第一章「アンファング」-3
教室の中から騒がしい声が聞こえている。
廊下に立つ二人は面倒くさい。そう確信した。
「これは個性的な自己紹介が必要な気がしてきたよ!」
「やめろ。お前はそれでろくなことになった試しがない。あれは俺たちが小学校に入るか入らないかの時だったな…たしか」
「わぁー!やめれ!黙れ!ゆうなー!」
教室の外でも騒ぎ始める。内でも何やら騒いでいる。そして教師は怒っていた。とてつもなく。
「そこから弾き出される答えは…」
「ん?どうして私をドアの前に置くの?どうしてそんな距離をとるの?ん?んん!?」
その瞬間、教室のドアが中から吹き飛んだ。それに巻き込まれるように、少女は廊下の窓から中庭へと消えてゆくのだった。
「爆破魔術の低級か、コントロールが上手い」
「てめーにほめられても嬉しかねーんだ!廊下で騒ぐな!さっさと自己紹介しろ!」
「ふむ、要求が多いな…」
クラスメートであろう生徒たちはとても個性的な人が来たな、と思うのだった。
「神笠麗奈、得意魔法は遠隔分子運動固定化魔術でーす!」
「江之江治瑛太、偽名だ」
「………」
自己紹介というには奇抜で個性的すぎる。誰もがそう思い、口を開くことが出来ずにいる。
だが、個性的なのは彼らだけではない。そう!ルルは止まらない!
「おぉーー!!可愛い子来た!得意魔法?何!?かっこいいぞ!遠隔分子なんちゃらって強いの!?」
椅子を蹴飛ばし麗奈の前まで走り寄る様は犬のようであった。その椅子は後ろの席の人の頭に直撃していたが。うたた寝をしていたバチがあたったのだ。
「いったぁ!何事?あぁ!編入生君!決闘しよう!」
頭部に走る激痛をものともせず、教壇に立つ強者へと猪突猛進する冴子も、中々に奇抜ではあった。
「てめぇらうるせぇ!席戻れ!つーか編入生!自己紹介てきとー過ぎだろ!」
個性等という生易しいものではなく、まさしく混沌に満ちたクラスであることが理解できるやり取りがなされている。
二人は顔を見合わせると苦笑しつつも嬉しそうに言葉を交わすのだった。
「こりゃ面倒そうだ」
「でも刹那を楽しむには丁度いい、でしょ?」
「違いない」
二人にしか分からないやり取りを終え、この混沌がいつ終わるのかと胸中で悩みとも言えぬ凝りを抱えながら、屋上を目指し共に手を繋ぎ廊下へ一歩を踏み出すのだった。
また暫く期間が空くでしょうが、お付き合いお願いします。