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精霊領奪還 終

 目を覚ますとベッドの上だった。見知らぬ天井が目に入り、横にはリンがいた。

ジャイガントの攻防を思い出して、恐怖が蘇ってくるが、俺は何とか生き残れたようだ。


「目を覚まされましたか」


 泣いたのだろうか?リンの顔には涙の後があった。心配そうな顔をしている。治癒魔法をかけてくれたのだろう。体の痛みはない。それでも、体が少し重だるい。魔力枯渇の症状だ。この感覚も久しぶりなので懐かしい。


「俺はどれくらい眠っていたんだ?それに、ここは?」

「一つ一つ説明してまいります」


 俺が目を覚ましたことを喜んでくれているのだろう。リンは優しく微笑み、一滴の涙を流した。


「すまなかった」

「いえ、ヨハン様が無事で本当によかった。それに謝罪の言葉などいりません。むしろ私達にお礼を言わせてください。ヨハン様がいたからこそ私達は死なずに済んだのです。ありがとうございます」


 リンは俺とジャイガントが戦った場所を見てきたのだ。あの化け物が暴れた後を。大地は割け、巨大な穴ができ、岩山で有った場所は更地となり、この星の物ではない鉱物が散乱しているあの光景を。

 怪物が暴れた後を見たのだろう。ジャイアントとの戦いだからこそ自然を破壊するほどの人知を超えた戦いが行われた。

 

「そうか、なんとかなったか」

「はい。ヨハン様が眠られて三日が経っております」

「三日……そんなに眠っていたのか」


 俺は大きく息を吐く。体のあちこちが痛いような錯覚が起きる。身体はどこも痛くない。それでもジャイアントから受けた傷は今までの、どんな戦いよりも激しく過酷なモノだった。


「現在、国境の街は制圧が完了しており、ゴブリン兵を配置しています。すでにサク殿、ジェルミー殿にも報告を済ませ、サク殿からいくつか報告が上がってきています」

「聞こう」


 俺は身体を起こして壁にもたれかかる。魔力枯渇による倦怠感で、まだ身体を起こすのもしんどい。しかし、大事な報告を寝たまま聞く気にもなれなかった。


「まず、王国軍第二軍団が壊滅状態に追いやられております」

「巨人の増援があったからな」

「はい。それもありますが、黒騎士だけでなく闇法師と呼ばれる八魔将が参戦してきたことで、ゾンビや骸骨兵など不死モンスターたちを戦場に出してきました。そのせいで、倒したと思った敵から襲われ、死んだ仲間が敵になり、時間と共に第二軍は消耗していったそうです」


 第二軍の将であるアンダーソンも、アンデット系モンスターが昼間から出て来るとは思わなかったことだろう。光魔法や炎魔法でゾンビは焼き払うことができるが、骸骨兵は元々骨人族と呼ばれる指揮官が指揮をとっている。そいつを倒さなければ死体から指揮下の兵を増やして増幅し続ける。


「第三軍はどうしていたんだ?」

「巨人族が第二軍を奇襲することがわかっておりましたので、巨人族の追跡後、戦闘に入ったようです」


 巨人の相手をしていて、第二軍の救援に間に合わなかったか。


「最後になりますが、精霊領は我々が占拠することができました。それにともない、シーラ・シエラルク様と、ゴルドナ様がこちらに味方すると首を縦に振ってくださりました」


リンとジェルミーが上手く説得してくれたのだろう。ありがたいことだ。


「そうか……よかった」


 俺はやっと安心することができた。倒れたことで、シーラやゴルドナが兵を挙げて戦闘に入れば、ガルガンディアはすぐに蹂躙されていたことだろう。しかし、そうならずに、こちらに味方してくれるのはありがたい。


「では、さっすくシーラ殿とゴルドナ殿をこちらに呼んでほしい」

「そう言われると思い。すでに手配しております」

「そうか、他に報告はあるか?」

「サク殿からは以上です」

「そうか、モグはどうしている?」

「すでにノーム族は国境の街に入っております。これでノーム、ゴブリン、ドワーフの三つの種族が国境の街に集結したことになります」

「そうだ。ドワーフは?ココナはどこにいる?」

「ドワーフ達は破壊された家の修復を率先して手伝ってくれています。またココナ様はその陣頭指揮をとられています」


 不測の事態が起きたことで、リンやココナに国境の街制圧を任せてしまったが、上手くやってくれたようだ。


「そうか、二人には苦労をかけたな」

「何をおっしゃいます。ヨハン様が一番大変なことをしてくださったのです。感謝の言葉しか出てきません。本当にありがとうございます」


リンは先程よりも深々と頭を下げた。恐縮そうに頭を下げるリンに対して、俺はそっと頭に手を置いた。髪を梳くように優しく撫で、ゆっくりと繰り返す。


「あっあの、ヨハン様」


リンが恥ずかしそうな声を出したので、俺は頭から手を退かせる。リンが顔を上げると、顔を真っ赤にしていた。


「まぁ、なんだ。一仕事終えたわけだしな」


リンに近づく、リンは顔を赤くしたまま固まっていた。リンの肩に手を置き、顔を近づけていく。

良い雰囲気が作れたと思う。自然な流れで俺はリンとキスを……


コンコン


「リン殿、ヨハン様の容態はどう?」


突然のノックに対して俺達は飛び退いた。声の主はココナのようだ。


「ココナ殿、ヨハン様は目を覚まされておられますよ」

「そうですか、シエラルク様、ゴルドナ様が到着されました」


 俺が眠っている間に様々なことが動いていたのだろう。優秀な部下たちだと改めてありがたいと思う。


「会おう」


 ココナの報告に対して、俺が返事をする。


「すまないが、ここに案内してくれるか?」

「かしこまりました」


 ココナが返事を聞いて去って行くのが気配でわかった。先程までのムードは台無しだと互いに笑い合った。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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