算数の怪
小学校ではどんな授業が行われていたのか。ほとんど記憶にありませんが、いくつかの印象的な授業だけは覚えています。
算数の授業は、今思えば不思議なことや面白いことがたくさんありました。
一年生のときには、自分で足し算引き算の文章問題をつくってみようという授業がありました。そこでわたしが考えた問題が、
「Aくんは筆箱を30個持っています。Aくんはおじさんから筆箱を10個もらいました。筆箱は合わせていくつでしょう」
というものでした。
……ものすごいスケールです。先生が苦笑しながら「常識的な範囲で考えようね」と言ったので、物の常識的な数について考えたことのなかったわたしは、とても衝撃を受けました。わたしは恥ずかしくなって、急いで「筆箱」を「鉛筆」に書きかえました。鉛筆にしても持ちすぎという気もしますが。
ものすごいスケールといえば、以前小学校のプリントを整理しているとき、算数のテストを見つけました。
――「18億×2万」。
「お、お、億!?」と、しばらく目を疑いました。
問題そのものもこのように、あえて漢字で表記されています。日常では到底計算する機会がなさそうなあまりのスケールの大きさに、当時から相当辟易していたのを思い出しました。
この単元の目的は大きな数字の概念を理解させるとともに、数字を書かずに文字だけで計算させることだったと思うのですが、当然そんなことができるはずもなく、テスト用紙にはひたすらゼロが書かれまくることとなりました。しかも当時まだ「億」「兆」という漢字を習っていなかったので、これらの漢字を覚えることから始めなければなりませんでした。特に「兆」という文字は、当時のわたしにはなかなか理解しがたい字形だったようで、ノートにはたまに「非」が混じっていました。
初めて面積の求め方を習ったときの衝撃は忘れられません。縦と横の長さを掛けるなんてあまりにも斬新で、小学生の発想を超えていました。面積の記号の、「平方センチメートル」という読み方がなかなか受け入れられず、わたしは「センチメートルツー」と読んでいました。予想がつくと思いますが、「立方センチメートル」は「センチメートルスリー」です。付属する数字を英語で読むというところが、我ながらなかなかイカしていると思います。その後、当時好きだった男の子もまさかの同じ読み方をしていたことが判明しました。運命を感じます。
四年生のある算数の時間、なんの説明もなく、短冊状に細長く切った二枚の紙が配られました。これはなんだとざわつく教室内。その二枚を、先生の指示に従って、斜めに重ねます。それを光に当てて、透かして見ると……なんと真ん中に平行四辺形ができているではありませんか!
そう、先生は、平行四辺形が平行な二組の辺から成り立っていることを見せたかったのです。これにはたいそう感動しました。この「紙で図形をつくる」シリーズは、二等辺三角形だの、ひし形だの、いくつかあったような気がします。
さて、授業に使ったこの紙の末路が困りものです。ゴミ箱に妙な形の紙片が大量に溢れることになります。こういったゴミというのは、きちんと捨てたつもりでもどこからか湧き出てくるようで、何日経っても掃除のたびに床やら棚やらに出現します。たいていクラスに一人は引き出しが汚い男の子というのがいて、学期末に引き出しを片づけると、奥から意味不明な平行四辺形やら三角形やらがわらわら出てくるんです。
この「平行四辺形」ですが、なぜ「平行四角形」ではないのか、当時は非常に疑問でした。未だに解決できていません。耳慣れない名前を覚えるのに、えらく苦労した覚えがあります。