Tea Break
「センテラ、お茶にしよう」
ケースケがティーセットに茶葉を入れながらセンテラに声をかける。
訪れる客もそんなに多くないので、来場者の相手をする必要がないときには結構暇だ。そして研究室には他に誰もいないから、お茶を淹れるのなら自分でやるしかない。本来、貴族が自分で茶を入れるなどあり得ないのだが、ここでそんなことを気にする者はいない。
「へぇ、緑茶ですか、珍しいですね」
「そうか?」
「ええ、王国では紅茶を飲む人が多いのですが。緑茶を手に入れるのも大変ですし」
「何だと、青茶(ウーロン茶)ならともかく、緑茶が手に入らないわけがなかろう」
「え? でも、緑茶を手に入れようとして苦労している人は多いですよ」
現に、紅茶を嗜む者は多い。貴族の嗜みとでも信じているのか、休憩の時は紅茶だし、レストランどころか食堂のティーセットまで飲み物は紅茶である。まるで、ナロウニアには紅茶しか存在しないかのように。この紅茶であるが、ナロウニア王国は一大農業国家であり、一応国内産である。
「そんな馬鹿な」
だが、緑茶が珍しいという発言に納得できないケースケは台所に行くと、茶筒をいくつか持ってきて中身を並べた。
左から緑茶・烏龍茶(青茶)・紅茶
「これが紅茶、これは青茶で、こっちが緑茶だ。今、全部淹れてみるからちょっと待っててくれ」
ケースケは手際良く、お茶を淹れていく。こいつは本当に、貴族だったのだろうか。そもそも貴族は身の回りのことをすべて侍女がやっていたはずで、だから掃除もできないのではなかったか。
「で、開いた茶葉がこれだ。どう思う?」
ケースケはそう言うと、グラスポットからそれぞれの茶葉をつまみ出して並べて見せた。
「うーん、似てますね」
「いや、似てるんじゃない。同じなんだ」
もう一度、淹れる前の乾燥した状態の葉を一つまみずつふやけた葉の横に並べる。
「生ではどんどん変質していくから、加熱して乾燥させたのがこれ、緑茶。加熱の度合いと熟成の時間を変えたのがこっちの青茶と紅茶だ。元は同じ植物なのだから、紅茶があるのならその原料の緑茶が無いはずはないだろう。」
小説内によく登場する紅茶、実はほとんど登場しない緑茶、ウーロン茶と同じ原料である。
これらは「茶」の葉をどのような段階で酵素反応を固定するかによって決まるので、紅茶があるのに緑茶が存在しないとかいうことは本来ありえない。
一般的な紅茶のティーバッグに入っている葉が非常に細かく刻んであるのは抽出効率を上げるためであり、緑茶と同じく低温でゆっくり抽出した方が苦みは少ない。
「これはあれですよ、ナロウニアの紅茶はモンスターのドロップなんです」
「そんなモンスター、チャドクガに食わしてしまえ」
繰り返すが、ナロウニア王国は一大農業国家であり、ちゃんとチャが栽培され、紅茶や緑茶を輸出している。
チャノキの枝と花(茶畑で撮影)
なお、博物館に来てから1年も経つのにセンテラが緑茶の存在を知らなかったのは、もちろん自分でお茶など淹れたことがなかったためである。のどが渇いたら、コップの中に直接氷と水を作り出せるので、わざわざお茶を淹れるのは非常に面倒くさく感じるものらしい。
センテラは同じ理由で食材の獲れる状況も知らないものが結構ある。例えばコショウの葉を見分けられるくせに、芥子の正体は見たことがなかった。
一応今は、ソーセージは得意料理である。
バックヤードには給湯室なんかありませんが、実験用に水も加熱装置も揃っていて、台所としても使っています。
茶葉は飲料用で、今のところ展示用資料にする予定はありません






