第漆刻 〈遊ぼう? と少女が言った。〉
彼女が涙していた理由、それは端的に言えば存在に気が付いてくれる人が少ない寂しさに起因するものであるようだ。
しかし、それが分かったところで黎にできることは何もない。こうして話し相手になってみても、解決の糸口が見えなかった。
「私、死んだんですよね。だとしたら、どうしてここにいるんでしょう?」
ふっ、と表情を曇らせた少女が呟いた。
「原因として考えられるのは、死ぬ前に後悔したことがあるとか、何かを強く想っていたとかだけど……」
「……心当たり、ないです」
口元へ手を当てながら首をかしげるしぐさが可愛らしい。彼女がこの一帯を震撼させた張本人だとは、想像もつかないくらいだ。
黎は思わず視線を逸らした。
「……でも、何かあるはずだよ」
よく考え直してみて、そう促そうとした黎は、次の瞬間、己の耳を疑った。
「……っく、く、くクッ、ククくッ、クくククク……」
初め、嗚咽かと思われたその声は、次第にはっきりとした笑い声に変わった。
顔を上げて少女を見遣れば、彼女はその美しい顔を卑しく歪めてニタニタと嗤っている。
「ホント、下らない餓鬼だネ?」
にいっ、と口角を持ち上げると、黎の顎に指をかけた。そして、まじまじと黎の顔を見つめる。
視線を逸らそうとするが、金縛りにあったかのように体が動かない。――否、これが噂で聞く金縛りそのものなのかもしれない。
突然豹変した彼女に黎が反応しかねていると、少女はさも可笑しげに嗤いながら黎から離れた。
「けひ。おれに近付いてくるから何奴かと思ったら、ただの餓鬼じゃないカ」
不思議な嗤い方をするソレは、先ほどまでとは全く以て別の存在になっていた。
黎から離れたソレが、ふらふらと歩いて黎の視界から消える。
慌てた黎は、己の意志とは裏腹に硬直する体を動かそうと試みた。
「無駄無駄。おれには逆らえないヨ」
けひひ、と声を漏らすソレ。
どこまで見通されているのか、黎は不安になった。
そんな黎を他所に、ソレは黎の背後に立った。
少女のひんやりと冷たく細い指が、黎の首に添えられる。
ピクリ、と一瞬まぶたが震えるが、それ以上は動くことが出来なかった。
「遊ぼウ? おれと、遊ぶんダ。おれが勝ったらオ前をもらウ。オ前が勝ったらおれヲあげるヨ?」
けひひ、と嗤いながらソレは指に少し力を込めた。
少女の綺麗な爪が、黎の首に鋭く突き刺さる。
「夜に、ここへおいデ。オ遊びはそれからダ」
妖しく囁くと、ソレの気配がスッと消えた。それと共に体が解放され、気管に新鮮な空気が流れ込む。それと同時に冷や汗が全身から噴き出したのが分かった。
――どうやら、一体だと思っていた相手はそうではなかったようだ。かなりの厄介事に首をつっこんでしまったらしい。
荒い呼吸を整えて額の汗を拭うと、黎は師に報告をするためにすぐさま立ち上がった。