第伍刻 〈背後でダレかが嗤った〉
若干のグロ描写、流血あり。
ご注意下さい。
激しい頭痛に顔をしかめながら目を開けると、外はもう柔らかな朝日に包まれていた。
昨日は結局何があったのだろう。確か、背後からの衝撃で意識を失って……。
そうだ。昨日、確かにこの部屋に自分以外の誰かがいた。
侵入者が男か女か、若者か老人かも分からないが、確かにナニカがここにいた。ソレは私の背後に立っていて、私のことを殴ったのだ。
そういえば、殴られた所は大丈夫なのだろうか?
恐る恐る殴られた部分に手を当てると、嫌な感触と共にグチャリという音がした。
「ひあっ……」
思わず声を上げてその手を自分から遠ざけるが、その感触まで遠ざけることはできない。
手には、ぬらぬらと嫌な光を反射する赤黒くドロッとした液体が大量に纏わりついていた。
痛みがない分、奇妙な感覚に襲われる。
再度手を後頭部へ当てるが、やはりその嫌な感触とぐちゃぐちゃという生々しい音があるばかりだ。
傷は後頭部に広く深く存在していた。縦に長いその陥没から、どうやらバットか何かで殴られたようだと分かる。
人間は、限界を超える痛みを受けると痛覚が麻痺するという。その状態に陥ってしまっているということは、私も長くないようだ。
はぁ……短い人生だったな。こんなことになるならもっと遊んでおけばよかった。友達の誘いを断ってバイトを掛け持ちして、寝る間も惜しんで課題をこなして。
毎日があっという間に過ぎ去って行ったけれど、それを充実した生活だとは言い切れなかった。
何だか、後悔だらけだ。こういう状態で死んでいった人たちが浮遊霊とやらになるのだろうか。
だとしたら、私も怪しいな。
……なんてね。
そんなくだらないことを考える暇があるなら、とりあえず救急車だけでも呼んでみようか。もしかしたら間に合うかも知れないし。
私は、テーブルの上に置かれた携帯電話に手を伸ばした。
その時、背後で誰かが嗤う声が聞こえた。