協力者
すみません。遅くなりました。
明日はお休みします。休み明けは閑話を挟みますのでよろしくお願いします。
扉がノックされ、シエラルクとゴルドナが部屋へと入ってくる。俺はベッドに座り直し、リンに用意してもらった椅子へ座るように促す。
「お体は大丈夫ですか?」
椅子に座ると、シエラルクから心配そうに聞かれる。鎖はすでに外されており、魔力が解放されている。
シエラルクが協力者になってくれたことは一目瞭然だ。
「はい。傷はリンが全て直してくれましたから、こんな姿でお会いすること申し訳ない」
俺はベッドの上にいることを詫びる。
「何を謝ることがある。主は勇者だ。誇りこそすれ、恥じることなど何もない」
どうやらジャイアントと戦闘したことはすでに知れ渡っているらしい。
「そう言って頂ければ嬉しく思います」
「うむ。勇者には敬意を払うものだ」
ゴルドナの言葉に気恥ずかしくなる。
「改めて、我が精霊領を奪還していただいたこと感謝いたします」
シエラルクは深々と頭を下げた。敵としてあったときの彼女は自信に満ち溢れ、傲慢な印象すら受けたが、どうやら礼儀正しい彼女の方が彼女本来のものなのだろう。
「いえ、俺たちにとっても死活問題でしたからね。帝国と戦う上で、あなたたちの協力が得られるのは何よりも力強い。エルフの知識、ドワーフの技術、シルフィーの機動力、ノームの採掘。どれも必要なものです。協力できるなら、力を尽くすことなど惜しみません」
「そこまで言って頂きありがとうございます。サク殿からヨハン殿の考えを聞かせていただきました」
「俺の考え?」
「はい。精霊も、獣人も、人も、モンスターも分け隔てなく暮らせる世界。素晴らしい理想だと思いました。殻にこもり他人との接触をさせてきた我々では到底思いつかな理想です」
シエラルクの言葉にゴルドナもうなずいている。
どうやらサクが二人を落とすためにとんでもないことを言ったらしい。
「ははは、お恥ずかしい、未だ夢半ばです」
「それでも、私たちは感銘を受けた。ぜひ我々も協力させてほしい」
「それは俺と同盟を結んでくれるということですか?」
「同盟など、我々はあくまでヨハン様の部下でかまいません」
「それはいけない。俺は部下がほしいんじゃない。仲間がほしいんだ。意見を言い合い、手を取り合って協力しあえる相手がほしいんです」
「ふふふ。サク殿の言われた通り変わったお方ですね」
「サクが?」
「ええ、我が主は部下を求めません。ただ仲間を探しておられるますと、言われていました。それは部下よりも大変だともおっしゃっていましたが」
コロコロと笑うシエラルクは美しかった。
もともとエルフという種族は整った顔をしており、美しいのだが、笑っているシエラルクは一段ときれいなのだ。
「そんなことは?ただ望むのは自ら考えることだと思っているだけです」
「それが難しいのですよ」
シエラルクは一人で決め一人で責任を負ってきた。だからこそヨハンが言っていることがどれほど大変でしんどいことなのかを知っている。
「もしも、シエラルク殿に相談できる友人がいたらどうですか?」
「相談できる友人?」
「そうです。対等の立場で話ができる相手がいたならば、私たちの出会いも変わっていたかもしれませんよ」
シエラルクはゴルドナを見る。ゴルドナも友人と言えなくはないが、相談をしようとは考えなかった。
だが、ヨハンを見れば確かにヨハンになら相談をしてもいいかもしれないと思った。
自らを倒し、ジャイガントを退けたヨハンにならば胸の内を話しても受け止めてもらえるのではないかと。
「そう……かもしれませんね……」
シエラルクの中でストンと付き物が落ちたような気がした。
言葉を代えれば、肩の荷が下りたというのだろうか、もう頑張らなくてもいいのだ。
ヨハンが自分を支えてくれる。そう思うだけで心強いと思えた。
「ヨハン殿」
「はい」
「改めてあなたの仲間になることを許してほしい。私が代表して精霊族はあなたと対等の友人になりたい」
シエラルクの言葉に俺は手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いします」
差し出した手をシエラルクがとり、その上にゴルドナのゴツイ掌が乗せられる。
「主ならば信用できる。これから共に歩んでいこう」
ゴルドナの言葉に、後ろに控えていたココナが目を伏せる。彼女も協力してくれていたが、思うこともあったのだろう。
「では今後の方針を話し合っていきましょうか?」
協力関係が結べたので、国境は撤収し、国境の町はこのままドワーフが引き継ぐことになった。
ドワーフが住んでいた町はノームへ。エルフは森の管理を続けることになり、すべてを精霊族に引き渡すことが決まり、やっと八魔将シーラ・シエラルクとの戦いに決着をつけることができた。
いつも読んで頂きありがとうございます。