閑話 アリルーア草原の戦い 4
今日から数話、閑話を挟みます。
黒騎士とミゲール・アンダーソンの戦いは初日に両軍の将を失うという大きな戦いがあったものの、それ以降は小さな小競り合いによる様子見が続いていた。
ミゲールとしては、小競り合いが続けば相手の兵糧が無くなり勝手に消耗していくことになるとふんでいたので、長期戦は望むところだった。
「今日も向こうに大きな動きはなしか」
「はい」
参謀兼副官であるライスからの報告に、つまらない様子で答えるミゲールを見て、ライスは溜息を吐きたくなる。
「動きが無いということはこちらとしてはありがたいことではありませんか」
「そうなんだけどな。なんだが、これが何か起きる前触れな気がして嫌な感じを受けるんだよ」
「止めてくださいよ。ミゲールの嫌な予感は当たるんですから」
ライスの言葉を聞いて、ミゲールはあちらが動かないのであれば、こちらが動いてみるかと考えていた。
「また変なことを考えていますね」
「なんだよ。まだ何も言ってないだろ」
「言わなくてもわかります。どうせろくでもないことをお考えなんでしょ?」
「ろくでもないかは聞いてからにしてくれよ」
ミゲールは思いついたことをライスに話した。ライスは、顔を赤くして興奮したと思えば、大きなため息を吐いた。
「どうせそんなところだろうと思いましたよ」
「まぁ皆も暇してるだろうからな」
ライスは溜息を吐きながらも、ミゲールの提案を各将軍に伝えるために執務室を出ていく。
「さて、向こうの反応はどうでますか?」
ミゲールは楽しそうに事が起きるのを待つことにした。
敵も慢性化していた戦場で気が緩んでいることだろうとミゲールは考えた。不意に現れる敵にどう対処するのか?ミゲールが考えた作戦とは夜襲だった。夜襲は想定されていなければ、成果を上げやすい手段の一つだといえる。
「ミディム、ウェルダ、レーア頼んだぞ」
ライスに任務を仰せつかった将軍たちは、日が沈むとともにそれぞれの私兵を連れてアリルーア砦を後にした。
三人は、それぞれが攻める場所を分散させ、敵を攪乱した上で離脱することにした。敵本陣近くまで迫った三人は散開して、横合いの森に入った。開戦の狼煙はミディムが上げる。
森から放てるだけの火矢を打ち込み。テントに火が付いたのを確認してから、ミディムが突撃の合図をかけた。それは正面と反対の森に隠れていたウェルダ、レーアにも合図となり、三方向からの夜襲が開始された。
しかし、三将軍は気づくべきだった夜襲をかけられたにも関わらず、悲鳴も戸惑う声も聞こえてこなかったことに……
彼らがそれに気づいたのは本陣に突撃をかけてからだった。
「どういうことだ?人がいない?」
「奴ら逃げたか?」
それぞれの隊で混乱が起きていた。想定していた状況ではないことに戸惑っているのだ。
「うん?貴様は誰だ?」
一人の兵士が人影を見つけて声をかけた。それは人と非なる存在であるゾンビだった。ゾンビとは死体に仮の魂を入れたモンスター化した者を指す。一人のゾンビを見つけると次々と地面の中からゾンビがあふれだしてきた。
帝国には闇法師と呼ばれるモンスター使いがいる。彼の使役するモンスターの中にはゾンビも存在していた。
「死した者を冒涜するとは!」
ゾンビは傭兵が好む軽装備だったが、中には王国の鎧を纏った者もいた。
「ゾンビは火魔法に弱い焼き払って弔ってやれ」
ゾンビはあくまで肉体が生存しているため存在できる。肉体を焼かれてしまえば、いくら別の魂が入っていようと活動することはできない。
「放て!!!」
号令とともに火の魔法が放たれる。直撃したゾンビたちから煙が上がるり、煙が晴れた先には、燃えるゾンビたちが倒れ伏していた。しかし、それはあくまで第一陣であり、ゾンビたちは次から次へと三隊を囲むように地面から這い出てきた。
「退却!!!火の魔法で敵を蹴散らしつつ退却するのだ」
ゾンビの数に恐れをなしたミディムが、全体に号令を出した。それは時すでに遅く、すべての隊はゾンビに囲まれていた。突破口を開こうと一点集中で火力を集中するが、目の前のゾンビは倒せても、壁となりつつあるゾンビはとどまることを知らなかった。
「どうなっているんだ!」
一人また一人と兵が討たれていく。討たれた兵士はゾンビとなり、隣の者に襲い掛かり被害は拡大していくこととなった。
「我々はまんまと罠にハマったのか?」
敵は待っていたのだ。自軍も敵軍も消耗し、焦れて仕掛けをしてくることを、準備万端に増援も兵糧もいらない兵士を使って。
「ミゲール様、お逃げください。敵は強いですぞ」
ミディムはミゲールの心配をしながらゾンビに飲み込まれた。
ミゲールの下へ届いた報告は、三隊の全滅という知らせだった。
さらに、恐ろしき報告はゾンビの大群とその後ろに肉体を失い骨となった者たちよるボーン兵が見えていると連絡が入ってきた。
均衡していた両軍の兵数は帝国の策により圧倒的な差へ開きつつあった。
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