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The twain Swords  作者: アレフティー
vol.1「序曲:紅い大罪人の到達地点と時剋:1989」
3/9

#2


《1989/8/30 AM12:00 スイス WDO世界防衛機関本部》



 そこは世界中のジャーナリストの博覧会のようだった。

 あらゆる国の記者という記者が集まり、今か今かとその時を待っている。その時——つまり民間の一軍事組織が国連の下部組織に任命されるという、異例の事態についての正式な発表だ。


 会議室は報道陣で飽和していた。会議室はさほど狭いわけではなく、むしろかなり広い方なのだが、人数が人数だ。肩を寄せ合う、という程ではないが、汗やらタバコの臭いやらが充満していて、居心地は最悪だ。帰ったら真っ先にシャワーを浴びたいところだ、とアルフォンソは強く思った。


 アルフォンソは何とか前から二列目程の位置に陣取ることができた。カメラを挟んで、代表の席が正面に見える。代表のわずかな表情の動きも読み取れる絶好のポイントだ。


 程なくして、奥から男が現れた。黒いスーツを着こなした3,40代くらいの男。

 会場でざわめきが起こった。


「すみません、会見は総司令官が行う予定の筈では……」


 傍に居た記者の一人が前の男性に尋ねる。

 総司令官、企業時代の社長——たしかファイナスとかいう名だったとアルフォンソは記憶している。その素顔や詳しい情報を明かしたことは無く、謎の多い人物だが、何でも第二次世界大戦からの現場叩き上げの兵士で、戦後に軍事企業を立ち上げたという噂だ。


 しかし目の前にいる男のネームプレートには別の名が記されていた。それに第二次世界大戦が終結したのは1945年。今から44年前だ。目の前の男がそれほど長い時を生きてきたようには思えない。


「総司令官は先の任務で休養中なのです。誠に勝手で申し訳ないのですが、代わりに私……副司令のテンヌィスが話をさせていただきます。質問の時間は後でとらせていただきますのでそこで……」


 テンヌィスと名乗った男は丁寧な口調で対応した。変わった名前だな、とアルフォンソは思った。本名ではないのは確かだろう。


 男の着席を確認し、司会が口を開く。



「では、これよりWDO、世界防衛機関設立についての記者説明会を行います」




♦︎




 テンヌィスの話は、皆が期待していたものに比べると、変哲も無い至って普通のものだった。


 軍事組織が成立し、国連組織になるまでの沿革、現在の大まかな人員、武器兵器の種類や数、活動内容、理念。まるで企業の説明会に来たような感じだ。だが、むしろ兵力の内訳を懇切丁寧に説明してくれるだけ、危険な兵器を隠し持っているそこらの軍事企業や政府の軍隊よりはまだいい方だ。テンヌィスの話した説明が端から端まで全て真実ならば、という条件付きだが。


 そしてその条件は早くも、一人の男によって否定されようとしていた。初めから大きな疑念を持って説明を聞いていたアルフォンソは、テンヌィスの話したWDOの軍事力について、ちょっとした違和感を感じていた。


 先日起きた案件……中東及びアフリカ諸国の内戦への介入、鎮圧。

 当事国や周辺諸国だけでなく世界の主要国が手を焼いていたこの事件を、WDOはほとんど損害無しで解決。WDOの存在は一躍注目を浴びたのだが、中東やアフリカの内戦を鎮圧した割に、WDOが所有している人員と武器の数が少なく感じるのだ。

 言ってしまうと、内戦に参加させた『最低限の兵力』とテンヌィスが説明した『WDO全体の兵力』の差がほとんどないのだ。とてもじゃないが、これでは小さな国でテロが起きても、鎮圧できるとは思えなかった。


 さらに、中東やアフリカで具体的にどういう戦闘内容だったかをテンヌィスは多く語らず、戦闘の写真や映像も提示されなかったことを、アルフォンソは訝しんでいた。


 やはりか。アルフォンソの中にあった疑惑は膨れ上がれ、確信に変わりつつあった。


「では質疑応答に移りたいと思います」


 周りの記者が次々と手を挙げる。テンヌィスは場慣れているらしく、ベテラン記者の鋭い質問にも動じず、にこやかな表情を保ったままつらつらと流れるように答えていく。まるで工場の機械だな、とアルフォンソは思った。休養中の総司令官の代理だと説明していたが、そこも信じていいものだろうか。


「もし今後世界大戦が起きたとして、あなた方WDOは国連側に加勢するのですか?」


「まず世界大戦など起こさせませんよ。火種は必ず消します。相手がどんな勢力であっても」


 テンヌィスは自信を持って返した。つまりは相手がどんな勢力であろうが——小国であろうが大国であろうが——WDOは武力を行使して戦闘を鎮圧すると宣言しているのだ。完全なる世界平和を謳うだけはある。


「えーと、次は……そこの記者、どうぞ」


 アルフォンソが指名された。アルフォンソはパイプ椅子から立ち上がると、ゆっくりと深呼吸をした。


 記者の職について二年ほどだが、一対一で話すというのは——特に大勢の記者の視線を受けながらというのは——中々慣れないものであった。アルフォンソ自身の性格のせいもあるだろう。昔から人前で話すのはおろか、友人との会話でさえ気が引けることもある。文章力と頭の回転にはまあまあの自信があるアルフォンソだが、どうにも人と接することは苦手だった。


 だからこういう時こそ、例の漫画の主人公を頭に思い浮かべる。何事にも屈しない彼の強い意思が、自分に勇気を分けてくれる。

 それでもまだ足りない場合は、彼のセリフを大声で叫んで自分を奮い立たせるのだ。



「一気に行くぜッ!」



 ……もちろん脳内で。


 とまあそんなこんなで緊張を解きながら、アルフォンソは口を開いた。


「テンヌィスさんの話したWDOの兵力について疑問があります。今後、平和を行使する為にあらゆる勢力に立ち向かうことになるかと思うのですが、その勢力に対抗するにしては、いささか兵力が不足気味だと思うのですが。 PKFのように他国から兵力が供給されるのではなく、企業時代と同じ体勢、つまり雇用された兵士のみで組織すると話していましたが……その兵力で任務を遂行していけるのですか?」


 アルフォンソの質問に、だがテンヌィスは表情を崩すことなく、流れるように返答する。


「ええ、確かに数こそ国の軍隊には遠く及びませんが、数が少ない分、逆に一人一人をよく訓練することができるのです。数に対して数で迎え撃つよりも、一人の兵士がどれだけ多くの敵兵を倒せるかを考えた方が効率的だと思いませんか? あくまで私たちは平和を願う機関であって必要以上の戦力は求めません。戦いは数ではなく戦術……とでも言っておきましょうか」


「……確かに、任務結果の情報を拝見しましたが全く素晴らしい戦績でした。たったあの人数で敵の軍隊を無力化させることができるなんて。よく考えられた兵士の教育に戦術。私の国の武将の言葉にもこうあります。『戦に勝るかどうかと兵力は必ずしも比例しない。比例するかそうでないかは戦術、つまり自身にかかっている』」


「いやはや、お褒めに与り光栄です」


「……しかしながらまだ気になる点があります。投入された兵士の数や作戦内容は問題ではありません……戦場現地の状況についてです」


 現地状況。その言葉を聞いたテンヌィスはここにきて初めて、その表情を崩した。かなり注意しないと気づかないような僅かな変化だったが、アルフォンソはすぐにその変化に気づき、相手に伏せ札があることを確信した。


 アルフォンソは話を続けた。


「WDOの戦闘状況について現地の民間人に話を伺ったのですが……大変驚きましたよ。WDOの人員が武器も持たず、敵地に突入したかと思えば手も触れずに敵兵を吹き飛ばして気絶させ、ある者は炎を起こして敵の陣地を壊滅させたと皆、口を揃えて言うんです。しかもその戦闘内容を口外しないよう民間人に口止めしていたそうじゃないですか。紛争が終結してからもずっと」


 部屋の空気が一瞬にして止まった。


「——何を言ってるんです?」


「戦闘の状況を写した写真も鑑定したのですが、どう考えても手品の類いだとは思えないんですよね……いるんでしょう? 不思議な力を持った人間が、あなた方WDOの中に」


 一瞬の間を置いて、周りの記者達がざわつき始めた。無理もない、真剣な記者会見が急にオカルトサークルでするような談義に化けたのだ。


 疑念と呆れを含んだ目線がアルフォンソに降り掛かる。警備をしていた兵士や司会までも、ざわついている記者達をたしなめることを忘れ、アルフォンソに視線を向けている。あの金髪の記者も、怪訝な顔でアルフォンソを見つめていた。


 だが断じて嘘っぱちなどではないことをアルフォンソは信じていた。テンヌィスの顔の険しさがそれを無言で語っていたからだ。


「えぇと、アルフォンソさん……でしたっけ? 一体何を言い出すかと思ったら……困りますよ。証拠もなくそんなデタラメを……」


「証拠ならここにあります。現地の戦闘中の写真と戦闘を目撃した民間人の証言です」


 アルフォンソは鞄から何枚かの写真とテープを取り出してみせた。


「戦闘写真は民間人がWDOに隠れて撮影していた物を一枚五万円程で取引しました。より『現象』が鮮明に移っているものは二倍の金額を出しました。証言テープの方は別の記者が調査していた物を頼み込んで、自分の持つ情報と交換する形で譲ってもらいました。いずれも入手するのに一苦労しましたよ」


 会場はさらに騒然とした。記者達が思い思いに言葉を交わす会見会場はちょっとした混沌と化していた。


 テンヌィスもアルフォンソの手の内の物を理解したらしく、眉間により深く皺を刻んでいる。先ほどまでのにこやかな表情からは想像できない、険しい表情だ。コップの水で口を濡らしてから、テンヌィスは口を開いた。


「…… 一つ窺いたいのですが、アルフォンソさん。貴方が証明しようとしているものは……」


「ええ、超能力です」


 アルフォンソはさも当然かというように答えた。



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