魚な問題 2
魚な問題 2
人間、誰しも好き嫌いはあって、それは食べ物にもありうる。親のしつけはさておき、嫌いなものが多い私としては、なんでも食べるという友人はそれだけで尊敬に値している。
友人の真紀子はにんまり笑って、白身魚のフライを口に入れた。
「暑ふて、おいひぃ。」
「うん、美味しいのはわかったから。」
ついこの間、しばらくぶりの友人と会ったばかりだというのに、今回は珍しいことにばったりお互いが一人で買い物中に会ったのだ。当然そうすると、お茶でも?となるはずが、二人とも昼食前だったせいか、ご飯にする?と変更になった。
「ソースもいいけど甘酢もいいけど、タルタルも好きだなぁ……。」
真紀子はキラキラした眼をしながら、魚のフライ定食を食べている。私は、牛丼。
「そういえば、前回言っていた、魚をレンジで焼ける皿は買ったの?」
「まだ!決心がいまいち、決まらない値段なんだもん!」
「まぁ、主婦としては悩む問題よね。」
「そうよ。魚だって大量に買った方が安い、それをわざわざ少ない量買って、高い皿で食べる。なんだかなぁ、って思うのよ。でもねぇ、同じタルタルソースを作っても、私は魚の白身に乗せたいけど、子供も旦那もから揚げとかに乗せたがるのよねぇ。」
真紀子はため息をついた。しかし、ため息をつきつつもご飯はしっかりと頬張った。
「なに、タルタルソース、作るの?」
「だって、そのたびに買っていたら、もったいなくて!ああ、漁師の嫁にでもいけばよかった。」
「そうくる?」
私は目を丸くした。
「だって、ずっと魚を食べられるのよ。……飽きるかしら?」
「私は誰の嫁でもないから、わからないわね。」
「そういえばこの間、由香里に会ったの。」
真紀子は突然話題を変えた。由香里は私と彼女の共通の友人だ。
「ああ、由香里もそう言ってた。飲んだんだって?」
「そう!その時の彼女がくれたほっけの美味しかったこと!」
真紀子はうっとりするように言った。
「ほっけ……ってああ、飲み屋とかで見かけるあの、でっかい魚。」
「そうよ。だんなはまだ身がついているのに、食べ残すし、子供のために骨から外してやらないといけなくて、すごく面倒だったけど、美味しかったわ。」
「大変だったね。」
そう言いつつも、自分も魚を食べる時にそうしてくれたら、楽だろうなぁと思った。彼女はいい母親だ。
「まぁね。知ってる?由香里の旦那、水産業関係だって。貰うときにちょっと傷んでいるけどって言われたんだけど。気にしないわって答えて、もらったの。そんなに私の口がこえているわけでもないしね。最初、彼女の旦那さんの職業を聞いたときに、思わず良いわねぇって言ったんだけど。」
私は昔の記憶を引っ張り出した。
「ん?由香里、私と一緒でそんなに魚とか生ものが好きじゃなかった気がしたけど?」
たしか、その話題で話が盛り上がって友人になったのを覚えている。
「そう。旦那さんも普段から会社で魚を取り扱っているから、家では見たくないって食べないんですって。」
「そういうこともあるのねぇ。」
私はため息をついた。
「ねー。私もそういう考えもあるんだぁって思ったわ。あー。美味しかった。」
ふとみると、真紀子の皿は魚の尻尾さえも残っていない。料理は私の方が先に来たというのに!
「待って。」
私は慌てて、ご飯粒を集め出した。
「あー、慌てなくていい、私、デザート見てるから。あら、魚のデザートがある!珍しいってゆーか初めて見た。」
「はぁ?」
どれだけ、魚が好きなのかと一瞬言いかけたが、やめた。
「ここ、見て。」
私は真紀子が指したところを見ると、カステラの魚の口にアイスが入っているようなデザートの写真がある。チョコやら、バナナやら追加ができるらしい。なんとなく、口に詰め込まれているせいか多少苦しそうではある。
「魚味とかじゃないでしょうね?」
私はにやりと笑う。
「まさか!これにしよう。あんたは?」
「同じ……いや、私は横のゼリーでもいいな。金魚もいいねぇ。」
私は横のデザートをみた。水色できれいだ。
「どれ、あら、ホント、金魚の羊羹が入ったゼリー、しかも季節限定のソーダ味。私もこっちにする。」
私はつい笑った。
「じゃあ、それニ個頼んで。」
「すいませんー。」
真紀子の声が店内に響いた。