乾し肉
この話では、日本では通常食用としない動物の干物の画像があります
苦手な方は読み飛ばすか、「挿絵を表示しない」にしてお読みください
冒険者の携帯食料としてよく利用される「乾し肉」。水中に住み、体表を水が通過するのが前提になっている魚を干す場合と違い、陸上で水の蒸発をなるべく避けたい動物の肉を乾し肉にするには、実はかなり薄くスライスする必要がある。
その作成には「よく切れるナイフ」が欠かせないだけでなく、かなり乾燥したところでないと作成が困難である。乾燥が不十分だと黴びたり腐ったりしかねない上に、乾燥すると肉はやたらと硬くなり、元々が硬い野生動物の肉を使うと簡単には噛み切れない代物になってしまう(その問題を解決する手段の一つが「燻製」である)。
もちろん、ファンタジー小説の中にはまるでスライスされた現代のビーフジャーキーのごとく簡単に調理できる干し肉も存在するが、これはおそらく何らかの魔術や調理スキルで作成されたものであろう。
ナロウニアでは辺境と言えるフットの街に、そんな魔術や調理スキルで作られた食材があるわけがないし、山の麓に魚の干物があるはずもない。おやつのように食べられる軽い食べ物と言えばドライフルーツか乾し肉だが、センテラは乾し肉を選択した。
乾し肉として軟らかく食べやすいのは、魚に次いで水分の出入りを許諾する皮膚を持つ両生類であろう。
「はいっ、あと乾し肉」
「待て、なんでよりによってこれなんだ」
(交差法で立体視できます)
「牛の乾し肉なんかよりよっぽど美味しいんですよ、こっちはきっとメスだから卵の歯ごたえも良いし。まったくこれだから貴族のお坊ちゃんは」
「いや、これは食い物として認めんぞ」
ケースケは嫌がっているが、フットの街以外でも屋台では普通に売られている。ケースケが貴族だから食べないというわけではない。ケースケの貴族仲間でも、街中で買い食いしたことのあるやんちゃ仲間はほとんどが食べたことがあるのだ。
ケースケがこれを食べられないのは、単に食べたことがないという前世の記憶が邪魔をしているだけだろう。センテラはこちら育ちだから食べ慣れているし、ケースケの家族でも気にする者はいない。
「館長、地元の食文化を知らずして学芸員を名乗れませんよ。食わず嫌いは大概にしてください。はい、あーん」
確かにセンテラはかわいい女の子と言えなくもないが、こんなもので「はい、あーん」をして貰っても嬉しくない。食材と目が合ってしまったケースケは「むー」と口を横一文字に閉じて抵抗している。
「プハッ、くそう、いつか缶入りのニシンの塩漬け食わしてやる」
ケースケは前世の記憶で強烈な体験をした食材に思いを巡らせる。尤も、件の食材はこちらで再現できるかどうかも怪しいし、再現できたところで自分も食べて見ろと言われたら困ってしまうのだが。
「じゃあ仕舞っておきますね」
センテラは思わぬ館長の弱点に、博物館まで持ってかえることにしたようだ。歴とした乾し肉である、保存は効くから大丈夫だろう。
実際は画像の状態ではなく、ちゃんと炙ってから食べるものです
さすがにどうかと思ったので、前話から分けてみました
資料No. :資料化の予定なし