゲームの主人公がランスであることを、この剣はランスが抜くべくして作られた剣なのだ。
魔を払い、魔を退ける。 聖剣の名に恥じぬ力をその青い剣は秘めていた。
その後は飲めや歌えの大騒ぎになった。勇者の誕生は王都中に知れ渡り、それと同時にミリューゼとランスの婚約が発表された。
王族と勇者の絆を強くするため、王様からの配慮であり、ミリューゼの願いでもあった。ランスはそれを断ることなく受け入れ、また同時にサクラとシェリルが側室として迎えられることが決まった。
なぜ、こんなにも簡単に側室が認められたかというと、二人の好意に対してミリューゼが気づいていたからだ。
真の王になるランスが一人の女性に縛られてはいけない。実に王族らしい考え方を持ったミリューゼだからこそ許されたことだった。
「さぁ、行こう」
ランスは次の日には王都を後にした。王様達は式典や会合など、執り行いたいことがまだまだあったが、現在も王国は帝国と戦争中であり、第二軍が主戦場となっているとはいえ、巨人族の動きが読めない以上、いつまでも戦場を離れているわけにはいかない。
新たな相棒、聖剣ディランを携えてランスは戦場へと戻った。
戦場では、巨人族が西へ向かったことが告げられ、第二軍のピンチを悟ったランスは集められる兵を募り巨人族を追いかけた。
募った兵は第三軍のほとんどとなり、ランスの傍らにはミリューゼやサクラ、シェリルなどが付き従っていた。六羽のうち四羽も付き従った。
砦を守るという名目上セリーヌは同行できず、また教会が救援活動をしているので、アクアもまた聖女としての役目のため同行できなかった。
ランスが巨人族に追いついたのはそれから数日後のことだった。
巨人族副族長のオシリスを撃退し、ランスはさらに西へと足を運ぶこととなる。
それは苦戦する第二軍にとって明暗を分ける人物の登場となった。
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