第2章「アンファング」-1
祓魔学院。魔術の運用効率を上げるため立ち上げられた兵士育成学校。
日本にあるただ一つの魔術研究機関を兼ねた施設である。
ここにも、そんな特殊な学院へ編入する青年が一人。
第一話「プログラム」
「だーかーらー、朝ちゃんと起きれるように早く寝ろって言ったわよね私!」
「知らん。昨日は仕事に集中してたからな」
朝から道端で騒ぐ一組の男女。男の方は凡庸な見た目だが、目を引くのは少女の方だろう。
頭の横で一房に束ねられた髪が尾のように揺れる紅の髪。人形のように整った顔立ちはしかし、生き生きとした感情に彩られている。
「そんなこと言って、どーせまた魔術でしょ!」
今もその顔は怒りで赤く染まっている。そこに悪意はなく、ただただ青年の身を案じているのが分かる。
彼らは祓魔学院に今日編入する。しかしその時刻を既に二時間も過ぎているのだ。
「バスはしばらく来ない。走って(・・・)行くぞ」
「えー…あれ魔力効率が悪いから嫌いなんだけど…」
そう溢しながらも二人の足元に瞬きが灯る。それは魔子がある条件下でおこす超常現象の予兆。次の瞬間には二人の姿は上空へ。
飛翔魔術。燃費は悪いがその爽快感から人気の基礎魔術のひとつである。
「飛ばすぞ」
「あいあいさー…って、遅れたのあんたのせいだからね!?」
二人はそのまま空を走った。これは瞬歩と呼ばれる高等技術で、体幹を維持したまま空中で行動できるものだ。
十代で扱えるようなものではないが、まさしく朝飯前として扱うあたり、技術の高さが伺える。
「こうしていられるのもあと少しなんだ。楽させてくれ…」
青年の呟きは空に紛れて淡く消えた――