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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
騎士になるには兵士から
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第三魔法師団

 怪我の治りも良好なため、第三魔法師団の兵舎へとやってきた。

 第三魔法師団はゲーム内ではそれほど詳しく取り上げられていない。そのため情報を事前に調べたところ。ミリューゼ様直属の魔法師団であることがわかった。


「本当にここであってるんだよな?」


 建物は兵舎というよりも、貴族の屋敷と言った方がしっくりくる豪華な造りだった。

 ちなみにアリスも見舞いにきてくれたが、俺のボロボロの姿に卒倒してお帰りいただいた。


「すみませ~ん」


 俺は恐る恐る屋敷の中に入って行く。

玄関を開けると中央階段があるエントランスになっていた。


「うん?貴様は誰だ?」


 エントランスにいた。神経質そうな男に睨まれる。


「えっと、今日付けでこちらにお世話になることになりました。ヨハンといいます」

「ああ、確かミリューゼ様に取り入った平民か」


 取り入ったという言葉にイラッと感じながら、なるべく顔に出さないようにする。


「聞いてるからこっちにこい」


 俺は神経質そうな男に連れられて、屋敷の二階に上がり、一番奥の扉に通される。中に入ると男は去っていき、マルゼリータが座っていた。

 どうやらここは彼女の執務室らしい。


「来たのね」

「はい。本日付けで着任しました。ヨハンです」

「そう、我が魔法師団のモットーだけ教えておくわ。我が隊はミリューゼ様のためにある。ミリューゼ様のために魔法を研究し、ミリューゼ様のために魔法を行使する。いいかしら?勝手な行動は慎むように」


 またまた命令口調のお嬢様に若干の苛立ちを覚えたので、質問してみることにした。


「それで給金はいかほどいただけるのでしょうか?」


 俺は人差し指と親指で丸を作り、お金の話を振ってみた。

 ランスが居れば頭を叩かれていただろう。ランスは熱いのだ、騎士になるために純粋なのだ。

 だからこそ普段はランスとの友情があり、奴が主人公として活躍する恋愛ゲームだから、引いていた。ランスがいないのであれば、引く必要はない。

 俺はこの世界を現実として生きていくと決めたのだ。俺は騎士に向いていない。騎士に成れなくても俺はどうでもいい。それよりも老後を安泰にさせるための金がいるのだ。


「下衆ね」


 俺の質問にマルゼリータ様は汚物を見るような目を向けてくる。

 ツンツンがマックスまで高まったらしい。


「生きていかなくてはいけませんので」

「そう。ハッキリ言うは、あなたに与えられる給金はない。衣食住の提供はしましょう。この兵舎に部屋を用意し、第三師団のローブも提供します。食事は師団の者ならば食堂に行けばいつでも食べられるようになっているから、そこで摂りなさい。以上よ」


 これ以上話したくないと視線を机の書類に落とす。


「わかりました。では、冒険者として働く自由を頂きたいのですが」

「あなた、私の話を聞いていたかしら?」


 額に青筋が浮かんでそうなほど、怒気を含んだマルゼリータがヨハンを睨み付ける。

 物凄い威圧ではあるが、黒騎士に比べれば大したことはない。

 なんだかんだと黒騎士のお蔭で耐性ができているらしい。


「ええ。聞いた上で言っているんです。給金がもらえないのであれば、冒険者として働きたいと」

「ミリューゼ様の下で働ける名誉よりも冒険者を選ぶというの?」

「別に魔法師団を辞めたいと言う話じゃないですよ。むしろ暇な時間を有意義に使いたいと言っているだけです」


 俺も一歩も引かない。

こんな場所で拘束されるだけの毎日ほど退屈なものはない。


「あなたのような平民と話ができると思っていた私がバカだったわ。これは命令よ。余計なことをするな」


 明らかな敵意と殺意を持ってマルゼリータが、俺を睨み付けた。

 それでも俺は飄々とした笑顔で答えてやる。


「嫌です」


 その瞬間、風魔法の中級であるストリームが俺を襲う。


「口答えを許すと思っているの?」


 冷たい目で俺を睨む女に俺は不敵に笑ってやる。


「たいしたことないな」


 俺はウォーターカッターでストリームを切り裂く。


「なっ!」

「相性を知らないんですか?」


 マルゼリータの驚愕する表情に俺は勝ち誇ってやる。

 風魔法であるストリームは重みが無い分、重みがある土系や水系の魔法に対して防御が弱いのだ。

 だからこそ水魔法の基本であってもストリームを相殺できたのだ。

 そう、あくまで相殺であって勝てはしない。


「お前の実力は分かった。だが我が隊のモットーに従えないのであれば、貴様の居場所はない」


 マルゼリータの周りに魔力が集約していくのが分かる。

 これは上級魔法を使うつもりのようだ。こんな室内で使えばどうなるか分かっているのだろうか。


「シー!何をやっている!」


 執務室の扉が開かれ、ミリューゼ様が現れた。


「ミリューゼ様!」

「魔力が兵舎の外にまで漏れていたぞ」

「すみません」


 ミリューゼ様に叱られてマルゼリータ小さくなる。本当にミリューゼ様のことを崇拝しているのだろう。


「いったい何が原因なんだ?」


 ミリューゼ様は原因を探そうと部屋を見渡し、やっと俺を目にとめる。


「キサマは誰だ?」

「ヨハンです」

「ヨハン?ああ、戦場の勇姿か」


 戦場の勇姿ってなんだ?変な呼ばれ方になってるぞ。


「こいつは勇姿などと良いモノではありません」


 すかさずマルゼリータが反論する。


「うん?どういうことだ?」

「こいつは我が隊のモットーを守れないと言ったのです」

「モットー?そんなものあったか?」

「もちろんです。我が隊はミリューゼ様のためにあるのです。そのためミリューゼ様のために魔法を研究し、魔法を行使する。それこそが存在意義なのです」

「そんなモットー作った覚えはない」


 頭を抱えながらミリューゼ様が否定する。

マルゼリータがミリューゼ様の言葉に固まる。


「しかし、我が隊は姫様直属」

「姫はやめろと言っているだろ。シーは真面目過ぎるところがあるな」

「こいつはそれを出来ぬと言った上に、冒険者としても働きたいと言うのです。我が魔法師団は姫様の命令なく動くことは許されないというのに」


 先生にチクる生徒のようなマルゼリータに、やる気をなくしてきた。


「そんな命令をしたつもりはないが、確かに勝手をされても困るな。ヨハン、お前は我が直属になった。それはお前が不始末を起こした際に私の責任となる。それは分かってくれるな」


 男前な王女様に納得せざる負えない。


「ええ。それは分かります。ですが、給金が無い以上自由にできるお金を稼ぎたいのです。だからこそ冒険者として働くことをお許し頂きたい」


 俺も退けない事情がある。


「給金がない?どういうことだ?」

「マルゼリータ様の話では私は衣食住の提供は受けますが、給金が頂けないと聞きました」

「そんなことはないはずだぞ。正規兵として採用したのだ。正規兵の給金が出るはずだ」


 うん?どうやらマルゼリータは独断で俺を嫌って言っていたらしい。


「そうなのですか?師団長殿?」


 俺はマルゼリータに問いかける。

マルゼリータは顔を反らし、舌打ちをついていた。


「ちっ、このような奴はタダ働きで十分なのです。姫様の元で働けるだけでもありがたいことなのに」


 どうやら師団長殿は相当頭がおかしいらしい。


「シー、いくら平民が嫌いだと言ってもそれはやり過ぎだ」


 王女様なのにミリューゼ様の方が常識人だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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