表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナロウニア国立博物館物語  作者: 林育造
素材採取の旅②
16/43

コレクターとは

今話はコレクター論とでも言うべき回です。話はほとんど進みません

 物を集める。単純だが難しい行為である。奥が深いとも言う。


 物を集めるとき、「同じ物」を集めるわけではない。「同じ物」が多数有るのなら、集める楽しみよりも集める労力の方が上回ってしまうだろう。

 従って、「同じ系統の物」を集める場合が多い。


 具体例を挙げよう。


 今の若い人たちは、キャラクター化されたモンスターのカードを集めたことがある人が多いのではないだろうか。


 そういったカードで、もしも黄色っぽい鼠1種類しかカードがなかったとしたら、それを何枚も集める気になるだろうか。おそらく、ゲームに必要な枚数より数枚多くなれば集めるのを止める、或いは最初から集めようと思わないはずだ。


 これは他の種類のカードや、プラスティック製のベーゴマでも同じである。物を集める(コレクションする)対象は、バラエティに富み、かついくつか珍しい物を含んでいる場合に熱が入る(のめり込む)のだ。


 ここで、人工の物、言い換えればコレクションすることを前提に作られた物を集めるのは、資金さえあればそれほど難しくない。なぜなら、ある程度の人数の手に渡っている実績がないと、収集意欲に結びつかないからである。切手や記念硬貨の発行枚数は、実はかなり多い。


 どうでも良いことだが、現代日本でもコレクションの対象となり、なおかつ充実の助けとなるあり得ない内容のイベントは多数行われている。


 有名なのは8月と12月に東京湾岸で行われるイベントであろうか。


 あそこで販売されているすべての本やグッズをコンプリートすることを考えてみて頂きたい。金を用意するのも、すべてのブースを回るのも困難なことが判るだろう。もちろん、ジャンルという物があるのですべてを欲する者などいるはずがないのだが。一応、あれも金と技があれば、余程の限定品でない限り収集は可能である。切手古銭、ガレキなども、同様のイベントが存在する。


 だが、コレクターと呼ばれる人たちは、「収集することを前提として作られた」物ではない物も集めようとするのだ。それらは上記収集を前提に作られた物と同じ「いろいろな種類があり、珍しい物が含まれる」という性質を持っている。例えば美術品、古道具を始め鉄道グッズ、岩石鉱物・宝石、昆虫……。コレクションの対象となる物は数多くある。


 だがこれらは、収集する人のことを考えて「造られている」わけではない。収集していくと珍しい物が欲しくなるわけだが、珍しい物を得る手段は限られてくる。


 自分で入手するためにできる行動にもまた、限界があるのだ。 


 宝石をイメージして欲しい。あんな物はただの石ころであるが、質の良い物、大きな物を求めて、鉱山に石を堀りに行く紳士淑女はいない。富豪もしかりだ。宝石の原石を掘り出しているのは、宝石よりも日常の生活物資が大事な人々である。彼らは日常の糧を得るために、最終的には彼らの数年分の年収以上で取引される石ころを掘り出しているのである。


 シンジケート、あるいは宝石ギルドは、1億円で売れるからと言って5000万円で買い取ったりしない。掘り出した者が石を持っていても無意味なことを知っているので、1万円で買えば良心的な方である。モンスターのドロップ品とかって、不思議なことに高く買ってくれるよね。


 話が逸れた。では、中間搾取者はどうすれば儲かるか。


 彼らは、どんな物なら高く買ってもらえるかを知り、しかもそれを見分ける必要がある。そうでないと安物、あるいはゴミを抱え込んで大損をするか、折角の珍品を二束三文で売ってしまって儲け損なうことになりかねない。従って特殊な物ほど詳しい者は限られ、見分けられる者はそのコレクターに近づいていくのだ。


 異世界では魔法道具のコレクターが存在するのだが、その気持ちはゲームでアイテムコンプリートを目指したことのある人ならわかってもらえるだろうか。そしてコレクションが充実してくると、コレクターは街からいなくなる。最終的にコレクションを極めたコレクターは、かなり辺鄙なところに住むことになるのだ。


 今回ケースケが訪ねようとしている専門家であるコレクターはナロウニアではなく、西隣のアルン国の、さらに北の方、海岸近くの岬にある丘の上にいる。


 アルン国はナロウニアを出たレインボー教徒が建国した所とされている国で、イーハトピアの北に位置する国である。ナロウニアとの国境は荒野が広がり、国境を越えてもしばらく砂漠になっているような所である。


 その、さらに北の岬。どうしてそんな辺鄙なところにいるのか。


 博物館に、誰でも持っているもの、どこにでも転がっているものを展示しても、誰も喜ばない。しかし、展示物は通常展示しっぱなしなので、貴重なものが死蔵されてしまうという側面もある。


 たとえば、ステレオタイプの魔術師が良く持っているスタッフ。素材を厳選し、魔法陣・魔術式を書き込み、魔力を籠めて作られるそれは、簡単に作成できるものではない。


 特に、世界樹の枝だの一角獣の角だのフェニックスの羽だのを使ったような逸品は、その希少性と魔力変換のしやすさから、供給は少なく欲しがる者は多く、博物館が簡単に手に入れられる物ではない。しかも、もし入手できて展示していたとしたら、使っていないのなら譲ってくれとどんな大金を積んでも手に入れようとする者が引きも切らないであろう。


 しかし、展示など必要としないコレクターは違う。金に飽かせてコレクションし、その上でさらに護衛を雇うことができる大貴族や大商人とかならともかく、護衛に必要な資金までコレクションにつぎ込んでしまうようなコレクターは、セキュリティの都合上、街中には住んでいない。家の中には1つで小国が買えるようなアイテムが所狭しと並んでいるのである。盗賊が出ない方が不思議だ。


 当然、そんなコレクションを欲しがる者もいる。他ならぬコレクターと、コレクターに高値で売れることを知っている盗賊である。

 人が集めた物ですら欲しがるような輩は、どういう所にしまってあるか知っている。なにしろ、自分がそうなのだから。また、盗賊はどんなところに隠してあるか見つける術を持っている。そういうことを繰り返してきたのだから。だからセキュリティが甘いと、折角保管しておいたコレクションを見つけられて、持ち去られてしまうことになる。


 そんなコレクターは普通の家に住んでいるわけがない。


 コレクターというものは、集めた物をいつも手に持っているわけではない。見たいときに取り出しやすいところに置いて、保管しておくものである。


 だから保管する家は侵入しにくく脱出しにくい、そして万が一盗られたときには追跡しやすい場所が必須である。そんな場所は、特に追跡しやすさの点で街中にはほとんど無い。

 勢い、コレクター、特に年季の入ったコレクターほど辺境地に住むことになるのである。


 なぜケースケはそんなコレクターの情報を持っているのか。


 ケースケは転生前、コレクターをやっていた。なにしろ、ケースケの身内には変な物を集めていたことのある者が多く、その影響を受けたようだ。親はキャラクターの消しゴムを集めていたそうだし、叔父さん――といっても親の従兄弟だが――は、トイレットペーパーの包装紙を集めていた。なんとこれは同好の士が結構いるらしく、「かめ持ってる?」「持ってるよぅ」などという会話をしていた。意味がわかんない。


 それどころか、遠い親戚に富士山の近くに集めた物の博物館を造ってしまった人もいる。これは単に、自宅に置いておくスペースがなくなったためらしいが。


 まぁ、ケースケが集めていたのはたいした物ではなくゆるキャラグッズだったのだが。だからナロウニアで博物館なんてものを造ろうとし、いろいろな物を集め、資料を充実させつつ収集を続けているのだ。


挿絵(By みてみん)

 虫というわけではない。


挿絵(By みてみん)

 骨というわけではない。


挿絵(By みてみん)

 ただの石というわけではない。


 こういったものを真剣に集めるのもコレクターである。


 物を収集していると公言していると、協力してくれる人も出てくるが、得てして協力者は完全に理解して協力してくれているわけではない。箱のないおもちゃ(まぁ、ガラクタとまでは言わないが……)を自信たっぷりに高く売ってくれようとしたりの類である。また、蝶を集めている知り合いは「同じ昆虫だろう、何とかしろ」と、G退治を要求されることが多いと零していた。

さらに、偽物が存在するジャンルでは、自分で真贋が判断できないと話にならない。


 要するに、自分だけが頼り、自分で何とかするしかないのである。そのためには、関連した情報に詳しくなっていく必要がある。一般人にそんな情報を求めても無駄だ。ほとんどの物は集めても何の役にも立たず、役に立つとしても使ったらなくなってしまうか、使えなくなってしまうようなものだ。消費期限がある物はどうするのか。


 今回訪ねるコレクターは最初単なるポーションのコレクターだった。だが、ハイポーション、エクストラポーション、マジックポーションとコレクションを増やし、ついにエリクサーを4本集めたところで譲ってくれの声の多さに耐えかねて、隣国に逃げ出したわけだ。そして、今では立派な魔具コレクターである。


 だが、時間は有限なのだ。いずれ、個人には限界が来る。


 金、スペース、集めなければならない物の多さ。


 金持ちになる、コレクションのジャンルを絞るなどいくつか解決策があるが、一番手っ取り早いのは博物館に丸投げし、管理と収集を博物館に任せて自分は見に行く、という選択である。博物館が扱うジャンルがわかっていれば、大切な自分のコレクションもいずれ寄贈することができる。


 そう言う意味では博物館とコレクターは持ちつ持たれつの関係と言えよう。



「よし、いくぞセンテラ。しばらく留守にすることになるが、1ヶ月くらいかかるかもしれない。準備しろ」

「えー!」

「西の荒野を越えて砂漠を突っ切るからそれなりの準備をしておけよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ