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ナロウニア国立博物館物語  作者: 林育造
素材採取の旅①
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銀貨

 センテラは瓦礫の山の横で屈みこむと、ケースケが埋もれている地中に探査(インスペクト)をかける。

 どうやらケースケはかなりの深さの穴の中で、逆さまに埋まってるようである。


「館長-、爆発(エクスプロージョン)行きますから、耳と目を覆ってくださーい」

「……ま……て……」

ケースケの小さな声が地面の中から聞こえるが、

爆発(エクスプロージョン)(ぼそっ)」


 次の瞬間、火山の噴火による火口からの噴出のごとく、大小の瓦礫が地面から飛び出し、ケースケもくるくると回りながら上空に向けて飛んでいく。暫くして降り(落下し)てきたケースケが、センテラに詰め寄った。


「危ねーな、人の顔のすぐ下でエクスプロージョン発動しやがって。埋まってて腕が動かせる訳ね-だろ。首が折れたらどうするんだ」

「えー、その腕も動かせない状況から出してあげたんだから文句言わないでください。それに、そんなこというならイリュちゃんと()るのに電撃が通りやすいところに行かせたでしょ」

「はぁ? あぁ、ふーん。なんだ、あの場所では不満か?」

「当たり前じゃない、どれだけビリビリ来たと思ってるのよ」

「そうは言うがな。あそこは石墨の岩脈があるからイリュが雷撃(サンダーボルト)を打って来てもアースランスかアースジャベリンで文字通りアースしてしまえば電撃を喰らわない。俺がそれをやって見せたからイリュは最初から地面に電流を流しに来たと思うが、あの岩脈の大きさは探査したろ?

あれをいっぱいにしてなおかつ放電させられる電気量はどれくらいか判るよな。

4年前でもイリュは雷撃(サンダーボルト)1万発以上撃てたし、それをまとめることもできるはずだ。そんな極太の雷撃(サンダーボルト)を喰らいたかったのか?」


 言われてセンテラは気がついた。イリュは雷撃(サンダーボルト)を使わずにわざわざ地中を通してきたが、そのためにはあの岩脈全体を帯電させる必要があったはずだ。もし、その地中に電気を逃がすことができない場所で最初から()っていたら、そのものすごい電気量の雷撃(サンダーボルト)を撃たれていたことになる。そうなっていたら、服のボロボロさ加減はこの程度では済まなかったであろう。


「えっ、じゃあブレスに切り替えたのは魔力、切れ?」

「だろうな」


 イリュはセンテラの背中ですやすやと眠っているが、完全に魔力切れの状態である。そう簡単に魔力切れなど起こさないのだが、ブレスの後ファイアーボールに使ってしまったのでほぼ空っぽになったのだ。


「そっか。あ、館長、一応持ってきました」


 文句を言っていたのをごまかすように、センテラは拾っておいた黒曜石(火山ガラス)の破片を渡す。改めて見てみるとエッジが非常に尖っており、さわるまでもなく切れ味の良さの見当がつく。これが至近距離から高速で無数に飛んでくるのだ。思い出してもぞっとする攻撃である。


挿絵(By みてみん)


「一応火山ガラスの在庫はあるが、これは随分と色が薄くて軽いな……あんな奥まで行ったのか。沼を干上がらせていないだろうな」


 峠の向こうの地形を知るものとして、状況が少々気になるようだ。


「沼は私から見てイリュちゃんの向こう側だったから、多分無事だよ」

「お前の無事だ、は当てにならん。まぁいい、さっさと着替えてこい。帰るぞ」


「父たーん、またねー」


 魔力切れで眠っているイリュと違って少々暴れ足りない様子のエリュと、相変わらずの格好で人型のままのセレナに手を振られ、ケースケとセンテラは洞窟を後にした。


 帰り道、センテラは初めて見る龍の牙に興奮気味である。袋にしまってあったものを取り出し、持ち上げたり覗き込んだりして真剣に観察している。


「つくづくすごいですね、端の方はこんなに薄いのに剣で叩いても欠けもしないし、いっそこれ売っちゃってそのお金でいろんな物を買った方が資料が充実するのでは」


 希少なブツを「いろんな物」要するにたくさん買えるものにしてしまったら、それはどこにでもあるものだから、総合的な価値が同じでも博物館の資料としてはほとんど役に立たない。


「どうしてこれが売れると思う、こんなものを誰が何に使うんだ」

「剣?」

「随分短い剣だな」

「じゃあ、鏃か槍の穂先」

「どうやってその形に加工するんだ」

「ドワーフの知り合いとかいないんですか」

「いない訳じゃないが、あいつら凝り性だからな。加工用の道具代まで出す予算はないぞ」

「それも売るときの値段に上乗せすれば……」

「鏃って、誰がそんな高い使い捨ての武器を使うか。穂先だってそうだ。個人用の武器にするくらいなら、もっと使い勝手の良い安価な材料がいくつもある。だから触媒くらいしか使えないって言ってるだろ」


 実際の所、武器に加工して売るより、魔術師かコレクターにそのまま売った方が高く売れるだろう。ただし、龍の牙の加工品で最も末端小売価格が高いのは、イヤリング・ペンダントといった装飾品(アクセサリー)である。見かけよりも龍の素材としての価値が上乗せされるからである。



「さて、腹ごしらえしてさっさと戻るか」


 フットの街まで降りてきた所でケースケがじゃらじゃらと景気の良い音を立てて財布を取り出す。


「ええっ、館長そんなにお金持って来てましたっけ?」

「ああこれな、セレナに貰った。あんなことを言っていたがビーフシチューを食べてみたいらしくてな。理由はわからんが高価(たか)いと思っているのか手土産にさせるのは悪いと言って光り物コレクションから少し分けてくれた。次に来るときに持ってきて欲しいそうだ」

「へーぇ、それって……お金ですか?」


 ケースケが袋から取り出した物を、センテラがのぞき込みながら言う。


「もちろん。金貨もくれようとしたんだが使いにくいし、全部銀貨だぞ。いろんな国のが混ざっているようだが」

「銀貨ですか、丸いとは限らないんだ」


挿絵(By みてみん)


 龍はいろいろなところに行けるようだ。中には漢字で「銀」と書いてある物まである。


「そうだな、基本的には粘土板でコインの元を造り、融かした鉄をかぶせて型を作る。定量の重さにした金銀の粒をそこに挟んでハンマーで叩くと硬貨のできあがりだ。だから表裏でずれることも質によっては割れることもある」


挿絵(By みてみん)


「ずいぶんすり減ってるのが多い気がしますけど」

「これは多分どこかの貴族にでも削られたんだろうな。1枚当たりでは少量でも、大量の硬貨を削れば集められる量も馬鹿にならない。だから削られやすい金貨や銀貨は周りに刻印や筋が付けられているわけだ」

「そういうもんですか、セコいですね」

「貨幣っていうのは質が良すぎると削られたり鋳潰されたりするし、悪すぎると偽金が横行する。金属を何種類も用意するのは効率が悪いが、誰もが数字を読めるとは限らないから大きさも変えなくちゃいけない。大きな国だと統一貨幣を流通させるのもいろいろ大変なんだよ」


 貨幣というのは、使わせる方も使う方も、偽金で損をしないためにはある程度の知識が必要なのだ。


 フットの街にも食堂のような所はある。屋台の後ろにイスとテーブルが置いてあるだけの場所だが、使い捨てでもない容器を持って行かれても困るのでスペースを用意している屋台はそれなりに多い。


 ある程度の腹ごしらえが済んだので、適当に何か囓りつつ転移ポイントまで移動しようということになった。


「じゃあ、何か買ってきます。何が良いですか」

「うーん、結構暴れて指先に力が入らないから、適当に軽くて食べやすいものを買ってきてくれ」


 ケースケはそう言うと何の気なしにセンテラに買い物を頼み、適量の銀貨を渡したのであるが、センテラは言われたとおり食べやすいものを屋台で仕入れてきた。


「はい、館長。おつりと……ちょっと、何で逃げるんですか」

「!!」

【警告】

次話は、日本では通常食用に供されないものの画像があります

分類上の所属は脊椎動物門両生綱です

苦手な方は次話を飛ばすことを推奨します

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