漫画を描こう!
わたしの子ども時代を語るうえで、絵の話は欠かせません。姉が絵を描くのが好きだったので、わたしも小さい頃から当然のごとく絵を描いていました。たいていはこーこくがみの裏を使っていました。幼稚園児としては絵が上手いほうだったので、他の子のスケッチブックにでかでかとケーキを描いてあげて、得意気になっていました。
それから、わたしのもうひとつの趣味は、お話づくりでした。人形などのありふれたもののみならず、鉛筆やお箸など、ありとあらゆるものを動かしてしゃべらせていました。なによりも便利だったのは自分の手です。いつでも使えるし、手首を上にして、指先を地面につければ、人間のように見えます。
ちなみに、けいちゃんの手には名前がついていました。右手が「じっこちゃん」、左手が「だばちゃん」です。どこから湧いてきた名前なのか全くわかりませんが、物心ついたときにはそのように名乗っていました。右足は「ももちゃん」、左足は「むいちゃん」です。母によると「にげちゃん」なる人もいたそうなのですが、わたし自身は全く記憶にありません。文字通り逃げてしまったようです。
絵とお話づくり、これらが合わさった結果が、漫画でした。ほとんどらくがきレベルのものですが、こちらもずいぶん昔から描いていました。およそ漫画の形はとっていませんが、 恐らく最も古いと思われる、ストーリー性のある作品がこれです。たぶん、四歳ごろです。
「あるところにタコタコじまがありました」
『コノオンナはわたさない!』
『ス・テ・キ』
昔からそういうのが好きだったんだなあ……。でもどうしてタコなんだろう。
それからわたしは、映画化もされて有名になったゲーム『バイオハザード』を、父がプレイしているのをよく眺めていました。知らない方のために説明しますが、このゲームは街にウイルスが流出して、たくさんのゾンビが襲ってくるというストーリーです。扉の向こうからゾンビの声が聞こえるところでセーブして、次の日父が扉を開けるのを楽しみにしながら幼稚園から帰ったら、すでに扉が開けられていてがっかりした思い出があります。そんなわけで、初めて描いた長編漫画のタイトルは『ウイルス』でした。小学二年生のときの作品です。左開きの算数のノートを使っていたので、アメコミのように左から読むようになっています。
主人公の双子の姉が殺され、ウイルスに侵された人々が包丁片手に襲いかかってくるという、衝撃のストーリーです。しかも流血シーンのみカラー……。舞台は日本なのに、なぜかピストルを撃ってくる人がいたり、街中にショットガンの弾が落ちていたりします。
ゾンビたちを殺すことに抵抗のある主人公に対し、「しょうがないよ。彼女たちは人げんとちがうのと同じだから」とまわりくどい日本語でフォロー。わたしは当時、女の子しか描けなかったので、主人公も女の子ですし、襲いかかってくるのはみんな女の子です。そんなわけで、ちゃんと「彼女たち」と書いているあたり、妙な律儀さを感じます。